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番外275 未来のための出撃

 ショウエン達はここ最近、墓所で色々怪しげな実験やらもしているらしく一度出ると中々戻ってこない、というのがサトリからの情報だ。


 だからと言って油断はできない。ショウエン達がいつ戻ってきても対応できるよう……というよりも戻ってくるのがこの場所であるから待ち伏せが可能なように、シリウス号で北方に警戒を払いながら要所要所に魔石を埋め込み、ミスリル銀線と魔石の粉で魔力を誘導。結界の魔法陣を構築する。都全域を防御可能な状態にしておくためだ。


 魔獣の群れによる襲撃を偽装したお陰もあって、街は1人も出歩かずに窓を閉め切って静まり返ったような有様だ。警備兵も協力的で作業は滞りなく進んでいく。


 仮に……今戻ってきた場合でも、常設型の結界ではなく、一時的な結界に閉じ込めてそのまま戦闘に突入できるようにしている。相手が少数であると分かっているからこそできることではあるが。


「テオドール、こちらは終わったぞ」


 と、お祖父さんが担当していた場所の作業が終わったと教えてくれた。


「ありがとうございます」


 タームウィルズから援軍を呼んだのだ。ショウエンとの決戦目前ということで、七家の長老達が来てくれて、結界構築の作業を手伝ってくれている。

 まあ、お祖父さん達には顔を合わせるなり、表情も明るくハグをされたりと、かなり熱烈な再会の挨拶をされてしまったが。


 現在……宮殿の一角に月女神の祭壇を作り、都をクラウディアの転移を可能な状態にしてある。

 祭壇の場合は転移門とは違うので、クラウディアの協力なしには転移できない、というのがメリットだ。こうすれば敵に転移用設備を奪われる心配がない。

 攻める場合でも守る場合でも後顧の憂いを無くし、臨機応変な対応ができるようにしておく。時間の許す限り、やれることはやっておく。


 見張りと結界構築。転移周り。宮殿内の調査……。こうした作業をみんなで手分けし、急ピッチで進める。結界はできるだけ強力なものにしたい。魔石等々の資材に関しても出し惜しみは無しだ。


 そうして結界敷設のため作業は一段落し、後は結界を展開するだけ、という頃合いになって通信機に連絡が入った。

 宮殿内部を調査していたゲンライ達からだ。書簡やら研究資料の中に気になるものがあった、という事である。


 早速宮殿へ向かうと、アルフレッド達と、テスディロスとウィンベルグ。エインフェウス王国からイグナード王とオルディア、レギーナ達とも顔を合わせる。


 イグナード王達も、援軍として来てもらった形だ。というか、寧ろ本人達が援軍に来ることを強く望んだ、というか。

 イグナード王としてはベルクフリッツの一件に端を発する事件であるからだろう。立場がなければ最初から最後まで同行したがっていたぐらいだし、テスディロス達としては相手が仮に魔人であろうとそうで無かろうと、援軍としての参加を望んでいた。


「おお、テオドール……! 元気そうで何よりだ!」

「や、テオ君」


 と、イグナード王が顔を合わせるなりにやっと笑う。アルフレッドはいつもの調子で飄々としていたが。


「皆さんもお変わりなく。挨拶が遅れて申し訳ありません」

「いや、事情は聞いている。優先事項というものがあるからな。気にする必要はないぞ。イングウェイに手助けを任せてしまってエインフェウスで悶々としておったが、これでようやく借りを返せるというものよ」

「陛下はお忙しい身ですからな。私としては、陛下の代行としてエインフェウスの受けた恩をお返しできるわけですから、とてもやりがいのある仕事と思っておりますよ。修行にもなっておりますし」


 満足げに頷くイグナード王とイングウェイである。それを見てオルディアとレギーナが微笑んでいたりして。


「ふむ。後はショウエンとその重鎮だけ、ということになるのか。これだけの戦力を揃えたからには有無を言わせず、一気呵成に仕留めたいところではあるが……」

「まだいくつかの懸念材料も残っている様子。油断はなりませんな」


 テスディロスやウィンベルグもそんな風に言って頷き合っていた。状況把握と情報の共有に関しては問題ないようだ。初対面の顔ぶれの紹介も終わっている。カイ王子は転移で集まった援軍の面々に、相当な感謝をしていた。

