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青春スクエア ~柳葉李哉の片思い~ 小学生編9

 本日もまた、李哉は匍匐前進をしていた。

それはすぐに病院中の噂となった。

それからすぐにルールが出来たのだ。

李哉が通る道は譲るというルールが。

それは藤森先生が言い出したルールだった。

そのおかげで李哉はリハビリ室へと行き易くなったのだ。

最近ではリハビリ室に行く途中で色んな人から声を掛けられるようにもなった。

だが、まだ一つだけ問題がある。

それは――

足音が聞こえる度に反射的に身構えてしまう事だ。

それがナースや医師達の足音だとしても。

だが、バジルは意外と軽いのでなんとか耐えられる。

耐えられるのだが――

やはり踏まれたダメージが抜けるには少し時間が掛かる。

それでもバジルと会うのが少し楽しみにもなっていた。

その時。

遠くから足音が聞こえて来た。

反射的に身構える。

すると――

身構えていた身体を踏んで行く人物がやはり居た。

「っ!」

一瞬、背中の骨が軋んだような気がした。

それでもなんとか生きてはいる。

いや、左足は無事なので大丈夫だ。

だが、やはり踏まれた時のダメージは強い。

「オ…オゥ……ゴメン……キシヤ……」

床を蹴った時とは違う違和感に気付いたバジルが息を切らせながら振り返りそう言った。

そして李哉が無事だと確認し、走ってきた廊下を少し遠目で見つめてから安堵の息を漏らした。

バジルがそんなに息を切らせた姿を初めてみたので少し李哉は気になった。

少し身体を起こしてみるとバジルに踏まれた場所が痛むが、動けないほどではなかった。

「どうしたの…? そんなに息を切らせて…」

「イツキニ追イ掛ケラレタ……」

そう言われて李哉は疑問に思った。

バジルの話にはよく、イツキと言う人物の名前が出てくる。

そのイツキというのは一体誰なのだろうか。

それを聞いてもいいのかいけないのかしばし考えて。

思い切って聞いてみる事にした。

「ねぇ、いつも出て来るイツキって誰なの?」

「同ジ部屋イル。ボクニ日本語、教エテクレル」

「じゃあどうして逃げてるの?」

李哉が聞いてみるとバジルは悲しそうな顔をした。

そして少し俯いた。

もしかして、聞いてはいけない事だったのだろうか。

李哉がそう思っていると、バジルが元気のない声を出した。

「――日本語、上手ク言エナイト……殴ラレル……」

「え…」

「ダカラ、逃ゲテル」

「そう、なんだ…」

やはり、聞いてはいけなかった事だろうかと思う。

しかしそのイツキと言う人から日本語を教えてもらっているからだろうか?

日に日にバジルの日本語が上手になって来ているような気がする。

いや、確実に上手くなっていっている。

最初に会った頃はかなりのカタコトだったが、最近では少し訛っているくらいになっている。

厳しい分、早く覚える事が出来るのだろう。

李哉がそう思っていると――

「昨日ナンカ、シメラレタ……死ヌカト思タ」

暗い声でバジルがそう言った。

少し沈んでいるバジルにどう声を掛けていいのか迷う。

そして少し思う。

バジルは元気なのが取り得のように思えるような子。

そんなバジルに元気がないとなんだかこちらまで元気がなくなってしまうような気がする。

それは、自分の場合でもそうなのだろうか。

そんな事を思いながらも李哉はバジルに声を掛ける。

「じゃあ、一緒にリハビリ室まで行かない?」

「エ、イイノ?」

「いいよ。話し相手が居てくれた方が俺も楽しいし」

李哉が少し笑って言うと――

まるで花が咲くようにバジルがぱぁっと元気になった。

そしてにっこりと笑って言ってくる。

「サンキューキシヤ!」

やはり英語の発音がすごく上手いので、外国人なのだと実感する。

という事で。

バジルと一緒にリハビリ室へと向かう事になった。

李哉は匍匐前進で前に進む。

なるべく、バジルの歩く速さに合わせてみるがやはり少し遅れてしまう。

その事にバジルが気付いてくれて李哉のスピードに合わせてくれる。

匍匐前進してる間は喋れないが、その間にバジルが話し掛けてくれる。

「ボクノイル部屋、四人部屋ラシクテ。デモコノ間、同ジ部屋ニイタ人退院シタカラ今三人部屋。早ク新シイ人来タラ嬉シイ。一緒ニイルタクミ、ボクガイツキニシメラレテテモ止メテクレナイ。見テルダケ。キシヤガ来テクレタライイノニ……」

