番外289 境界公の区画整備
「――確認します。つまりこの屋敷を除いて、後は全て解体して構わないわけですね」
「はい。よろしくお願いします」
区画の俯瞰図を土模型で作り、シュウゲツ一家の屋敷の場所を確認。残りは解体してしまって構わない、と。その上で、どこに建物を建てるか等の案を練っていく。
カイ王子にも使用した土地の売却額は気にしなくていい、と言われているので、ここは自由にやらせてもらおう。
ショウエンはあまり金には興味が無かったらしく、余計な散財は――というか必要な浪費もしなかったようだからな。そこだけは国庫に余裕がある、という現状を生んでいるわけだ。
「それじゃ、僕達はみんなと魔道具を用意してくるかな。生活に必要な魔道具でいいんだよね?」
「そうなるね。シーカーでシリウス号側と相談しながら進めていこう」
「了解」
アルフレッドと頷き合う。
「ふむ。そうなると照明に水回りに……」
「後は……防音と空調あたりでしょうか。いやあ、腕が鳴りますね!」
アルフレッド、お祖父さん達とコマチはそうやって指折り数えながらシリウス号に戻っていった。何やら……随分気合が入っているような気がする。
さてさて。では始めよう。区画の端から順だ。シュウゲツの生家である屋敷は区画の外れ――大通りに近い方にあるので、逆方向からぐるっと解体していけばいい。
ウロボロスを構えてマジックサークルを展開。光球を浮かべると、建物の――屋根から建材を光球の中に吸い込むように溶かして、使われている素材ごとに再形成して排出、一旦ゴーレムとして作り替える。
頭から胴体、手足に至るまで四角で構成されたデザインのゴーレムだ。
ゴーレムは所定の場所に向かわせてから体育座りさせると、それだけで立方体のブロック状になる、という寸法である。
ゴーレムの上にゴーレムを積めるようにと、ブロックの縁にガイドもついていて安定感を増強させているあたりが、ちょっとした工夫といったところか。体育座りした時点でゴーレムの制御を手放しても問題ない、というのが利点だ。
解体する家を上から光球の中に溶かし、素材ごとにゴーレムに作り替え、並べて積んでいく。
「お、お嬢。こいつは……」
「あ、ああ。廃墟を解体して再利用と言っていたが……これは……予想外というか。なるほど。すぐに問題解決できると言っていた理由が、分かったというか何というか」
シュウゲツは一家の者の言葉に引き攣ったように笑って答える。
「凄い光景だな……。家が丸々溶けていくようだ。テオドール殿は当代随一の術者というのは分かっていたが……これは……」
カイ王子もまた、感心したように顎に手をやり、食い入るように眺めていた。
「ヒタカでも屋敷を作る時は面白かったのう」
「そうですね。見ていて楽しかったです」
にやりと笑う御前の言葉にユラがにこにこしながら同意する。イグナード王達もうんうんと頷いていた。まあ、楽しんでもらえれば何よりだ。
基礎部分までしっかりゴーレムに作り替えて、まずは一件解体だ。さて。どんどん行こうか。
建物の中に時折誰かの私物らしきものがあるが……それは誰かの忘れ物か。再形成せずに残し、兵舎に届けてもらえば良いだろう。
あっという間に漆喰、木、瓦等の素材ごとにブロックゴーレムが整列していく、が、それだけでは個々の家々から出た素材を近場に適当に並べただけだ。
それをグレイス達が運搬用のメダルゴーレムを使って、予め決めておいた物資集積所に、使いやすいように並べていってくれる。
廃墟を解体することでスペースが空いたので、そこを物資集積所とするわけだ。アシュレイやマルレーンがにこにこしながらメダルを埋め込んでブロックを運搬させたり、クラウディアやローズマリーがゴーレムを誘導したりしているのが見える。
そうして暫く作業を続けていると、往来に見学の人だかりも出来てきた。警備隊長達が誘導してくれているので、作業の邪魔にならない遠巻きの位置で見物しているようだ。
「これは一体、何事なんだい?」
「さっき警備兵の息子に聞いたんだけどね、どうもあの区画の建物を解体して、新しく何か作るんだそうだよ」
「孤児院って聞きましたよ。他にも何か作るようですけど」
「そりゃまた。流石はシュンカイ様だね。あ、作業しているのは西国から来たっていう?」
そんな内容の世間話も聞こえてくる。都に残っている住人の傾向から考えると、女性陣や年配の男性が多いかな。
そんな調子で区画にある建物のほとんど全てを解体。素材ごとに分解、集積する作業が終わった。
