青春スクエア ~柳葉李哉の片思い~ 小学生編4
十二月二十八日。
その日、李哉の目の前にはおもゆが置かれていた。
担当医の藤森先生が言うには、もうそろそろおもゆを食べても良い頃だろうという事だった。
という事で、食台の上に置かれたおもゆを――李哉は見つめていた。
ナースや梅が食べさせてくれると言ったが、李哉はそれを断った。
左手が使えるので、スプーンを使うくらいなら自分でも出来る。
それに今回は自分のペースで食べたかった。
前回、あれだけ食べては全て吐いてしまっていたのが少しトラウマで、もしかしたら自分のペースでも食べられないかもしれない。
そう思いながらもスプーンを片手に、おもゆを見つめる。
そしておもゆをスプーンで少量を掬う。
それを口元へと運ぼうとするが――
やはり前回の事が頭を過ぎり、自分で拒絶してしまう。
――しかし、いつまでも流動食のままではいられない。
もう一度、おもゆを口元へと運ぶ。
一瞬躊躇い、梅の心配そうな眼差しを受けてから思い切っておもゆを口の中へと入れる。
――――
おもゆが喉を通って胃の中に入っていった。
身体が、拒否しない。
それが嬉しくて、李哉はまた少しの量をスプーンに掬ってそれを口へと運ぶ。
一口で多くの量を食べるとまた吐いてしまうと藤森先生に言われたので、時間を掛けてでも李哉はおもゆを食べ切る事が出来た。
こんなにも自分で物を食べる事が出来るのが感動的で、嬉しい事だとは思わなかった。
これはきっと、自分だけが感じられる体験だと強く思えた。
「李哉、良かったね。自分で食べられるようになって」
「うん!」
おもゆを全部食べ終えて李哉は嬉しそうに、元気良く食べた器を梅に見せて答える。
そして李哉は梅の手前に置いてあるデスクの上を見つめる。
そこにはクリスマスの日に翼から貰った腕時計が置かれている。
今は使う事が出来ないので、退院するまではこのように飾っておこうと考えていた。
早く、この事を翼に報告したい。
そう思っていた時。
病室の扉がノックされ、梅が答えると静かに扉が開いて閉まる。
そこには私服姿の翼が手に本を持っている姿があった。
もうこの時期になると学校は冬休みに入り、翼は毎日病室に来てくれるようになった。
そのおかげで毎日翼の顔が見られる。
「翼君! 今日おもゆが食べられるようになったよ!」
そう言って李哉は先程と同じように食べた器を嬉しそうに翼に見せる。
それを見た翼は嬉しそうに微笑んで、いつも翼の座る椅子に座る。
そして本を開きながら翼はポツリと呟く。
「じゃあ一週間後くらいには雑炊かな」
「え、わかるの?」
「医者の勉強をしてるからわかるよ。大抵は」
「じゃあ雑炊の次は何?」
「お粥。その次は普通のご飯よりかなり柔らかいご飯と温野菜。それが食べられるようになったら最終的に普通食」
「へぇ、最初から噛む物は食べられないんだ」
「いきなり固形物を食べたら胃が驚くから、まず最初はおもゆのような物から少しずつ慣れさせないといけないんだ」
李哉の質問に、正確に答えてくれる翼を見て少し驚く。
そんな翼に李哉は少し一番気になる事を聞いてみる事にした。
「じゃあ、この足――腫れが引いて傷口を縫う手術をした後、どうするの?」
「縫った後、三週間ほどしてから足にプレートを入れる手術とアキレス腱、神経を繋げる手術をする。上手くいけば一週間後には歩くための練習を始められる」
「え、もう歩けるの?」
「上手くいけば、ね。俺からはこれぐらいしか言えない。ちゃんとした医者じゃないから。でも、上手くいったら中学校の入学式には間に合うよ。今の所、全治三ヶ月と二十日だから」
「…どうして翼君、そんなに詳しいの?」
あまりにも翼は詳しく教えてくれるので、どうしてそんなにも詳しいのかと聞く。
翼は一瞬言いたくなさそうに少し俯き、悲しげな表情をし、だけれど口を開いて答えてくれる。
「――前にも言ったけど、俺はこの病院の院長と総師長の一人息子。いずれはこの病院を継がなくちゃいけない存在。だから医者の勉強をさせられて……嫌でも、俺は医者にならないといけないんだ」
翼はそう言った。
嫌でも医者にならないといけない。
それはつまり――
「医者になる以外の道は…無いって事?」
「――ない。俺がこの病院を継がないと、この病院は潰れる」
「どうして…?」
