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番外252 罠と索敵と

 イチエモンとゴリョウ達がぐるりと砦を回ってみれば目立たない位置にいくつか、壁を登るためのルートが作られていた。北側ではなく、東側の壁にはいくつか集中して工作してあり、北から来る敵に目を向けさせて手薄になったところを東から侵入するつもりだった、というのが窺える。

 ともあれ、見つけた以上は捨て置けない。それらの一定の高さにゴーレムの制御メダルを埋め込み、ルートを使った場合は途中でゴーレムに拘束されることになる。


 門とその周辺も構造強化でしっかりと固め、ゴーレム化して破損を再生可能に改造する。


「強度と再生能力を少々試します」


 そう言ってマジックサークルを展開。ソリッドハンマーを作り出すと案内役の副官がひきつったような表情を浮かべて少し遠くに離れる。周りに兵士達がいないことを確認してから門にソリッドハンマーを叩き込む。凄まじい音がして門の金属部が少し歪んだが――見る見るうちにゴーレムによって修繕されていった。


「壁のあれといい、面白い仕掛けだな」

「前にも同じような仕掛けを作ったことがあるので、その時の流用ですね。多少破損が見えたかなというところで修繕を開始するので、敵の消耗と足止めを狙う意味合いもあります」


 楽しそうに笑うレイメイに答える。前回砦を作った時の制御術式の流用ではあるが、この砦でもしっかり機能してくれている。まあ……流石に前の時のように、内部丸ごと迷路化するには時間が足りないが。

 とは言え、この分なら――敵の技量にもよるが……ショウエンの陣営が放棄していった時のように闘気を込めて殴るだとか、遠距離から数を揃えて闘気弾を叩き込む、程度では突破は難しくなるはずだ。


 今回の作戦――通常の戦闘が起こりにくいように事を進めてはいるが、最も兵士達の激突の可能性が高いのはホウシンの陣営であり、防衛用拠点として重要なのがこの砦だ。


 だからまあ、戦いを避けるつもりにしても、こうした備えをしておくのは大事なことだろう。壁の工作をどのタイミングで使ってくるにしても開戦前に忍び込んでくるつもりであれば、敵に道士の類がいると思わせて、二の足を踏ませる効果も大きいしな。


 そうして門の改造も終わってもう一度砦内を探索しているとステファニアが口を開いた。


「コルリスが何か感じ取ったみたい」


 その言葉にコルリスを見やると、鼻をふんふんと引くつかせていた。コルリスに案内されるままに向かうと……そこはどこかの一室だった。


「この部屋は?」


 質問すると、案内役の副官から、責任者である武官の部屋だという返答が返ってくる。バロールを通してシオン達に連絡し、本人に部屋を調べても大丈夫か聞き、許可をもらったところで入室した。

 入るなり、寝台下を指差すコルリス。そこから……不自然な魔力反応が漏れている。


「これは……」


 寝台を浮かせて調べてみると、そこには床の建材の隙間に隠すようにして、何やら札が詰め込まれていた。魔力反応を見ながら、シールドを展開できる準備だけしつつ、札を取り出して広げてみる。


「……爆炎を散らす術式が刻まれておるな。術者の任意に遠隔から起爆できる」


 と、それを目にしたゲンライが眉をひそめる。


「あわよくば指揮官の暗殺に使い、失敗に終わったとしても襲撃に合わせて起動させることで、混乱を狙うつもりだった、というところでしょうか」

「……搦め手が多いな。全く」


 レイメイが肩を竦める。そうだな。あまり道士の存在を前に出さずに攻撃を仕込んでいる印象だが。

 これ一枚ということもないだろう。あると分かった以上は時間の許す限り念入りに調べていこう。




 そうして、兵士達の詰所や、兵器保管庫等から同じような呪符を何枚か見つけ出す。砦内は一通り回ったが、人の集まる場所や物資を集積する場所を狙ったもののようで。効果的な場所は重点的に探したが、どうやら大丈夫なようだ。


「この呪符も罠として再利用させてもらいますか」

「どうするつもりかの?」


 ゲンライが愉快そうに笑って尋ねてくる。


「敵が渡河して兵を展開させるのに適した地点に仕掛けておく、というのはどうでしょう。仕掛けてある箇所が分かっていれば、こちらは大丈夫なわけですし。人が集まっているのを理解して起動させなければ効果も薄いですからね」

「そのまま再利用する、というわけじゃな」

「確かにな。この呪符の起動とあの壁の仕掛けは同時に使ってこそ力を発揮するんだろうし、斥候と後方の陣で同時に混乱が起こる事になるから効果的だろうよ」


 ゲンライとレイメイが俺の言葉に笑う。


「というわけで案内をお願いします」


 と、副官に言うと、彼も慣れてきたのか随分と人の悪い笑みを浮かべながら砦周辺の上陸ポイントに案内してくれた。というわけで魔法で軽く防水処理を施し、岩の下等に潜ませておく。地形図をそのまま土魔法で模型を作り、埋めたポイントに着色して分かるようにしておく。

