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境界迷宮と異界の魔術師 作者:小野崎えいじ
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94表 剣の舞

 俺はウロボロスを構えたままルセリアージュと相対する。向かい合うルセリアージュの頭上後方に、金色の剣が、隊列を組むように規則正しく並ぶ。その数、24本。もっと増やせるのか。それともあれが限界なのか。

 こちらは――1人での相対となる。非常事態に備えてカドケウスはあちら側に付けているからだ。もしもの時は赤転界石をカドケウスに使わせて、皆を離脱させられるようにしている。神殿には怪我人が出た時の為にロゼッタ他、治癒術師が多数待機しているしな。

「では――始めましょうか」

 涼しげな笑みと共に。
 猛烈な勢いで金色の剣が射出された。
 頬を掠める風切り音。1本、2本、3本。ウロボロスで軌道を逸らし、身をかわしながらも前に出る。離れていては奴を吹き飛ばす事が出来ない。

 間合いを詰める。ルセリアージュの顔が喜悦に歪んだ。背筋を貫く悪寒とは裏腹に、俺まで顔の形が笑みに歪んでしまう。
 このまま真っ直ぐには突っ込めないと判断。レビテーションで慣性を殺して右上へと飛ぶ。
 案の定というか、寸前まで俺のいた空間を横と真後ろから刺し貫くような形で剣が通り過ぎて行った。
 一度は飛んでいったはずの金色の輝きが、時計の針のように回転。再びこちらに狙いを定めて射出される。

 上下左右。四方八方から刹那にタイミングをずらして飛来する剣の弾丸。回避する空間そのものを制圧するかのような攻撃。
 真っ直ぐ最短距離を貫く剣。回転しながら飛来する剣。弧を描いて広範囲を薙ぎ払ってくる剣。
 側転、転身。飛翔に降下。近付けない。近付けない。
 ルセリアージュは指揮者のように腕を振り、剣の動きを完璧に統制している。

 ウロボロスでの迎撃。弾き飛ばす事は出来るが、砕けない。
 広めにシールドを展開して攻撃力の程を確かめてみるが、射出する攻撃は普通に展開したシールドならあっさりと貫通してくる。「斬撃」は防げても、弾丸のような「刺突」は片手間の盾では防げない。

 加えて、立体的で同時多面的な攻撃。制圧力と殺傷力は他に類を見ない程凶悪だろう。
 分身による幻惑も、恐らく全て諸共に攻撃してくると予想される。それでは意味がない。制御力を無駄にするだけだ。
 大きな魔法を当てれば――魔法の種類によっては剣を粉砕できるのだろうが、それではこっちの息が続かない。大技を放つ為の魔力は身体の中で練り上げておく必要がある。

 ならば、どうするか。

「へえ」

 ルセリアージュが目を丸く見開く。驚きと喜悦の入り混じった表情だ。
 身体の周囲、全方位にごく薄いシールドを展開する。
 防御面では期待出来ないが相手の剣が触れてシールドへの接触が伝われば、見なくても攻撃の方向と種類を特定出来る。

 魔力防壁による結界。攻撃の感知。それにより最速、最少の動きで剣を捌きながら、ルセリアージュに迫る。
 頬を掠める刃の気配。大きく避けていては間合いを詰められない。多少の切り傷は必要経費と許容するべきだ。

「面白い!」

 間合いを詰められると見たルセリアージュは、笑みを深めて自ら前に出てくる。
 両手の指先から、掌と一体化したような剣が生まれて、代わりに2本の剣が風に散った。その周りを忠実な従者のように付き従う、22本の剣、剣、剣。

 手刀を放つような斬撃。腕の動きに連動するかのように。何本もの剣が連なってまとめて閃き、巨大な斬撃となって首から上を薙ぎ払ってきた。
 上体を屈めてやり過ごす。掬い上げるように竜杖の反撃を繰り出す。ルセリアージュが手の剣で受ければ、ぶつかり合って金属音が響いた。
 ルセリアージュが鍔迫り合いで押さえつけてくるような動きを見せる。抵抗せず、逆らわずに後ろに飛ぶと、展開していた剣がその空間を刺し貫いていく。

 距離が開く。ルセリアージュが手を振るうと、靄のような金色の瘴気が広範囲に広がった。
 代わりにルセリアージュの周囲に浮かんでいた剣が何本か消失し、その代わりとでも言うように、あちこちから瘴気が凝縮、剣の形を取ると飛来してくる。通り過ぎるとすぐさま消失。どこか別の座標で凝固して発射。