何故、翼で無ければいけないのだろうか。
見る限り、翼は心の底から医者になろうとしているようには見えない。
そんな人に無理矢理そんな重たい役目を何故背負わせようとするのだろうか。
李哉の質問には、梅が口を開いて答えてくれた。
「李哉、医者の家系に産まれた子供は仕方ないんだよ。特に一人息子は。産まれた時から、病院を継がないといけない使命を与えられるんだ」
「じゃあ、翼君は――医者になるためだけに産まれたって言うの…?」
「――――両親は、俺の事なんて道具ぐらいにしか思ってない。俺が感情を持ってるなんて思ってない。あれは……家族じゃない」
翼は悲しげに、静かにそう言った。
やけに翼の静かな声が病室に響いたように感じられた。
悲しげな翼の姿を見て、李哉は何かのイメージを感じ取った。
そのイメージはハッキリとはしておらず、口や言葉などでは説明出来ないような、曖昧なイメージ。
翼の一言で病室の空気は重くなり、少し居辛くなる。
その時、静かな空間にケータイの着信音が響き渡った。
梅が慌ててケータイを鞄から取り出して「ちょっと出て来るね」とだけ言って病室から出て行ってしまった。
残された翼と李哉の空気は、少し重たい。
どうやって言葉を掛けていいのか、李哉は知識のあまりない頭で必死に考える。
すると。
「ごめん。今のは忘れて」
翼は雰囲気をいつもの雰囲気に戻してそう言った。
翼のその一言で、病室の空気は元に戻る。
元に戻ったのだが、李哉は翼の事が気になって仕方が無い。
悲しそうな表情をした翼に、何か声を掛けてあげたい。
先程のイメージも気になるが、一番は――
翼に何か声を掛ける事だ。
良く考えてみたら李哉について何も知らない。
知らない事の方が多すぎる。
翼の方が自分の事を自分よりも良く知っているような気さえする。
それでも――もっと翼の事を知りたいと思うのは、いけない事だろうか。
「翼君」
「何?」
翼は視線を本へと落としており、こちらを見ようとはしない。
こんな事を言ったら、怒られるかもしれない。
それでも、この衝動は抑えられない。
「僕、翼君の事――もっと知りたい」
「え……?」
翼が、驚いて顔を上げた。
李哉は怒られると少し思って、少し焦って言葉を付け加える。
「いや、だって…僕は翼君の事、あんまり知らないし…。でも、言いたくない事は言わなくていいから!」
李哉は少し翼の顔を見るのが怖かったが。
恐る恐る翼の顔を見てみる。
翼の表情は驚いたままで、やがて――
優しく笑ってくれた。
翼は本を開いて朗読してくれようとしてくれていたが、本を静かに閉じて李哉の目を見つめる。
こうやって向かい合って顔を見ると、やはり翼の顔は完璧と言っていいほどに綺麗に整っており、思わず見惚れてしまう。
それに、何故だか翼の顔を見ていると顔に熱を持ってしまう。
恥ずかしくなって目を逸らそうと思うのに――
翼の瞳を見ていると、どうしても目が逸らせなくなってしまう。
まるで、催眠にでも掛かったように。
「何から知りたい?」
「え…?」
静かな病室に、翼の声が響く。
一瞬、翼の言った言葉の意味がわからず。
李哉は翼の顔をキョトンとした顔で見つめる。
「なんでも教えてあげるから。何から知りたい?」
そう言われて、そこでようやく翼の言葉の意味を理解する。
そして翼は優しく微笑んでいる。
何を知りたいかと突然聞かせても逆に何を聞きたいのかわからなくなってしまう。
「な、なんでもいいよ。色んな事を教えて」
「じゃあ、学校の図書室の話」
「図書室?」
「そう、図書室。俺、三年で学校の図書室の本――全部読み終えた」
「三年で!?」
「そう、三年で。先生達も過去最高記録だって言って賞状くれた」
やはり翼は自分が思っていたよりも凄い人間なのだと理解する。
図書室の本って、かなりの数があると思うのだが……。
それを三年で全て読んでしまうとは。
驚きながらも李哉はなんとか口を開く。
「――翼君、すごい本を読むんだ…」
「本は好き。家にもかなりの量の本があるよ。最近新しい本を大量に買って来たから本の置き場に困ってるけど」
「翼君って、一日に本を何冊くらい読めるの?」
「平均十七冊」
それを聞いて更に驚く。
そんな話を聞いて少し考えてしまう自分が何処かに居る。
自分と翼では釣り合わないのではないのだろうか……?
