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02.神宮の儀式 弐

 「神楽様!」

一人の女が儀式の後、寄ってきた。

「由。どうしたの」

この女の子は神宮由。現在十六歳の、神楽の親戚である。黒く長い髪に、黒い瞳。正真正銘、『人の子』である。

「おめでとう、神楽様。さっきは個人で言えなかったから・・・」

 恥ずかしそうに手を組んで、少し上目遣いでいう由は、本当に可愛らしい。神楽も、そう思う。

「ありがとう、由。嬉しいよ」

微笑んでそういうと、由も微笑を返す。

「でも、なんか寂しいな」

「なんで?」

「だって、なんか神楽様が遠くに行った気がして」

 確かに。一族の当主なのだ。遠いのは当然。だが、神楽は別にそんな事、どうでもいいと思っている。当主だから、と言って行動や言動を慎まなければならないなんて決まりは無い。

「そんなことないよ、俺は俺だから。それに、以前みたいに神楽って呼んでもいいよ」

 由は苦笑しながら首を左右に振る。

「神宮の、決まりだから」

 だれが決めたものでもない。だが、最低限守らなければいけないもの、があるらしい。

神楽はそっか、と小声でいい、由の頭をやさしくなでた。

「わかったよ。でも覚えといてね。俺は別に特別偉くなったわけでも無いし、由を置いてきぼりになんかしないよ。いいね」

 由は笑顔で頷く。そして、手をふりながら足早に去っていった。神宮の当主とは、個人的に長話をしてはいけないという決まりもあるらしい。ばかげたことだと神楽は呆れる。なぜ話をしてはいけないのか、疑問に残る。

 扉が静かに開く音がした。この気配は・・・。

神楽は嫌な予感を覚えた。いつも『あの人』が現れるときに感じる、独特の空気。殺気が少し混じったような。

 神楽は扉の方向を見、軽く会釈をする。

「どうか致しましたか、母上」

 漆黒の美しい髪を丁寧に結い、まるで人をさげすむような目で神楽の母、遠弧トオコは神楽を睨む。

「当主、おめでとう、神楽様。本当に立派になって」

 にこりとも笑いはせず、まるで人を食い殺そうというぐらいの気迫で喋る。

「ありがとうございます」

神楽もまた、笑いはせず、ただ礼を言う。

「本当・・・母親にあなたを様付けさせるだなんて。ずうずうしいったら。なんであなたなんか生んだのかしら。この、化け物」

 また始まった。目があったら、

『なんであなたを生んだのかしら』

『よらないで頂戴、化け物のくせに』

『人間じゃないのに、なぜ神宮にいるのかしら』

と、文句たらたらだ。それしか言えないのかと思うほど、何回も言ってくる。

 「すいません」

神楽は淡々とそうつぶやく。それがまたむかつくのか、遠弧は羽織っている布を引っぺがす。

 「沙里那。来なさい」

神楽の部屋の扉の方を向き、叫ぶ。その名を聞いた瞬間、神楽はさらに疲れを覚えた。

 「なぁに?お母様」

そういい、扉を勢いよく開けた少女は、神楽と目が合うとにやりと意地悪そうな顔をする。

少女の名は沙里那サリナ。十五歳の神楽の妹である。とにかくわがままで、猫かぶりで、母親のご機嫌を伺って生きている、とんでもなく面倒くさい存在だ。

 「本当、同じ兄弟なのにどうしてこんなに違うのかしら。あなたは憎たらしいったら。それに比べて沙里那は本当にいい子ね。どうして当主にならなかったのかしら」

 また愚痴を言い出す。沙里那をもってきては、『あなたに比べて沙里那は・・・』と始まるのだ。

 本当、いい加減うんざりだ。それに、傷つかないわけがない。一応『人の子』なのだから。

「まったく、本当にやめて欲しいわ。あなたなんか、居なくなればいいのよ」

その言葉を残し、遠弧はさっさと消えていった。しばらく神楽の方向を見た沙里那は、意味深に微笑みながら、バイバイ、お兄様、とわざとらしく様付けをして遠弧の後を追っていった。


 

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