 ヴェルドガル、シルヴァトリア、エインフェイス、ヒタカノクニからの援軍ということになるわけだからな。改めて見ると相当な顔触れである。


「それで……宮殿で何か気になるものを見つけたという事ですが――」


 挨拶もそこそこに視線を巡らすと、ゲンライとカイ王子、リン王女が宮殿の奥からやって来るのが見えた。


「おお、作業を中断させてしまったかのう?」

「いえ。こちらの作業は終わりましたよ。大丈夫です」


 そう言うとゲンライは静かに頷く。


「宮殿の奥で気になるものを見つけてのう。皇帝の居室なら何かあるかと思って調べてみたのじゃが」


 なるほど。カイ王子やリン王女なら宮殿内部の間取りにも詳しいだろうしな。

 というわけでゲンライ達と共に宮殿の奥へと向かってみると、皇帝の居室のあちこちをひっくり返し、レイメイやセイラン達が紙束やらに目を通していた。


「ショウエンの門弟らの報告書が残されておった。これはショウエンに研究の経過や概要を伝えるものなので平文で書かれておってな。研究資料の方は案の定符丁や暗号が使われておったが、そちらの解読にも役立つかもしれんの」


 報告書か。それは確かに……参考になりそうだ。


「墓所に関する内容も幾つか見つけたぞ。これに関しちゃ、墓所の研究を任されてる高弟らの報告、ってことになるんじゃねえかな」


 レイメイがそう言って、報告書をひらひらと振りながら内容を説明してくれた。


「どうも連中、土に埋まっている遺跡――墓所全体の発掘をしているらしいな。奥に通じる封印の他に、防衛用の……人形みたいなものが複数出てきたらしい。そいつらを解析して、利用する目途が立った……だとか」

「つまり、墓所防衛用のゴーレムや魔法生物のようなものをショウエン達が利用できるようにする、と?」

「そういうことになるだろうな」

「まだ研究段階と見ておくよりは、実用化している、と思っておく方が良さそうね」


 ローズマリーが肩を竦める。そうだな。楽観的に考えるべきではない。

 また……面倒だな。だとするなら……都に戻ってくるところを待ち伏せて叩くというのが正解かも知れない。状況がそれを許すなら、ではあるが。


「それから……封印を破るための方法についても見つけましたよ」


 セイランの言葉に、みんなの視線が集まる。


「報告書を読み解くと、ショウエンはどうも各地の混乱を広げ、戦乱を維持するように命令をしたようです。それを受けて各地に伝達が出され……。怨嗟や憎悪――陰の力を集めて陽なる封印を砕く力とする、とあります。墓所に設置した水晶にその力を集積していて、その度合いに関する報告ですね」

「これが……ショウエンが各地との戦いに本腰を入れて来なかった理由、でしょうか」

「イシュトルムも……盟主の封印を同じような手で破りましたね」


 グレイスが眉根を寄せ、アシュレイもやや心配そうに言う。


「陰……負の力の集積が十分なら、封印を力技で破ってくる可能性は有り得るわね」


 クラウディアが険しい表情になる。


「気になるのは、この方法がショウエンの掲げる理念とも合致する、という一文かな」


 と、カイ王子がやや気になる事を言う。正規の方法で封印を解く手段を捜索しつつ、強行突破の手段も模索する。これは一応、封印を解く手段として可能性を想定していた部分はあるが……理念? 理念だと?


「戦乱の世にすることが、ショウエンの理念……理想に沿う?」

「理念、とはまた。どうしてそれ自体が目的になるのかしらね」


 シーラが首を傾げ、ステファニアも顎に手をやって思案する。マルレーンも納得しにくいところがあるのか、一緒に怪訝そうな面持ちを浮かべていた。


「ショウエン自体は私腹を肥やしたりというのはあまりしていない、のよね?」

「そうらしいが……」


 イルムヒルトも納得いかないところがあるのか、首を傾げていた。戦乱の世を維持して国力を衰退させる。そんなことに意味はあるのだろうか?