そんな事を考えてしまう自分が何処かに居た。
「読むペース、速いんだね…」
「速読で読んでるから」
「え、どれくらいのスピードで?」
李哉がそう聞くと、翼は手にしていた本の一番最初のページを開き――
パララララ、と音が出るほどの速度で読んでいく。
あまりに速すぎて、ただ速くページを捲っているようにさえ見えるのだが。
「でもこれは、普通の人にはお勧め出来ない。速読は目で読むんじゃなくて、脳で読むから」
「そうなの?」
「そう。人は目で見た本はストーリーでしか覚えてなくて文章までは全部覚えられない。だけど、脳で見た本は文章や台詞まで正確に覚えておけるんだ。目で記憶した物は似たような記憶と混ざって曖昧になるけど、脳で覚えた記憶はハッキリと鮮明に覚えておけるんだ。だから、速読は脳に直接書いてある文を一瞬で記憶させるから普段よりも脳を使うんだ。あまり慣れていない人が速読をするとすぐに疲れるし、体調も崩すから勧められない」
――流石、多くの本を読んでいるだけはある。
翼は知識が多過ぎる。
やはり、翼と自分は釣り合わないのでは……?
そう思い始めて、知識というワードで李哉は家庭教師の事を思い出して聞いてみる。
いや、もうわかりきっている事なのだが。
一応確認で聞いてみる。
「――翼君、頭良いの?」
「……多分……?」
否定も肯定もしない曖昧な答えで翼は答える。
曖昧なので、ハッキリと聞いてみる。
「テストの平均点って、何点なの?」
「……九十五点」
「――うそ」
「本当」
釣り合わない。
それ以前に、翼に追い付く事が出来ない。
翼と並びたい。
隣に並んで歩けるような存在になりたい。
そう思ってすぐに退院したらたくさんの本を読もうと決意する。
「頭、良いんだね…」
「――他に、何か聞きたい?」
そう聞かれて、李哉は何を聞きたいかと考える。
何があるだろうか。
そう思っていると、不意に思い出す。
ランドセルを背負った翼の姿を思い出した。
そういえば、学校での翼はどのようなものなのだろうか。
気になったのですぐに聞いてみる。
「じゃあ、学校ではどう過ごしてるの?」
「学校……?」
一瞬、翼の表情が曇った。
それは、聞いてはいけない事だったのだろうか。
そう思って他の事を聞こうとすると。
それでも翼は答えてくれる。
「ずっと本を読んでる。昼休みは図書室で。李哉君と会う前は放課後に図書室で本を五冊読んでから病院に来てたけど」
そんな翼の言葉を聞いて、少し疑問に思う。
なんだか、あまり人と接触していないと。
本ばかり読んでいるという事は、人と話していないのだろうか。
気になってそれも聞いてみる。
「友達と話したりしないの?」
「――友達は、居ないから」
「え?」
「俺、学校に友達は居ない」
「一人も…?」
「一人も。だから本を読んでる」
「そうなんだ…」
やはり、聞いてはいけない事だったのだろうか。
翼の表情は少し悲しげだった。
李哉は翼に悲しげな顔をして欲しくなくて、楽しい話をしようと思うのだが――
知識も面白い話題も持っていない李哉はどうしていいかわからず。