バジルの日本語を聞いていると、結構日本語が上手いと思う。

初めて会った時は本当にカタコトだった。

今でもカタコトだが――

前までは〝だから〟とか言わなかったと思う。

伝えたい言葉だけを並べた、そんな日本語を喋っていたが。

今では違う。

訛りさえなくなればもっと良い日本語になるだろう。

そう思いながらも李哉は匍匐前進をして、少し休憩する。

その時にバジルと話す。

今はまだ匍匐前進をしながら話す事はあまり出来ないので休憩中に話すしかない。

喋りながら匍匐前進をするとすごい疲れるのだ。

「でもバジル君って日本語上手いと思うよ?」

「言葉ト意味、知テル。デモ、チャント喋レナイ」

「確かにまだカタコトだね」

「イントネーション、イツキ教エテクレル。デモ、怖イ……」

「そう、なんだ…」

やはり英語の発音は上手い。

イントネーションの所がすごい綺麗に英語の発音が出来ていた。

だが、バジルならすぐに日本語を上手に喋れるような気がする。

もしかしたら李哉が退院する事にはもう日本語がペラペラかもしれない。

そう思っていると――

「ネェ、今度カラキシヤ見ツケタラ一緒ニ居テモ……イイ?」

「もちろん。俺は大歓迎だよ。一人じゃつまらないから嬉しいよ」

「ジャア、今度カラキシヤ見タラ声掛ケル!」

そう言ってバジルは無邪気に笑った。

本当にバジルは犬のようだと思う。

そんなバジルと一緒にリハビリ室へと行き、そして昼になると昼食を食べに李哉の病室に戻るまでは一緒にいた。

昼食を食べ終えると李哉はまたリハビリ室へと向かって匍匐前進をする。

 夕方、翼が病室に来るまでには病室に戻る。

昨日、それが出来た。

今日も翼が来る前に病室に戻る事が出来た。

病室に着いたのが翼の来る三分前だった。

だが、ここで問題が発生した。

病室には、李哉以外誰も居ない。

梅はもう最近ではたまにしか面会に来なくなった。

その上にナースにも藤森先生にも病室に戻るとは言わなかった。

昨日はたまたま藤森先生と病室に入る前に会ったのでベットに寝かせてもらえたのだが――

どうしようかと必死に考える。

とりあえず自力でベットまで上がってみようと試みるが。

立てないのでベットに上がる事が出来ない。

上半身の筋力だけで身体を持ち上げようとしてみるのだが。

やはり、出来ない。

どうしようかと思いながらベットを見上げていると。

「李哉? どうかした?」

病室の入り口の方から翼の声が聞こえてきた。

翼の方を見てみると、少し翼が驚いた表情をしていた。

そんな翼を見て李哉は苦笑しながら口を開く。

「戻って来れたのはいいんだけど…ベットに戻れなくて」

「全く。今度からはナースに声を掛けるように。ナースステーションからは李哉の姿は見えないから」

「うん、わかった」

「じゃあ、俺がベットに移動させるから」

翼にそう言われ、一瞬戸惑う。

だが、今ベットに上がるためにはそうするしかない。

そう思うのだが――

抱き上げてもらう時に心臓の音が翼に伝わらないかと不安になる。

不安に思う自分もいるというのに。

翼に抱き上げて欲しいと思っている自分も何処かにいた。

どうするか李哉は必死に考える。

――まぁ、答えは最初から決まっているのだが。

李哉は少し俯いた。

赤くなった顔を翼に見られたくないからだ。

そんな李哉を翼は優しく抱き上げてくれる。

翼に抱き上げられた時、李哉は少し思う。

(足が治ると、こうやって翼に抱き上げてもらう事はないだろうな…)