 ましてや、自分が王朝の主としての立場だというのに。例えば仮にショウエンが魔人であり、負の感情を食っているのだとしても……理念という言葉には腑に落ちにくい部分があるというか……。


「報告書の結びにそうある。高弟から師に対しての賛美の言葉だから、研究の本筋とは関係ないが、少し……いや、かなり気になる部分ではあるね」


 そうだな。今まで見えていなかったショウエンの目的に通じる内容であることに間違いはない。或いは……仙人であるからこそという理由がそこにあるのか。ゲンライも納得がいかない様子ではあるが。


「ユラ様……!」

「――あ、ごめんなさい。アカネ……私は、大丈夫」


 それまで静かに話を聞いていたユラが、ふらりと崩れ落ちそうになる。アカネが慌てて、その身体を支えていたが、少し青い顔色になったユラは目を閉じて額に手をやりながらアカネに大丈夫だと答えていた。

 そうして目を開き、俺を見て言う。


「何か……ここに来てショウエンに繋がるものが沢山あるせいか……この先にある未来の……可能性が見えて……」

「……何が見えたんですか?」


 予知能力を持つユラの場合は、重要な情報が含まれている。予知が発現したというのなら、耳を傾けるべきだ。


「大きな影が動き出して……私達や都の人々ではありませんが、沢山の人が、犠牲になる……そんな光景が……見えました。ええと……天幕で暮らして、羊を飼っている人達が……沢山……」


 ユラはその光景を断片的にでも見てしまったのか、辛そうにかぶりを振っていた。


「恐らく……それは、北方に住まう遊牧民じゃな」


 ゲンライが眉を顰める。

 大きな影というのは……。始源の宝貝か? 遊牧民相手なら自分の正体も隠したままにできるからと実験でもするつもりか。……ろくでもない。


「封印が……破られそうになっているのかも知れないな。そうなると、こっちから墓所のショウエン達に攻撃を仕掛けるべきか」

「そう……。そうなのかも知れません。私が見た未来はまだ確定的なものではなくて……私達の選択によって遠ざけることができるものです。こういった人為的な惨劇は、私達の働き次第で止められるというのを何度か体験してきました」


 そう言って顔を上げるユラの表情は、決然としたものだった。

 そうだな。一般に攻めと守りなら守りの方が有利だ。理想を言うならショウエン達が戻ってくるところを結界に閉じ込めるということで有利な戦況を構築する、という作戦を練っていたが……そういう未来が見えてしまったというのならば、こちらから攻め手に出るまでだ。

 幸い、結界や転移拠点の構築など、状況変化にも臨機応変な対応できるようにしてあるわけだし、後ろの事は心配せずに攻勢に出られる。


「ふむ。援軍に来た甲斐があるというものだ」

「こちらから攻撃するというのなら、戦力増強は丁度良いものであったな」


 テスディロスとイグナード王がそう言って不敵に笑う。2人の言葉を好ましいものと感じているのか、レイメイも牙を見せて笑った。

 そうだな。このまま待ち伏せていては封印が破られてしまうと言うのなら、ショウエン達だけでなく防衛用の人形らなども諸共に粉砕するまでだ。


「――行こう。行って、終わらせてこよう」


 みんなを見回して、言う。俺の言葉に、みんなはそれぞれ闘気や魔力を漲らせるようにして戦意も露わに頷く。

 では、結界を起動させたら出陣だ。北方の墓所を攻め落とし――ショウエンを叩き潰す。

いつも拙作をお読み頂き、ありがとうございます。


読者の皆様の応援のお陰で、書籍版境界迷宮と異界の魔術師7巻の発売日を無事迎えることができました!

日々の応援、感想、ポイント等々、いつも励みになっております。改めてお礼申し上げます。


また書籍版で毎回恒例になっております「あとがきのアトガキ」に関してですが、

今回の内容は裏話ではなく、おまけSSとなっております。


活動報告にてあとがきのアトガキに関する案内もしておりますので

興味がおありの方は、そちらも合わせて楽しんでいただけたら嬉しく思います!


今後ともウェブ版の更新共々頑張っていく所存ですので、

これからもどうぞよろしくお願い致します!

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