とりあえず口を開いた時。
「だから、李哉君が友達になってくれて嬉しいんだ」
翼の言葉に少し驚いて翼の顔を見る。
翼の表情は嬉しそうに、笑っていた。
その表情を見て李哉の胸が締め付けられる。
それは辛いはずなのに。
何処か心地良い。
自分は一体、どうしてしまったのだろうか。
翼の笑顔を見ると、心臓を捕まれたような感覚がする。
翼の笑顔を、ずっと見ていたい。
今の綺麗な笑顔を先程のように悲しい表情にはしたくないので、翼が悲しそうな顔をしないような質問を翼に投げる。
「じゃあ翼君、本を読んで得た豆知識か何かを教えてくれる?」
「いいよ。でもこれは豆知識じゃないんだけど……。前に辞書を引いてた時に見つけて――自分を差す言葉で〝僕〟ってあるだろう。〝僕〟の意味は召し使い、下僕の意味もあるんだって」
「嘘っ!? そうなの!?」
「本当。俺もそれを知った時はショックだった。まさか自分の事を自分で下僕って呼んでたって事に。だから知ってからすぐに自分の事を〝俺〟って呼ぶようにしたんだ」
――という事は、前は翼も自分の事を僕と呼んでいた事があるという事だろうか。
そう思うと嬉しくて、李哉は少し微笑んでいた。
そして李哉の視界の端に、テーブルの上に置かれた腕時計が入った。
腕時計が視界に入った瞬間、ふと思い出した。
クリスマスのあの日、クリスマスパーティーの始まる直前に翼の言った言葉を。
『あとで感想、聞かせて』
あの日結局、あの言葉の意味を聞けなかった。
一体、あの感想とは何の事だったのだろうか。
どうやら、あれはクリスマスパーティー事態の事では無さそうだった。
それにあの日、翼は聞いて来なかった。
一度だって「どうだった?」等とは聞いて来なかった。
なので、少し気になって聞いてみる事にした。
「そういえばさ、クリスマスの時に聞いてなかったけど…あの時の感想って何?」
「ああ、あれね。あのクリスマスパーティーでのサンタの設定考えたの、俺だから」
「え、あのサンタの設定考えたのって…翼君!?」
またもや、驚くような事を翼は淡々と口にした。
――少し、心臓を鍛えないといけないかもしれない。
唐突に驚くような事を簡単に言う翼の傍に居たいと思うならば。
そう思っていると、翼はやはり淡々と答える。
「そう、俺が考えた。というか、基本的に全部俺が考えた。藤森先生の台詞も、プレゼント交換も、あの袋の穴を直したのも。話を書くのが好きだから」
「そうだったんだ…。え、じゃあ教えて! あの袋の穴――どうやって直したの?」
「直したって言うより、ただ交換しただけ。穴の開いていない袋とね。みんなが俺の方に視線を向けた時に素早く藤森先生が摩り替えただけ。だからみんなにはマジックみたいに見えたって事」
確かにクリスマスパーティーの時、子供達にどうしてプレゼントを持っているのかと聞いた時。
翼の話題が出て――
そうだ。
確かあれは子供達が翼の話題を出して、翼の元にみんなの視線が集まった。
「でもあれって確か――小さな子が言い出して…」
突然の事だったはずだ。
それを上手く使ったという事なのだろうか?
