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番外249 輸送作戦開始

 流石に4人の太守達は有能という印象だ。すぐにそれぞれ符丁とその意味するところを暗記して、メモも見ずに列挙できるようになっていた。物資の積み込み、輸送の際の手順等々を伝えたりと、他の細々とした内容も伝えていく。

 そうして日程表の共有が終わったところで、俺達も早速動き出すことになったのであった。


「――それでは、行って参ります」

「はい。お気をつけて」


 ホウシンのいる都市に辿り着いたところで、バロールを連れたゴリョウ達が街へ繰り出していった。

 まだ合流していないゴリョウ達の同僚が、ホウシンの陣営にも監視役としてついているはずなので、まずは彼らに話を通してしまおうというわけだ。


 こちらが動くのはそれからだ。物資の積み込み等々を行うにしても、それなりに都市内部が騒々しくなる。そうなるとゴリョウの同僚達としては何が起きているのか調べに動くので合流が遅れてしまうことになるからだ。


 ゴリョウ達は……今度は北門から一番近い茶館に向かったようだ。密偵達は一番本拠地の方向に逃げやすい場所に陣取るらしいな。


 暫くすると2人組の人物がゴリョウ達に会いに来て――。そうして彼らにゴリョウ達がカイ王子の生存と合流を説明すると、彼らはそれ以上の言葉は不要とばかりに包拳礼で以って応えるのであった。


 ……よし。ゴリョウ達は大丈夫そうだ。どうやら密偵部隊の絆というのは、俺の思っていた以上にかなり強固なもののようで。


 さて。そういうわけで後は物資と兵力を前線へ送り込んで戦力の増強を行う。元々前線への物資等々の輸送と備蓄は行われていたので、ホウシンの陣営は即対応できる。


 ゴリョウ達が街に行っている間に、物資と人員をシリウス号に乗せる作業を行う、というわけだ。

 まず物資から。送り出される予定の物資――食糧や兵器の類であるが、ゴーレムを用い、都市に横づけしたシリウス号に積んでいくわけだ。

 積み込み作業を行う周辺では、兵士達によって人の往来が一時的に制限される。外門付近に停泊させたシリウス号は光魔法のフィールドを展開したままだから、住民達は外壁の外に展開されたフィールド内部で何が起こっているのかは見えない。


 街道側からも光魔法のフィールドによって内部のシリウス号は見えないのだが、そうなるとフィールドに出入りしている面々がいきなり出現したり消えたりというのが丸見えになってしまう。


 そこは幻術で外門前にちょっとした兵士達の人だかりを作り、何か作業をやっている風に見せかける。門に不具合が起きて開け閉めができないから別の方角の外門に回って欲しいと、街道からやってきた商人やら住人等々にはフィールド手前で迂回してもらう。


 こうすることで人の口にも噂が昇らないようにする。密偵関係以外で情報がショウエンに伝わるのを避ける、というわけだ。


「準備は出来ておりますぞ」


 と、ホウシンが教えてくれる。兵士達の動き、物資の配置等々は打ち合わせ通り。流石にホウシン陣営は軍の訓練がよく行き届いている。


「では、始めましょうか」


 その言葉に頷き、実際の作業を始める。

 集積された物資の山を停泊するシリウス号に積み込む方法は――やはりゴーレムであるのだが、今回は俺が大規模な術を使って、ということはしない。スピード勝負の場面で、あちこちに行ってそれをやっていると魔力的な負担も馬鹿にならないからだ。


 従って、ゴーレム制御のメダルを使って輸送用ゴーレムを作成し、それに積み込んでもらうという形を取る。稼働用の魔石の魔力が尽きたらそれにみんなで魔力を補充するか、予備の魔石と交換。それによって術者の体力、魔力が消耗してきたら魔道具や各種ポーションで補う、というわけだ。


