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05.王の使い

 上から落ちてきた男達は、剣を構えて持ち、神楽と白夜を交互に睨む。鼻まで隠した布を少し上げたり下げたりを繰り返し、相手との距離をすかさず図ろうとする。

 プロだ、と神楽は感じた。この空気と、そして狂いのない計算。落ちてくる場所まで、まるで分かっていたかのように、その場所に吸い込まれていた。

 「なんだ、てめえらか。また俺を追いに来たのか・・・・それとも・・」

白夜は鼻を鳴らし、相手を上から見下す。相手はなんせ顔が半分以上隠れているから、表情は分からないが、おそらく少しは頭にきているだろう。しかし、相手もこの白夜がどれだけ強いのかを知っているらしい。攻撃はしてこない。

 「今回は貴様は関係ない。そのお隣にいる、神宮の当主である、神楽様。あなたに少しばかり用がありまして」

 一人の男が目を細めながら笑いかける。おそらく笑っているのだろう。その男の瞳は、『紫』。

 その男が一歩前に出た時、白夜は思い切り手に持っていた剣をふる。それがあまりに行き成りのことだったので、つい神楽はびびってしまう。だがその黒い服を着た男は、白夜の振った剣を軽々と避ける。

 「だからお前には用はないって。そうカリカリすんなよ」

男は白夜にさっきの微笑みのまま、そう語る。だが白夜は思いっきり恨みのこもった目で、その男を睨み続けている。

 「おっと忘れていましたよ。これは失礼致しました」

そのやけに丁寧な物言いの男は、自分の顔に巻いた黒い布を取って、髪の毛を整えながら首をふる。

その男の瞳は白夜よりも濃い紫の色で白い髪をした、若い男だった。他の黒服のものには感じられないオーラが感じられる。多分他の奴らは人間だろう。

「私の名は、灰楼ハイロウと言います。以後、よろしくお願いします、神楽様」

 にこりと微笑んだ灰楼は、敵なのかどうか、混乱してしまう。だが白夜の睨んでいる顔を見ると、やはり敵だと思い返す。

 「あなたの目的はなんなんですか。しかもご丁寧に剣まで持って」

「ああ、これはあなたの隣にいる悪鬼をどけるためのものでして。決してあなたを傷つけようとかはおもっていませんよ」

 やけに説得力がある。

「それで、あなたの要求は」

「うん、肝の据わっているお方だ。すばらしいね。では本題に入りましょう。実はですね、その首飾りを貸して欲しいのです」

 唐突なお願いだったので、神楽は眉をひそめる。

「貸して・・・とは」

「少しばかりそれが必要なのですよ。私の主が・・・それを必要としていまして」

 灰楼は白夜の方をちらりと見、微笑む。

「主、ですか。誰ですかそれ」

 貸せるものではないが、一応参考までに聞いてみる。

「知りたいですか」

灰楼の瞳がかすかに動く。『瞳』が動いたんじゃない。瞳の中の色が、まるで絵の具が混ざったように動いたのだ。

 微かにびくついたが、誰ですか、と冷静に聞く。

「国王、瑠樹亞様ですよ。国王のお申し出なので、まあ実際は拒否することは出来ませんが」

 国王の、『瑠樹亞ルキア』。その言葉を聞いたとき、神楽は背筋が凍りついた。白夜もそうだ。さっきより恨みが濃くなったように、また剣を構える。

 「おい、しゃべりすぎだろうよ、灰楼。ちょっと黙らないか」

白夜は剣から出た一筋の力を灰楼にぶつける。だがやはり灰楼の動きはすばやく、まるで瞬間移動のようにその一筋の力を避ける。

「だからさ白夜?お前にしゃべっていないんだよ。そっちこそ首を突っ込むな。関係ないことなのだからね」

 ため息をついて灰楼は白夜を見る。まるで哀れむように。

 「それで、一応お聞きいたしますが、返答は」

灰楼はさっきの笑みに戻り、神楽に問う。だが、神楽は氷の瞳と言われる、青色の瞳を少し濁して、灰楼を睨む。

「悪いですけど、俺の前でその名前、駄目なんですよ。何が国王、だ。あなた方だって、俺が国王に逆らわず、すんなり首飾りを渡すって思っていたら、こんなに黒服の人いらないでしょ。渡さないなら力づくでも奪おうと思ってるんだろ」

 神楽が睨むと、灰楼はしばし黙り神楽を見る。そしてにこりと微笑む。

「ほう、本当に面白い人だ。国王からのお願いだとしても、絶対に渡さないと」

「もちろんだ。これでも俺は神宮の当主。たとえ国王の願いだったとしても、一族の掟には逆らわない

神楽のその言葉が本気だと思ったのか、灰楼はため息をつきながら後ろの黒服に合図をする。

「わかりました。それなりの覚悟をして待っていてください。今日のところは私が言っておきましょう。それに、白夜もいるしねえ」

ふふっと声を立てて、灰楼はお辞儀をする。また来ますという言葉も残して消えた。

 もう二度と来るなと思いながら、後ろに少し驚いた顔をして、立っている白夜の方を向いた。

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