「それも、俺のシナリオ通り」
そう言って翼は、少し悪戯っぽく笑って右手の人差し指を唇の前で立てる。
そんな翼の姿を見て、心臓が跳ねる。
少し顔が赤くなってしまい、少し目を逸らす。
なんだろうか。
上手く説明出来ないようなこの感覚は。
心が暖かくなるような。
とても心地が良くて。
トクン、トクンと心地良く心臓が鳴って。
すごく翼と居たいと思う。
ずっと、翼の顔を見ていたいと思う。
しかし……。
――あんな設定の凝った事を考える事が出来る翼を尊敬する。
少なくとも、李哉には出来ない事だから。
同い年で、あんな設定を考えられる人がいるなんて……。
その時、ふと思う。
あのサンタの設定を考える事が出来るのなら、翼の書く話はどんなものなのだろうかと。
翼の書く話を読んでみたいと思い始める。
「翼君って、どんな話を書くの?」
「どんな……。どんな話だろう」
翼はそう呟いて少し頭を抱えて考え込む。
――そんなに難しいジャンルの話を書いているのだろうか。
そう思うと逆に翼の書く話を聞きたくなってくる。
やがて思い付いたのか、翼が顔を上げて口を開く。
「――今の俺には上手く説明出来ないジャンル」
(一体、どんなジャンルの話なんだろう…)
「それ以前に人に見せた事が無いから、自分の書く話がどんなジャンルかわからない」
「そうなの?」
「――趣味で、時間が空いた時に書いてるから」
「じゃあ、完結した話ってある?」
「ない。全部未完結」
「それって、終わりがないって事?」
「……その方が、いいかもしれない」
小さな声で、翼はそう呟いた。
その声は一応李哉の耳には届いたのだが。
あまりにも小さな声だったのであまり聴き取れなかった。
なので少し聞き返してみる。
「今、何か言った?」
「なんでもない。じゃあそろそろ、朗読を始めようか」
翼はそう言って手にしていた本を開き、朗読を始めてくれた。
その日、李哉は翼について色々と知る事が出来た。
そして――
もっともっと、翼に近付けて、隣に並べるようになりたいと思った日でもあった。
十二月三十一日。
病院にも大晦日がやって来た。
今夜は大抵の患者が年越しまで起きていていい日となっていた。
それに――
今日は一日中、翼と居れる日でもあった。
翼が言うには家に居てもつまらないので会いに来てくれたらしい。
今日一日翼と居れるのは嬉しいのだが……。
本当に、いいのだろうか?
そう思って李哉は翼に聞く。
「いいの?」
「何が?」
「だって、もう六時前だから帰らないといけないだろうし…」
「別に帰らなくてもいいよ。家に帰っても、誰も居ないから」
「でも、お母さんかお父さんが帰って来る時間には――」
「帰って来ない」
李哉の声を遮って、翼が少し冷たく言い放った。
翼の声は、静かに病室に響く。
そして、少しだけ空気が冷たくなったように感じられた。
「え…?」
「――二人とも、仕事が忙しいから帰って来ないよ。それに今日は嗄さんも来ないし。家に一人で居ても、つまらないから」
そう言う翼は何処か悲しそうで、寂しそうに見えた。
そんな翼の姿を見て、数日前に感じたあのイメージが頭に過ぎった。
――なんだか、翼が悲しそうな表情を見た時にあの曖昧なイメージを感じる気がする。
自分でもそれが何なのかわからないが、気のせいだと思って頭の隅へと追いやる。
それから、どうやって翼をいつもの翼に戻そうかと考えて。
明るい話題を出そうとして口を開こうとした時――
翼が先程までの悲しげな雰囲気を完全に断ち切っていつもの雰囲気に戻った。
いつもの翼に戻って、いつものように聞いてくる。
「そういえば李哉君。年越しカウントダウンまでの間――どうする?」
そんな翼の姿を見て、李哉はもう一度思う。
翼は、本当に不思議な人だと。
悲しい雰囲気を出したと思えば、すぐにいつもの翼に戻る。