 よし。罠の類は大体作り替え終えた。後はハイダーを配置しておき、転移可能にしておけば有事にはいつでも対応可能だ。

 そうやって残りの作業をしている間に荷降ろしも終わり、予定していた作業も終わったようだ。


 後は……そうだな。盗賊団に関する目撃者に関して協力をお願いしてみるか。

 シリウス号の所まで戻り、責任者の武官に、敵の残していた仕掛けやらそれに対する対応を説明する。


「そのような仕掛けがなされていたとは……」


 不覚、というような表情をする武官であるが。


「特殊な訓練を受けた者しか使えない仕掛けですからね。そういった視点や技能を持っていないと気付けないのは無理からぬことかと」

「むう。同じ轍を踏まないよう反省しなければなりませんな。とりあえず、不審な火災が起こっても慌てず対応できるように兵士達に訓示をしておきます」


 そうだな。あると分かったのなら次からは対応も可能だし、水作成の魔道具もあるから火災への対応もしやすくなるだろう。


「ともあれ、輸送と修繕等々の作業は終わりました。一点、こちらからお願いしたいことがあるのですが」


 そう切り出すと武官は居住まいを正して尋ねてくる。


「なんでしょうか。私の裁量で可能なことであれば良いのですが」

「この砦が前回攻撃される前に、盗賊団が近隣の村を焼き払ったと聞きます。その際、敵の頭目を目撃した者がいたら話をお聞きしたいと考えているのです。目撃証言から似顔絵を描ける、特殊な技術者に心当たりがあるもので」


 俺の言葉に武官と副官は顔を見合わせて頷く。


「そういう事でしたら一人心当たりがあります。この砦の兵士の一人なのですが。しかし似顔絵を作る……ということは、同行が必要になるということですか?」

「そうなりますね。兵士であるというのは話が早くて助かりますが、人手をお借りすることになってしまうかなと」

「増援が来た以上、一人別の任務に就かせるぐらいは問題ありませんぞ。ホウシン様にはできる限りの協力を、と仰せつかっておりますからな」


 そうして武官がその人物を呼んでくるように兵士に言う。

 命令を受けて伝令の兵士が走っていった。


「件の村に常駐して警備していた兵士達の一人でしてな。突然家々に火が放たれて、村を守れなかった、と随分と悔やんでおりましたよ。村人から死者が出なかったのは、彼らの避難誘導が的確だったからでもあるのですが……。火に照らされた頭目の顔は目に焼き付けた、と。戦場で出会ったら必ず斬ると、そう言っていました」

「……なるほど。それは……悔しかったでしょうね」


 そういう事なら信用も置けるし目撃情報も正確性が高いと見て良さそうだ。

 待つことしばし。やってきたのは鎧に身を包んだ女兵士だった。


「え、ええと。お呼びでしょうか?」

「うむ。実はな――」


 武官が事情を説明すると、やや緊張していた様子のその表情が、途端に戦意に満ちたものになっていく。


「つまり私の目撃情報があれば、あの盗賊団に一矢報いることができる、と?」

「似顔絵が作れるということは各陣営共通で手を回すことで追い詰めやすくなる、かも知れませんね。少なくとも、ショウエンの支配域以外の都市には立ち入れなくなる。しかし、そのためには似顔絵の出来を見て頂く必要があるので、一度僕達に同行してもらう必要があります」


 現時点で確約まではできない。サイロウ達に話も聞かなければならないし。

 俺の言葉に、彼女は砦の責任者である武官に視線を向ける。そして口を開いた。


「その……今の状況で持ち場を離れるのは甚だ無責任だとは思うのですが。どうか、私にこの件に関して、協力させていただけないでしょうか。あの村の人達は……確かにあの時の襲撃でこそ死者は出ませんでしたが……家を失って病気になってしまい、冬を越せなかった人もいるのです」


 俺達とホウシン、現場の武官達との間で話は通っているし、ある程度方針も決まっているのだが。それでも彼女自身の意思や決意を聞いておくというのは重要だ。


「ふむ。部下に雪辱を果たす機会を与えるのも上官の務めではあるか。増援も到着した事であるし、テオドール殿に同行し、盗賊団対策を行う特殊な任務に就くよう命じる。急ぎ、彼らと共に出立する準備をせよ」

「はいっ! ありがとうございます……!」


 兵士は明るい笑顔になり、深々とお辞儀をすると荷物を取りに砦の中に駆けていった。

 武官と副官は良い仕事をした、というような表情でその背を見送ると、俺達に向き直り一礼してくる。


「では、皆様の御武運をお祈りしています」

「こちらこそ御武運をお祈りしています」


 そう言葉を交わし。女兵士が戻ってきたところで、しっかりと人員が揃っている事を点呼し、俺達は前線の砦を後にしたのであった。

 続いては――ガクスイの陣営の輸送だな。ゴーレムを活用した輸送は大分時間短縮に一役買ってくれるし、合間を見ながらサイロウ達への尋問も進めていきたいところだ。


 盗賊団の事もそうだが、他の側近達の人数であるとか宝貝の性能だとか……それにショウエンの目的、実力であるとか……できるだけ多くの情報を得たい。


 サトリによると、心身を鍛えている相手が警戒しているような状況では思考を読み取りにくくもなりそうだから、どこまで情報が得られるかは未知数なところもあるが……この場合核心に迫るような情報を突きつけてやればその心の揺らぎを拾う事ができる、らしい。そうなるとつまり……似顔絵を先にするのが良いというわけか。


 盗賊団に関する情報を引き出す手立てとしてはそれで良いが、他の事柄に関しては……サトリの読心だけで足りなければ、多少の時間がかかる事は承知でタームウィルズに送って魔法審問と魔法薬で情報を引き出す、というのも視野に入れる必要があるだろうな。

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