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番外267 王の務め

 往々にして戦いよりもその後の処理の方が面倒と言われるところではあるが。

 今回の場合は最初から遠慮なしに仕掛けた事であるとか、それに本人が倒れたことにより、残りの連中も諦めてくれたようだ。武器を捨て、降参の意思を示していた。


 砦の兵士達も協力してくれたのでシリウス号側としては負担もない。


 精鋭だと言うので……念のためにライゴウの昔からの部下はいないかと聞いてみたのだが、出世欲が強い輩や、武芸などで力を付けることに貪欲な輩は混ざっていても、どうも暗殺事件に関与したような者は他にいないようだ。


 暗殺事件の折に襲撃してきたのは山賊に偽装していたというし……直接の仇はライゴウなのだろうが……そうなるとあの頭目には魔法審問で聞いてもらうことが1つ増えたな。

 裏の仕事をさせるならできるだけ少数の方が良い。情報というのは関わる人間が多くなればなるほど末端から漏れるものだからだ。


 ならば本来、動かすなら頭目だけでも良かったのだろうが……ライゴウをわざわざ差し向けた理由は……そうだな。表舞台でも動かす事ができて裏切らない理由を持つ部下が必要だった、というところだろうか?


 だがまあ、そういう敵将兵の事情や事後処理よりも、カイ王子とリン王女の方が遥かに気にかかる部分ではあるのだが。

 仇を討ったばかりということでそっとしておいてあげられたら良いのだが、カイ王子に関しては立場があるためにまだやらなければならない事がある。


 2人はライゴウを倒してから傷の治療を行い、状況が落ち着いた後で……しばらくの間、父への黙祷を捧げるような……そんな仕草をしていた。

 この場に暗殺事件に関わった者はもういないと分かった時の、少し安堵したような表情が印象的だった。

 確かに、戦いの最中ならば命の取り合いだ。そこで断罪は出来ても、制圧した相手を改めて処断となると気が重い、というのは分からなくもない。


「確かにこの者達は攻め手として奇襲を仕掛けてきた。しかし……元は徴用された農民で、ショウエンに逆らう余地などなかっただろう。厳しい訓練に耐えてきた精鋭ならば、軍規には忠実なものだ。罪が明らかである者を除き、できるだけ慈悲のある対応をしてやって欲しい」


 そんなカイ王子の言葉に、砦の武官や兵士達が尊敬の眼差しで応じる。


「はっ! ならば、この者達は捕虜ではありますが、カイ殿下の臣民でもあります!」


 可能な限りカイ殿下の意に沿うようにすると、そう言って武官は包拳礼で応じていた。

 捕虜となった将兵達も何か感じ入るところがあったのか、カイ王子に尊敬や驚きの入り混じった視線を向ける者もいる。


 カイ王子の下した沙汰に関しては……俺は勿論、ゲンライやレイメイ、セイラン達も特に何も言わない。今後の――カイ王子の為政者としての選択だからだ。ただみんなもそんなカイ王子の選択が好ましいものだと思っているのは表情を見れば間違いないだろう。

 晴れやかな表情を浮かべてカイ王子とリン王女を迎えると……王子もまた静かに、少し甘いだろうか、というような笑みを浮かべて応じる。


「では、後の事は砦の者達に任せ、儂らはシリウス号に戻って休むとするか」

「そうですね。大分働きましたし、のんびりと休ませてもらいましょう」


 夜襲に備えて大分夜更かししたと言うのもあるからな。もう今日の夜は何も起こらないとは思うが――監視の目としてティアーズや子カボチャらを残しておけばとりあえずは問題あるまい。




 そうしてシリウス号に戻り、順番に風呂に入ったりしながら艦橋でみんなが揃うのを待つ。

 カイ王子とリン王女には……優先的に船の風呂を使ってもらい、後は船室で静かに時間を過ごしてもらう。仇討ちを終えたばかりだし、心を落ち着けて気持ちを整理するために、そっとしておいてやる時間はどうしても必要だからだ。