まだまだ、翼について何も知らないのだとなんだか再確認させられたような気分になった。
もっと、翼について知りたい――
そう思って李哉はこう答えた。
「うーん、朗読を聞くのもいいけど…」
「いいけど?」
「翼君の書いた話を聞きたいな」
「え――?」
翼は、驚いて李哉の顔を見る。
そんな翼の表情を見て、李哉は少し緊張をしながら口を開く。
「この間、話を書くのが趣味だって言ってたから。翼君はどんな話を書くのかって僕――じゃなくて…お、俺が…見極めてあげるよ」
今回初めて〝僕〟から〝俺〟と呼び名を変えて言ってみたのだが――
先程まで驚いた表情を浮かべていた翼は。
身体を屈めて笑っていた。
〝俺〟と言うのがそんなにも不自然だったのかと少し不安に思う。
翼はなんとか笑いを堪えながら、李哉に言う。
「そんな、無理しなくてもいいのに。別に僕でもいいと思うけど……」
「いや、あんなの聞いたら嫌でも俺って言うよ。絶対に」
「その気持ちもわからなくは……あははは」
堪えていた笑いを我慢出来ずに翼はまたも笑い出してしまう。
翼の楽しそうな笑い声が病室に響き。
翼が楽しそうに笑うならば、別にいいかと思う。
暫く笑い、笑い疲れてから呟く。
「ごめん…。自分も俺って呼ぶ時、こんな感じだったのかなって思って……。で、何の話をしてんだっけ?」
「えーと、翼君の書いてる話を聞きたいって所かな」
「いいよ、別に。どんな話が聞きたい?」
「え、選べるくらい書いてるの?」
「まぁ、思い付いた話を書き始めては完結してないけど」
「じゃあ、今気に入ってる話を」
「わかった。じゃあ『暗闇の水面』って話」
翼は少し思い出すようにして頭を抱え、少しの間病室に静寂が訪れる。
やがて、翼は顔を上げて口を開く。
「暗闇の水面って話は、主人公の少年は毎日同じ夢を見るんだ。そこは何も見えない暗闇で、少年は水の上に立ってる。しばらくすると自分の立っている水に映ったもう一人の自分が動き出して、自分の目の前に現れる。もう一人の自分は口を開いて何かを言うけれど、何を言っているのか全く聴き取れない。そして夢が覚めてしまう。そんな夢を毎日見る。そんな夢を見るようになって一年が過ぎた頃。その日の夢はいつもと違っていた。いつもなら水の中からもう一人の自分が出て来るけど――その日だけは、違っていた。水に自分の姿が映らなかった。まるで自分の立っている水の下は、別世界のようにさえ感じられた。その時、少年はその水の中へと落ちてしまう。落ちて少年が目を覚ました世界は――荒れ果てた世界。そこは、パラレルワールドだった」
――翼の考える話は独特で、聞いているだけで翼の作り出した世界に惹き込まれていく。
正直、いつも翼が朗読してくれている本物の作家の考えた話よりも、翼の考える話の方が面白く感じた。
そう思うのは作家に失礼だが、翼の話を聞きながら李哉は思った。
翼には、作家になれる才能を持っている。
出来る事なら、医者よりも小説家になった方がいいと思えるほどの。
この話を何処かに応募すればいいのに……。
しかし、それが出来ない理由を李哉は知っている。
翼はこの病院を継がないといけない。
だから話を書くのはあくまで〝趣味〟だ。
だけども、それを趣味として留めておくというのは宝の持ち腐れだ。
みんなに――翼の考える話を伝えたい。
たったの十二歳にして、こんな話を書けるのだと――
それに、聞いているだけでなんだか伝わってくる。
哀しみ、苦しみ、切なさ、寂しさ。
まるで――翼の心の叫びのようで。
時に、独りで寂しいと泣くパラレルワールドでの主人公や。
誰も、自分を見てくれない。
みんなが、自分を否定する。
みんな、自分を受け入れてはくれない――
だから、独り。
聞いているだけで、胸が痛むような話。
翼の考えた話を聞いて、またあのイメージが頭に過ぎる。