翼がこうやって抱き上げてくれる理由は、李哉が立てないから。

立って移動する事が出来ないからだ。

それが立てるようになると、もうこうやって抱き上げてはもらえないだろう。

そう思うと、少し寂しくなる。

しかし、立てるようになると今よりももっと翼と一緒に行ける範囲が増える。

それくらいの代償は我慢出来る。

そんな事を思っている間に翼は李哉をベットの上に寝かせてくれた。

「ありがとう、翼」

「これくらいで礼なんていらないよ。それで? 今日はどんな事があった?」

「えっとね…廊下を歩く人達がみんな道を譲ってくれたんだ」

「俺が藤森先生に『李哉が通る時はみんなに道を譲ってもらうように声を掛けて』って言ったら藤森先生がナース達やみんなに呼び掛けてくれたからそうなったんだよ」

「え、そうだったの?」

「李哉が怪我しないようにって」

「あ――でもまだ踏まれる…かな…?」

「――――バジル君?」

「あ、やっぱりわかる?」

「バジル君はいつも逃げ回ってるから結構病院内で有名なんだ。特にナース達には。いつも走り回ってるから危ないって。それによく患者さんとぶつかりそうになったりするから」

「…前、見てないんだね…」

「逃げるのに必死だからだろう」

「イツキって人から逃げてるんだってね」

「まぁ、逃げる気持ちもわからなくないけど」

「――やっぱり怖いの?」

「前にバジル君達の病室の前を通った時、本が飛んで来たな。本を投げる気が知れないけど。それと同時にバジル君が飛び出して来た」

翼の話を聞いて、今日聞いたバジルの話を思い出す。

確かに、逃げたくはなる。

「基本的にあの病室に他の患者を入れられないんだ。樹姫は普段は優しいけどバジル君に日本語を教える時は鬼になるから他の患者が怖がるんだ」

それも、わからなくもない。

その話を聞くだけでそのイツキという人がどれだけ怖いかがわかる。

だが普段は優しいと言うのでバジルの日本語を教える時だけそんな風になるのだとわかった。

それならば、少し話をしてみたいとも思う。

そんな事を考えながら少し翼に聞いてみたい事を思い出した。

後どれくらいで退院出来るのかを聞きたい。

しかし、前回聞いた時に翼に言われた言葉を思い出す。

『俺は医者じゃないからちゃんとした事は言えないんだ』

なので聞いていいのかと少し迷う。

前に全治何ヶ月だと言われたのは覚えているのだが。

正確な数字は覚えていない。

聞こうかと迷っていると――

「李哉。言いたい事があるなら言えばいいよ。その方が李哉らしいから」

翼がそう言ってくれた。

少し驚いて翼の顔を見つめると。

「李哉が何か言いたそうな顔してるのに言わないと、なんか調子が狂う。俺に答えられる事なら何でも言ってくれればいいから」

李哉の質問に翼が答えられない事はきっとないだろう。

それに翼はすぐに李哉の異変に気付いてくれる。

その事がすごく嬉しい。

そう思いながらも李哉は翼に聞く事にした。

「俺って後どのくらいで退院出来る…?」

李哉がその質問を投げ掛けると――

翼が少し意外そうな表情をした。

そして優しく笑うと答えてくれる。

「退院する前にまず、匍匐前進を始めたのが十九日だからそれから一週間後――二十六日に抜糸する」

「ばっし…?」

「抜糸って言うのは、傷口を糸で縫っただろう? その時に縫った糸を抜く事を言うんだ。もう傷口が塞がってるから糸が無くても平気だから。抜糸したくらいからもう捕まり立ちしてもいいだろう。そこから先は李哉の努力次第で早く退院出来たりもするから、頑張って」