 剣による十字砲火とでも言えば良いのか。ルセリアージュの扱う飛剣の数は24まで。それは確定のようだ。どちらにせよ、こちらのするべき事は変わらない。シールドによる全方位感知が可能である以上は、避けきれない攻撃ではない。
 多少の被弾も覚悟の上。避けきれない攻撃だけをウロボロスで弾いて迫る。身体ごと叩き付けるようにルセリアージュにぶつかっていく。

「その若さで――どんな生き方をしてきたのかしら。興味が尽きないわ!」

 ルセリアージュは剣を使っての近距離格闘戦もこなせるらしい。異名は伊達ではないと言う事か。両の剣で流れるような剣舞を見せてくる。ゼヴィオンの本質が力なら、ルセリアージュのそれは技。

 杖と剣をぶつけ合いながら、引っ切り無しに飛び交う刃の中を、踊るように飛び回る。天地逆さになったままで幾度か打ち合わせ、離れ際に火球を叩き込む。
 風車のように回転する剣がこちらの魔法を弾き散らす。再びどちらともなく突撃してぶつかり合う。
 剣では――防げない攻撃を。

「行け!」

 土と風の複合、第5階級魔法グラインドダスト。硬質の粒子を高圧の風の輪に閉じ込めて放つ事で。触れた物体を削り散らす風の戦輪だ。
 至近から放ったそれをルセリアージュは大きく上体を逸らして避ける。避けた方向に――被せるようにウロボロスによる一撃を見舞った。

「ぐっ!」

 ルセリアージュは剣で受ける事も出来なかった。腕を交差させて、咄嗟の防御態勢を取る。奴の身体が弾き飛ばされるが、こちらも追撃出来ない。目の前の空間を金色の煌めきが薙いで行ったからだ。
 だがまだだ。俺のグラインドダストは生きている。弧を描いて戻ってくる戦輪を、ルセリアージュは剣ではなく、瘴気による防壁で受けた。削れるような音と共に火花が散る。

 ゼヴィオンのように耐久力に優れているわけではないだろうに。奴は笑いながら前に出てくる。
 間合いを取り続ける事が出来ない以上は近距離戦に付き合うしかないと言う事なのだろうが。

 近距離戦で矛を交え、同時に飛剣で攻撃を仕掛ける。それでこちらの集中力を削り切れば勝てると踏んでいるわけだ。
 だからこちらも笑って、思い切って踏み込んでいく。奴自身の身体を盾にすれば、同時多面的な攻撃を仕掛けられると言っても攻撃の種類が限定されてくるからだ。
 要するに、至近戦にしか活路はない。こちらはグラインドダストを3つ、4つと放ち、奴に防壁を張らせる事で制御能力を互いに奪い合う。

 踊る踊る。目まぐるしく天地を入れ替え、攻守を入れ替え。受け流し流されては転身、打ち落としては跳ね返り。
 熱狂と、愉悦で思考が真っ白になっていく。どの程度の傷を負っているのかは定かではないが、動きに影響が出るような被弾はない。
 ぎりぎりの距離を掻い潜り、傷を負う事と引き換えに。こちらの攻撃も奴に通している。お互い細かな手傷を与えながら命を奪い合う。削り合う。

 グラインドダストを横合いから肉薄させ、障壁で防がせる事で逃げ道を奪う。
 突貫。横合いから飛来する剣。今。この時だ。
 これを避けていては攻撃が当てられない。その攻撃力と勢い。貫通力の高さが――仇だ。
 自身の左腕を貫通させ、ルセリアージュに触れられる程の距離まで腕を伸ばす。驚愕に目を見開くルセリアージュの、脇腹目掛けて雷撃をぶっ放す。

 ダメージの度合いは確かめない。一挙動に全身で捻りを加えて、魔力を集中させたウロボロスを打ち下ろして叩き付ける。左肩に直撃。切り返しての腹部への刺突。どれも十分な手応えがあったが、それでもルセリアージュは止まらなかった。
 最初の魔法を食らう事が避けられないと分かった時には、次の一発も食らう事も折り込み済みだったのだろう。歯を食いしばってそれに耐えている。

「がああああああああっ!」

 裂帛の気合。両腕の剣を交差させて力任せに俺を後方へ弾き飛ばす。
 飛び交っていた剣がすべて消失。頭上に掲げた掌の上に――剣と呼ぶのも馬鹿馬鹿しい、巨大な刃が出現した。均衡が傾くような手傷を負った以上は、自身も勝負を賭けるしかないと――。

