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【第零話】-日常の非日常-

暇潰しなので、続くかは未定な迷惑作品です←

「っ……! はぁ! はぁ!」

冗談じゃない。なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。なんたってこんな夜中に町中を走り回らなきゃ……。


「どーこにいくのかにゃー? 凡人くーん?」


「!?」

唐突に頭上から聞こえた猫撫で声と、猛烈に身体中を駆け巡った嫌な予感に、半ば反射的に横へ跳ぶ。

直後。ドゴォ!!という、生物の恐怖心を根底から揺さぶるような凄まじい轟音が俺のすぐ傍、一メートルと離れていない場所で鳴り響いた。

殆ど『転がった』という表現が正しい程無様な避け方をした後、慌てて起き上がり、音源であるついさっきまで俺が立っていた場所へと視線を走らせ――

「ひっ……」

そこにあった『モノ』を見た瞬間に、思わず漏れる悲鳴。あまりの異様さと恐ろしさにまともな叫びすら喉の奥へと消える。


だって……流石におかしすぎるだろう。


――"ビルの建築なんかで使う武骨な鉄骨が、地面がアスファルトであるとかそんな事もお構い無しに突き刺さっている"なんて。


「ありゃりゃ? なんで避けちゃってんのさ。あたしは凡人くんの串刺し姿が見たかったのにー」

どこをどう見てどう解釈しようが【非日常】としか言えない建造所要時間コンマ数秒のモニュメントに目を奪われている俺へと、どこか小さな子供にも似た不機嫌そうな口調で恐ろしい事をのたまう声。

「テメェの要望に答えてたら命が幾つあっても足りねえんだよ……ッ!!」

なけなしの反抗心を振り絞って悪態をつき、ありもしない勇気を奮い立たせて声の方へと視線を移す。

「にゃあ……。そーかにゃ? あたしはそうとは思わないけれど」

そこに居た声の主は、中学生程の背丈のまだ幼い少女だった。月明かりに照らされて僅かに見えるその顔にはまだ、あどけなさが残っているし、容姿で言えばどこにでもいる様なごく普通の少女。

だがしかし、その少女の立っている場所が問題だった。


――工事現場。それも、十階程の高さは余裕であるだろうビルか何かの建物の骨組み段階。その中腹辺りの、枠組みに使用されている鉄骨が外へ露出している所に腰掛けていたのだ。命綱らしきものも付けずに。


「そうだよ……。俺はあんたらと違って普通の人間なんだ」

精一杯の虚勢を張ってはみるものの……これは完全にまずい。

散々【あいつ】に言われていたはずなのに、あの化け物の異常さに完璧に飲まれて逃げるタイミングを逃してしまった。このままだと俺は――。

「ふうん? でもさー、凡人くんは凡人くんで在るが故に。平常で平凡だからこそ面白いとゆーか……あたし達と似てる所もあるんだよねー」

「はあ? あんたらと似てる所なんかどこにもなっ――」

俺が紡いだ台詞は、言い終えられることは無かった。


"少女が何の前触れも無く投擲した鉄骨が俺の右肩に直撃し、右腕を付け根からごっそり持っていったから"だ。


「ぐっ……ああああああァァァァ!?」


脳の痛覚神経が焼き切れる錯覚さえ覚える想像を絶する激痛に、堪えきれず叫ぶ。しかし、間違いなく近所迷惑になるであろうレベルの絶叫であったのにも係わらず、何故か周囲の民家から人は一人も顔を出さなかった。

「ほーら。これだからキミは面白いし、あたし達と似てるんだよ」

脂汗と冷や汗を同時にかいて、着ているシャツをびしょびしょに濡らして踞る俺の"右手"を取って少女は嗤う。


――そう。"右手"を。


たった今消え去ったはずの"右手"を。


「にゃは。ほらほらー。立って立ってー。あたしはまだ遊び足りてないよー?」

ふらふらとおぼつかない足取りで立ち上がり、不気味に嗤う少女を見据える。もう既に人間のものとは感じることはできない笑顔に、脊髄に氷柱を差し込まれたかのような悪寒が走る。

「ぅ……あ……」

もう既に痛みは跡形もなく引いていた。右手だって、最初から何事も無かったように、ちゃんとそこに存在していた。

「だ……れか……たすけっ……!」

上手く声にならない叫びを上げながら後退るが、尻餅をついてしまう。

「そんじゃー、あたしの力とキミのそのチカラ……どっちが勝つのか試してみよーう!」


――それが、彼女が俺に宛てた言葉であり、尚且つ俺が聞いた最後の言葉になった。


数秒後には、自らの身を比喩では無くリアルな方で粉にされるであろう状況に直面しても尚、俺の考える事は「勝敗はどうやって決めるのかな……」程度の、実に呑気な戯言だった。

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