翼は優しくそう答えてくれた。

抜糸をする日から捕まり立ちが出来る――

その抜糸の日までにもっと早く匍匐前進出来るようにならなくては。

李哉はそう強く思った。




 翌日、朝食を食べ終えてすぐに李哉は匍匐前進を始める。

いつも通りナースに床に降ろしてもらい、病室から出て廊下に出た。

その時。

足音が近くに聞こえて李哉の身体が反応する。

この足音はバジルのものだ。

踏まれる覚悟をし、目を瞑ると――

「オット!」

絶対に踏まれると思っていたのだが。

いくら待っても背中に痛みは襲って来なかった。

不思議に思いながらも少し目を開けてみる。

李哉の目の前には笑っているバジルの姿があった。

少し理解出来ずにバジルの顔を見つめていると。

「モウ流石ニ踏マナイヨ。一度アル事二度アル、二度アル事三度アル……三度アル事四度ナイヨ。ソレハタダノ馬鹿ダヨ」

そう言ってバジルはにっこりと笑う。

そこでようやく理解出来た。

バジルは李哉が居る事に気付くと避けてくれたのだと。

だから痛みがないのだと。

「ソレニ、コレ以上キシヤ踏ムトキシヤ怒ル。絶対、怒ルカラ。ボク、キシヤ怒ルノイヤ」

「怒らないけど…あ、でも左足を踏まれたらさすがに怒るかな…?」

「ダカラモウ踏マナイヨ」

「うん、そうしてくれると助かるよ」

少し苦笑しながら李哉はそう言った。

そしてバジルと一緒にリハビリ室へと向かう。

やはり進む度に両肘と顔、脇腹が痛む。

それでも李哉は進んでいく。

しばらく進んでいると――

不意にバジルが李哉に声を掛けてきた。

「キシヤ、腕ガ……」

「腕?」

そう言われて少し匍匐前進をやめる。

止まって両腕を見てみる。

すると。

着ていたパジャマの両肘の所が破れてしまっていた。

それを見て自分でも驚く。

バジルはそんな李哉の姿を見て慌てながら聞いてきた。

「キシヤ、大丈夫カ!? セ、先生呼ンデ来ルカ!?」

「いや、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

「本当ニ……大丈夫カ?」

「うん、大丈夫。ほら」

そう言って李哉は匍匐前進をしてみせる。

それでもバジルは心配そうな顔をしていた。

だが、流石に痛むので休憩をする事にした。

休憩をしながら李哉はバジルに聞く。

「バジル君、今日もそのイツキって人から逃げて来たの?」

「今日ハチョット違ウヨ。練習ノ時間ジャナイカラマダ楽ダッタ方。デモボクガタクミニ話シテイルト、苛々シテタヨ。怖カッタカラチョット逃ゲタダケ」

「そうだったんだ」

「モシカシテ。サッキキシヤガ出テ来タ部屋ガキシヤノ部屋カ?」

「そうだよ」

「ソノ部屋ハキシヤ以外ニモ人ハ居ルカ?」

「ううん。俺しかいないよ」

「羨マシイナ。デモボク、イツキト一緒ニ居ルノモ好キナンダ」

そう言ってバジルは笑う。

その話を聞いてバジルはイツキと言う人の事が好きであるという事がわかった。

ただ、日本語を教えてくれる時だけ怖いのだろう。

「ねぇ、バジル君。そのイツキって人はどんな人なの?」

「イツキハ普段優シイヨ。ボク以外ノ人ニハ」

「え…そうなの…?」

「ナンダカボクノ喋リ方ガ気ニ入ラナインダッテ。ダカラボクガ喋ルトイツモ怒ルヨ」

それは、バジルの気持ちもわかる気がする。

その話を聞く限りでは、バジルはイツキの怖い部分しか知らないと思う。

それでもバジルはイツキの事を好きだと言うのだから、バジルは人懐っこいのだろう。

「イツキ、凄イ足速イヨ。ボクガ日本語ノ練習ヲサボルトスグニ見ツケテ追イ掛ケテ来ルカラ」

バジルの言葉を聞いて一瞬疑問に思った。

そのイツキと言う人も入院しているのだから何処か悪いのだろう。

しかし、バジルのように腕を骨折したなどなのかもしれない。

「デモイツキ、本当ハ走ッチャイケナインダ。ソレデモ走ッテ追イ掛ケテ来ルヨ」

「そうなんだ」

そんな事を話しながらも李哉はバジルと一緒にリハビリ室へ向かった。

昨日まではバジルが李哉に合わせて歩いてくれていたが。

今日は李哉がバジルに合わせて移動出来るようになっていた。

その事に少しバジルは驚いていたが。

一緒にリハビリ室に行きながらも楽しそうに色んな事を話してくれた。

今日はイツキからこんな日本語を教えてもらった。

上手く言えなかったから本を投げられて本の当たった頭が痛む。

そんな事を話してくれた。

李哉はバジルと一緒に居るのが楽しくなっていた。