流石に区画のほとんどが更地になると……些かすっきりしすぎだな。都にぽっかり空白地帯が生まれたような印象だ。ここから逆に設備を立てて空白地を埋めていくまでが俺の仕事なわけだが。
「大丈夫そう?」
「ああ。これだけの素材があれば十分足りる。色々作れそうだ」
「良かったわ」
首を傾げるシーラに答えると、シーラが頷き、隣のイルムヒルトも微笑む。孤児院ということで、2人とも顛末が気になる様子で。
というわけで続いて魔法建築に移る。大型の建築物が幾つか作られる予定なので……道幅は広めの方が良いだろう。
まずは地下区画を整備。地下室も使えるように、ゴーレム達を起こして地面から掘り下げる。その上でしっかりと土台、基礎部分を作って構造強化で補強していく。
地下区画なので排水回りもしっかり整備していく。シリウス号側に連絡するとティアーズが必要な魔道具を運んできてくれた。導水管を敷設して水回りを整備。それから地上の建物部分を作っていく。
模型に従って基礎を作り、補強。それから壁だ。
「壁用の建材を送ってもらえるかな」
「これですね」
グレイスが頷き、物資集積所から輸送用ゴーレムでブロックを送ってくれる。それを壁にしていき――建物を作っていく。東国の建築も既にヒタカで作っているから慣れたものだ。ホウ国の様式に合わせて装飾や様式に違いを出すぐらいで問題ない。
一階部分には厨房、大食堂。管理人や警備の寝泊まりする部屋、応接室に医務室……多目的に使える広間、等間隔でトイレ等々、必要なものを作ったら後はずらっと区画の住民達の居室を作っていく。
2階、3階まで部屋を作っていけば、まあ十分な人数が寝泊まりできるのではないだろうか。
柱を立て、梁を通して構造強化。同時に魔石の粉やミスリル銀糸で魔力の回路を作り、魔道具等々を使えるように下準備だけしておく。
「このぐらいの強度でどうかな?」
「うんっ、大丈夫だと思う!」
部屋の中の温度調整と浄化。壁や床にも防音の術式が込められた魔石を埋め込んだりして……多人数で暮らす事で考えられるストレスを軽減するというわけだ。
照明はコルリスに結晶を作ってもらい、そこに光源を仕込む事で水晶灯とする。部屋ごとの住民が壁に埋まった魔石に魔力を注いでやれば各種魔道具の維持が可能、というわけだ。
大浴場も同様だ。湯沸し等々は魔道具仕様である。
窓にガラスをはめて、瓦屋根を作れば、建物部分は完成。続いて建物の前に運動ができるだけのスペースを作り、敷地を壁で囲えば……それで一先ず、一棟目が完成だ。
男子寮。女子寮。それから孤児でなくても利用可能な、宿泊と医療設備付の訓練所……それから、大浴場というか……銭湯は別に作る。
公共の施設だから、連結しながらも独立した公衆浴場として作ってしまって構わないだろう。
男子寮と女子寮の間、訓練所の向かいに建築することで、孤児院からは敷地内から出ずにそれぞれ男湯、女湯に入りに行ける形となる。向かいの訓練所からも出てすぐに大浴場に向かえるということで。
そうして予定通りに、区画に住んでいた人間達を収容して余裕があるぐらいの設備が出来上がる。建築様式としては多少のアレンジはあるものの、見た感じではホウ国では割と伝統的な様式に近いものである。塀も門、屋根や柱の装飾等々も中々良い仕事ができたと思う。
「これほどの設備になるとは……。素晴らしいな」
「廃墟が素材になったなんてとても思えないわね……」
カイ王子が言うと、セイランが建物を見上げて茫然と呟き、リン王女がにこにこしながら頷く。
「あっという間に更地になって……もうこんな建物ができてしまうなんて」
シュウゲツが呆けたように言う。
「僕としては、是非シュウゲツさんのお屋敷の修繕もしてしまいたいのですが。契約内容にはありませんでしたが、お話を快諾してくれなければ、こうして建物を色々と作る事もできませんでしたから」
「わ、私達の屋敷も、ですか?」
と、戸惑いを見せるシュウゲツ。頷いて言葉を続ける。
「この区画の建物をそのまま利用できたのも、シュウゲツさんの今までの行いを引き継げるようで、楽しかったですからね。そのお礼ということで。ショウエンが見せしめでやったことを、そのままにしておくのも気に入りませんし、カイ殿下も報酬を約束してくれていますからね。シュウゲツさんはどうか、遠慮なさらず」
そう言うと、シュウゲツは押し切られたのかおずおずと頷いた。
よし。では、シュウゲツの屋敷も新品同様に修繕してこようではないか。




