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01.神宮の儀式 壱

 鳴り響く鐘の音は、一人の男を迎える、儀式の合図である。そしてその儀式を受けるもの、神宮神楽はため息をついた。

 場所は、神宮という族の敷地。とても広く、そこに住んでいる者でさえ、迷ってしまうほどだ。

今年はじめ、神宮の当主である神楽の叔父が亡くなった。その後を継ぐのは誰?ということになり、多数決で神楽に決まったのだった。なんたって、『人の子』ではないらしいから。

 本来この国では人間というと、黒い髪に黒い瞳と決まっている。それ以外の色は人外。金と青は善。紫は悪ともなっている。

 そして、神楽は漆黒の髪には似合わない、透き通った、まるで水晶のような青色の瞳。もちろん、人間なのだ。髪は黒いのだから。しかし、瞳は青。このことに神楽はとても悩まされていた。それが、このため息の一つの原因でもある。

 「神楽様。式の用意ができました。即刻大会場へとお越しください」

一人の爺が神楽の部屋の扉をゆっくりと開け、そうつぶやく。

「わかった」

また新たなため息を残し、自分の部屋から、重々しい雰囲気をはっしながら出て行った。

 今回の儀式はもちろん、当主を継ぐ儀式。それなりの、いや、神宮一族の全権を握れる立場に立つのだ。神楽には不安の言葉しかなかった。

 確かに、瞳が青いことで、何か力があるとは思うかもしれない。しかし、自分はただの人間だと神楽は思っている。剣術もろくにできないし、特別頭がいいわけではない。そんな人間が当主になんかなっていいのだろうかと思うと、気が重くなるのだ。

 白い装束衣装を身に纏い、神楽は顔を上げ前進する。大会場の一番前に神楽が現れると、会場に集まった人間達はわめいたりして騒ぎ出す。

「神楽様!当主、おめでとうございます」

「心からの祝福を」

「キャー神楽様!」

と、さまざまに叫ぶ。隣にたった爺が、手に持った鐘を鳴らすと、自然と周りは静かになっていく。

「神宮神楽様。今日、九の刻を持ちまして、神宮一族二百代目へお成りになりましたっ」

爺が顔を綻ばせてそういうと、いったん静かになったのもつかの間、周りは先ほどよりも声を上げて喜ぶ。その様子を見ていると、神楽も少しだけ嬉しいような、恥ずかしいような気持ちにさせられた。

 なんたって、神楽はまだ十八歳なのである。神楽の叔父も、十九歳という若さで当主となった。それを超える歳での当主は全一族でも初めての事だった。

 神楽は少し喉を鳴らし、少し手を上げる。すると一斉にまた静かになる。

「えーっと、ありがとうございます。神宮の当主、ということは重い責任を負わなければなりません。不安はあります。しかし、この全一族の中で上位の力を持つこの神宮の当主になれるという嬉しさの方が、大きいです」

笑顔でそういうと周りは大喜びだ。

 神楽は神宮の一族の中だけではなく、他の一族の中でも有名である。『氷色のそよ風』。瞳は氷のように冷たい、水晶のようだが、とてもやさしく、温厚だという意味である。その名の通り、初めて会った人間でもまず第一印象で神楽を嫌う奴はいない。そのなんとも珍しい色と、美貌に瞳を捕らえられてしまうのだ。


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