それは翼といる時とは違う楽しさ。

翼と一緒にいる時はもっと一緒に居たいと思うが。

バジルとだと少し違う。

バジルと会うまでは一人で辛い匍匐前進をしていたので何も楽しくなかったが。

今ではこうやって隣でバジルが色んな話を聞かせてくれるので楽しい。

少し休憩をしながらバジルと話したりする。

そのようにしてリハビリ室まで向かっていると――

藤森先生の後ろ姿が見えた。

するとバジルが嬉しそうに藤森先生に声を掛ける。

「藤森先生!」

藤森先生の発音が上手く出来ていたので少し驚いた。

藤森先生は振り返って、李哉とバジルに気付くとこちらに向かって歩き出した。

それを見たバジルは嬉しそうに藤森先生に向かって駆け出し――

バジルが藤森先生の元に行くと藤森先生はバジルの頭を両手でぐしゃぐしゃと撫で回す。

「よ~しよしよしよし……」

その姿はまるで、犬の頭を撫でるようで。

やはりバジルは犬のようだと思う。

そして頭を撫でられたバジルは嬉しそうに笑っている。

「あ――」

今、見えた気がする。

バジルの頭には犬の耳、お尻にはしっぽが。

バジルを犬で例えるならば柴犬だ。

柴犬のしっぽが見えた気がした。

思わず目を擦ってもう一度李哉が確認するほどに、バジルは犬のようだった。

「李哉君と一緒にいたのかぁ? ん~?」

「キシヤト居ルノ楽シイカラ!」

「そうか~。でもバジル君、病院内を走り回ったらダメだよ~? 他の患者さんにぶつかったら危ないからね?」

「大丈夫ダヨ。ボクチャント人避ケテ逃ゲルカラ」

「そういう問題じゃないんだよ~!」

そう言って藤森先生は嬉しそうにバジルの頭を撫で回す。

そのせいでバジルの髪は乱れてしまったのだが。

それでもバジルは嬉しそうに――

いや、寧ろ喜んでいる。

犬のしっぽが、見えそうなほどに。

見えたらきっとしっぽを振っているのだろう。

そんな事を思っていると。

「李哉君、バジル君と仲良くなってたんだね」

「あ、はい。この間会ってからすぐに」

「この子本当に犬みたいだよね~」

そう言いながら藤森先生はバジルの頭を撫でる。

「僕、犬好きなんだよね~」

藤森先生の顔が綻び、今まで見た事がないほどに優しい表情をしていた。

どうやら藤森先生はバジルの事を気に入ってるようだ。

元々子供が好きな藤森先生だが、その上に犬っぽいバジルには犬のような対応をしている。

それをバジルも嬉しそうに受け入れている。

――今度、翼にもバジルのイメージはどんなものかと聞いてみようと思う。

犬と答えたらもう完全にバジルのイメージは犬だ。

そんな事を思っていると。

「李哉君、頑張ってるね。もう袖が破けちゃったか。新しいパジャマをおばさんに買ってもらわないといけないね」

そう言って藤森先生が優しく笑ってくれる。

「藤森先生、イツキガ最近凄ク怖イヨ。ドウシテアンナニ怖イノ?」

「そうだねぇ。でも樹姫ちゃんだって本気でバジル君の事を嫌ってるわけじゃないと思うよ? それは、わかる?」

「ウン。本当ニ嫌イダッタラ日本語教エテクレルハズガナイカラ」

「そうだよ~」

そう言って藤森先生はバジルの頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。

そんな藤森先生を見ていると少し微笑ましい気持ちになって来る。

そして、不意に李哉は思う。

足が治ってくると、李哉は退院する。

退院するという事は、この病院に居れるのも後少しという事だ。

退院すると、李哉の知らないこの病院の外の生活が待っている。

この病院での生活は辛く、苦しいものでもあったが。

楽しい生活でもある。

そんな思い出のあるこの病院に、後もう少ししか居れらない。

そう思うと少し寂しく思えてきた。

それと同時に少しの不安。

この病院から出た事のない自分が病院から出て、上手くやっていけるのだろうか。

そう思うのだが、病院から外に出る事が楽しみでもあった。

この病院に、あと少ししか居られない――

それならば、残り少ない病院生活を楽しもうではないか。

最近の李哉はそんな事を思うようになっていた。










                                              ~To be continued~

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