 集積された物資の前にゴーレムの制御核を埋め込んでいくと、周辺の土を取り込んで変わり種のゴーレムが形成される。

 四角い箱のようなものが地面から持ち上がり、箱の四隅から多関節の長い腕が生えると、箱の中に物資をどんどん積み込んでいく。手際よく丁寧に。そしてバランスよく。


「……これはまた」

「このゴーレムの制御術式は、私も協力したんですよ……!」


 その光景に驚いたらしいホウシンと、嬉しそうに言うコマチ。

 荷物を許容分だけ積み込んだゴーレムが更に変形する。荷物の形に合わせて箱が縮小。固定すると四隅の腕であった部分が変形して4枚のプロペラとなる。

 そう。コマチの協力による部分が大きい。メダルに刻む制御術式にしても、カガノ家の技術というのはかなり洗練されているものなので、プロペラ部分に使う術式の、容量の削減と効率化に一役買っているのだ。


 自分と荷物にレビテーションを用いて荷重の負担を軽減。そうして次々空中に飛び立ってシリウス号の甲板に直接乗り込んでいく。甲板に着陸するとパッケージされた荷物部分を自切。制御部分は再び空を飛んで元の場所へ戻ってくる、というわけだ。

 要するに空輸ドローンだな。レビテーションを使っているので空輸でありながら輸送力も結構高い。


「これは驚いた……」


 ホウシンは言葉もない、という具合である。

 甲板ではまた別のゴーレム達が船倉内部へ整理しての積み込み作業を行っている。パッケージ部分と融合して車輪を作り、台車のようにしてガンガン運んでいく、というわけだ。

 これに関しては工程を完全分業とすることでゴーレムの制御術式が複雑化するのを避ける意味合いがある。


 空輸ゴーレムも台車ゴーレムも、それぞれ衝突や混雑を避け、効率的な輸送を行うために、内部ではある程度複雑なアルゴリズムを組まれていたりする。

 このあたりはローズマリーと相談しながら術式を組んだ。そのローズマリーはと言えば……ゴーレム達の仕事ぶりがきっちり効率的になっているかどうかチェックしているようで、羽扇で口元を隠しつつも納得するように頷いていた。


「術者が複数いないと魔石への魔力補充が難しいので、中々実現できない手ではあるのですが」

「その点、テオドール殿の周辺はそういった人材に事欠かない、と」

「そうなります。ゲンライ殿のお弟子さん達も一緒ですからね」


 魔石への魔力補充要員は沢山いるから個々の負担もその分では減る。

 輸送ゴーレム部隊の作業効率は相当なもので――作業予想時間をかなり短縮できそうだ。スケジュールに余裕が生まれる、というのはありがたい。トラブルにも対応しやすくなるからな。


 後は輸送する将兵達に関してであるが、一度に乗せられる人数と輸送できる回数――時間的猶予には限りもある。そのためシリウス号の秘密を厳守できるような精鋭がまず優先される、ということになる。


 膝元の守りを残したりと言った部分も考慮しなければいけないが、訓練の行き届いた将兵達というのは各陣営も当然把握しているわけで、人員の選出というのはスムーズであったようである。


 そうして集められた部隊が――隊形を整えたままでフィールド内部に入る。シリウス号を目にしてどよめきが起こるかと思っていたが、そこはホウシンの手前である。シリウス号が視界に入って一様に驚愕の表情を浮かべていたが……きっちりと隊列を維持したまま整列していく。

 事前通達されていた部分もあるのだろうが……これだけで訓練の行き届いた精鋭であるのが窺えるな。


 とりあえず、俺からはシリウス号の船長として注意事項を説明しておこうか。


「お初にお目にかかります。シリウス号船長のテオドールと申します。ある程度のところは事前に通達されていると思いますが、この船を用いて、みなさんを前線まで輸送させていただきます。指示に従って船に乗り込んでください。一度の輸送人数を多くするためぎりぎりまで詰め込みますので、船室だけではなく通路に座っていただいたりと窮屈な思いをする事もあるかと思いますが……一時的な事なので我慢していただくようお願いします」


 そう言って居並ぶ面々を見回す。嫌そうな表情をする者は一人もいなかった。みんな戦意十分といった印象だ。

 ……よし。これなら大丈夫そうだな。では、前線への輸送を行うとしよう。

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