「人の身でこれ程までの研鑽! 心底から、殺してみたいと思える相手は初めてだわ!」

 24本分の制御能力をその全てを。ただ一本の剣に込めて投擲してくる。
 巨大さに反比例するような猛烈な速度。多重のエアブラストで回避するが、ルセリアージュは歯を食いしばると腕を振り上げる。向こうにとっても無茶な攻撃なのか、ルセリアージュの腕から血がしぶいた。

 自身の防御さえ考えていない。滞空していたグラインドダストで体を削られながらの、捨て身の攻撃。巨大な斬撃が、下から馬鹿げた速度で迫ってくる。
 避けられない。ウロボロスに魔力を集中させ多重にシールドを展開。

「おおおおおおおおっ!」

 ウロボロスを両手で構えて受ける。左腕の感覚は無いが、シールドで補強するようにして無理矢理支える。斬撃の衝突。身体ごと流され、外壁に激突する。
 その寸前、背中側にもシールドを展開して壁と刃の間で耐える。耐える。ウロボロスが苛立たしげに唸り声を上げる。
 軋む。押し潰されるような圧力。次々とシールドを重ねて補強し続ける。外壁に、罅が入る。手の微細な血管が破裂したか、血がしぶき、骨が軋む。

 それはルセリアージュも同じ事。脇腹と、肩口に見舞った一撃。更にグラインドダストの傷。それほど浅いものでもない。

「ぐ……!」

 揺らいだ、刹那の一瞬。圧力が緩んだ隙を見て上方に離脱する。足元を薙ぐ気配と共に、轟音が響いて外壁に巨大な亀裂が走った。巨大剣が消失する。

 ルセリアージュは左腕をだらりと下げて、肩で息をしながらもまだ笑っていた。再度展開する剣の群れ。本体が傷を負っても、その統制には些かの乱れもない。流石に先程の巨大剣を再度放つ事は出来ないだろうが――。

 マジックサークルを展開する。左腕の傷は――無理矢理ではあるがシールドにより補強と止血をしているから問題ない。
 だが、ルセリアージュは殺傷能力に特化している。この状態からでも詰めを誤ると押し切られるだろう。この状況で使うべき魔法。勝負を賭けるべき魔法は――。
 全身を覆うように、巨大なマジックサークルが多層展開する。

 風、雷複合。第9階級魔法テンペストドライブ。全身に雷と風の障壁を纏って超高速飛行を行い、突進攻撃を行うという……。
 本来は緊急回避と攻撃を兼ね備えた魔法だ。

「そんな直線的な魔法で……私の飛剣を掻い潜れるものか!」

 相当な上級魔法のはずだが。こちらの発動しようとしている魔法を知っているのか、ルセリアージュが苛立たしげに吼える。だが、バトルメイジの使うこの魔法を、普通のそれ(・・)と同じだと思わない事だ。
 発動した瞬間、猛烈な勢いで景色が流れた。レビテーションと、魔力の循環による身体強化。それらとテンペストドライブとの併用。

 雷よろしく鋭角の軌道を描く。紫雷の軌跡を残しながら飛来する剣の群れの間を縫うように飛ぶ。ルセリアージュが目を見開く程の速度と機動。
 大技を放ったばかりのルセリアージュには、これを跳ね返すだけの力技は繰り出せない。本体があれだけの傷を負えば、満足に回避も出来まい。

 肉薄する俺に合わせるように剣を飛ばしてくる。統制は出来ていても先程ほどの威力が無い。殆どを魔法の威力のみで弾き散らすが、その内の1本が障壁を突き破り、俺の肩を貫通していく。
 だが、それが今更何だ。殺せないなら――お前の負けだ。

「ああ、何て――素晴らしい」

 捉えた。2度、3度と往復してルセリアージュの身体を木切れのように跳ね飛ばす。
 鋭角に曲がり、うっとりとしたような表情のまま、両手を広げているルセリアージュ目掛けて真っ直ぐに突っ込む。

「貫け!」

 ウロボロスの咆哮。腕に伝わってくる、致命的な手応え。
 暴風と雷撃でその体を引き裂きながら、広場のど真ん中目掛けて。
 諸共、弾丸のように飛んでいく。

 柱を砕き、地面を抉り削りながら進んで精霊殿の壁を粉砕する。
 両腕に伝わる衝撃と共に、術を解く。大きく弧を描いて後方に飛んで、着地する。
 術の反動。無茶な機動の代償として、全身に軋むような鈍痛が残るが――奴は立ち上がっては来なかった。
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