「それにしても、カイ殿下もリン殿下も、切り札は相当なものでしたね」


 静かな艦橋でそう話しかけると、ゲンライは静かに頷く。


「カイは――あの若さで瞬間的にとはいえあれだけの仙気を練って放出する事ができるというのは、日々真面目に厳しい修行をこなしておる証拠じゃな。目指すものがある故の賜物であろう」


 合同訓練を行ったり作戦を練る上で何ができるというのは一応聞いている。カイ王子の切り札は練った仙気を何種類かの用途で放出する事ができるというものだ。

 その他に道士として呪符や退魔法を身に付けている。体術、武術もまた、仙人としての修行の一環であるからこのあたりもきっちり師匠であるゲンライやセイラン達門弟と訓練を重ねている。


「リンの方は……武術に関しては鍛えてもまだ中々難しいところがあるだろうな。しかし、術に関しちゃ退魔法はかなり高位のものを身に付けているようだな」


 レイメイが言う。


「ふむ。リンに関してはまだ幼いというのがあったからのう。ならば護身用と……後は本人の希望通り、兄の補助や連携で力を発揮できるような術を、と思っての。その結果として少々教えた術に偏りがあるし、仙人を目指すための修行とはまた違うものになってしまったが……。まあ、術の才能に関しては相当なものじゃな。教えたものをしっかりと身に付けたのは本人の努力による部分が大きいが」


 幻術や身代わりの術等は自分や兄の身を守るため。それらの術で自分の安全を確保した上で、儀式を必要とする術の時間を稼ぎ、敵の動きを封じる。

 更に切り札として兄と力を合わせる事で大きな力を発揮する術を……と。


「教える術が偏ったとは仰いましたが、2人の事情に合わせて戦法まで考え、必要な術を厳選して教えた、ということですね」


 才能はあっても身に付けるには時間が必要で、それには限りがある。

 それでもゲンライの教えた事にしっかり応えて結果を出したというのは……師としての指導の良さもあるし、当人達の努力や目的意識の成す結果なのだろう。


「ふむ。好意的に言うならそういう事になるかも知れんが」


 と、ゲンライは苦笑する。


「儂としては修行そのものよりも、それを通して教えたいものというものはあるのじゃがな。ジンオウのこともある。師として正しい姿勢を弟子に見せていることができておるのか、迷う事ばかりじゃよ」

「それは何と言いますか……カイ殿下とリン殿下に関して言うなら、問題ないのではないでしょうか。2人の人柄もそうですが、信頼しているからこそ安心して修行に打ち込める、というのはありますし、だからこそ結果を出せたのだと思います」

「そう言ってもらえると嬉しいがの」


 ゲンライは穏やかに笑った。

 2人を引き取ったのがゲンライでなければ。カイ王子にしてもリン王女にしても今とは考え方等も多分違っていただろう。

 だからきっと。ゲンライとの出会いやそこからの日々は……2人にとって良いものだったのだと、そう思う。


 それに。今回のライゴウについては、ショウエンと戦う際に不意に遭遇するより随分と良い条件だった。罠や待ち伏せのような準備ができていたという話ではなく……カイ王子とリン王女が、仇が来ると分かった上で、心の準備を整えた上で戦うことができたというのが大きい。


 そうなってくると、後の気がかりは……未だに見えてこないショウエンの目的、3人の高弟……墓所について。それから出奔したゲンライの弟子であったジンオウについても気になるところだ。


 ジンオウを知るゲンライやセイラン達が才能に関しては天才的だったと言うほどなのだから。それがショウエンの下について、今どうなっているのやら。

 ゲンライも師として……やはり気にしているようだしな。俺はジンオウの人となりを知っているわけではないが……何かできることがあるのなら、良い方向に落ち着くように動いていきたいとは思う。

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