それが何なのか、やはりわからない。
わからないが、一瞬だけ何かを理解したように思えたが。
その〝理解〟は瞬時に消えてしまう。
――なんだろうか。
翼の書いた話を聞くと、何か訴え掛けているように感じられる。
何か――
助けを求めているような……。
李哉はそんなものを感じたような気がした。
「荒れ果てた世界で、世界を元に戻すために戦うもう一人の自分。世界が崩れ始めたのは一年前。一年前からずっと主人公に助けを求めてたけど、声が主人公に届く事はなく、世界は崩壊してしまった。だけど、もう一人の自分には世界を元に戻す義務があった。それは――世界を崩壊させたのは、自分だから」
「そうなの!?」
翼は静かに頷いて答える。
どういう事なのかと思っていると。
翼が再び口を開いて教えてくれる。
「正確にはパラレルワールドの主人公の中に眠るもう一人の自分。――パラレルワールドでの主人公は、二重人格だったんだ。そしてその人格は世界を滅ぼそうとしている。それをパラレルワールドの主人公は止めようとしている。その人格を止める事が出来る鍵は主人公――今はそこまでしか考えてない」
翼が口を閉じて、病室に久しぶりの静寂が訪れる。
その静寂が李哉に今まで聞いていた話を思い返す時間を与えてくれて。
翼の考える世界に圧倒されていた。
そして、聞いた話の感想を言わなくてはと思い口を開くが――
どうやってこの感動を口で説明すればいいのかわからない。
「――――凄過ぎて、どう説明していいのかわからない」
「全然面白くない話だよ」
「そんな事ない! すっごく面白かったよ! どうやったらそんな話が書けるの!?」
「――その時の思い付きで」
「翼君! これだったら小説家になれるよ! 翼君の書く話、ぼく――じゃなくて俺好きだよ!」
「でも……」
そこで、翼が少し悲しげな表情をする。
その姿を見てすぐに李哉は口を開く。
翼を、元気付けたい。
さっきみたいに、良い笑顔で居て欲しい。
そう思いながら李哉は素直な気持ちを口にする。
「わかってる。翼君が小説家になれないって事は。でも、俺は翼君の書く話のファンだよ」
「李哉君……」
翼は驚いた表情で李哉を見て――
そして、優しく笑った。
その笑顔を見て、李哉もつられて笑顔になる。
胸も高鳴り、鼓動は速い。
だけれどそれがとても心地良いと思ってしまう。
――それが一体何なのか、李哉はまだ知らない。
そう〝まだ〟知らない。
年越しカウントダウンまでの間、翼の考えた話をずっと聞いていた。
やはり翼の考える話はどれもが悲しく何処か寂しく、切ない物語ばかりだった。
話を聞いているだけで、胸が痛むようなものばかりだった。
だがそこに惹き付けられる。
翼の話を聞いていた時――
不意に病室の扉がノックされた。
病室には翼と李哉と梅がおり、来る人と言えばもうナースか藤森先生くらいしか居ない。
李哉が少し不思議に思いながらも返事をする。
「どうぞ」
すると翼がようやく気付いたように呟いた。
「ああ、もうそんな時間か」
「え?」
病室に入って来たのは、よく李哉に食事を持って来てくれる優しいナースだった。
ナースが押していたのは――
車椅子。
その車椅子を見て反射的に李哉は壁に掛けられていた時計を見つめる。
時計の針が指し示す時間は十一時五十分ほどだった。
「はい、翼君。いつもは言った時間に絶対に来るのに今日は来なかったから車椅子、持って来てあげたよ」
「――ありがとうございます」
「私が乗せてあげようか?」
ナースにそう聞かれて、一瞬返答に困った。
翼に乗せてもらう方がどちらかと言えばいいのだが。
しかし、ここで翼が良いと言ったら変ではないだろうか?
そう思って李哉が少し返答に困っていると――
「大丈夫です。俺が乗せますから」
「そう? じゃあ、気を付けてね」
「ありがとうございます」
翼がそう返答して、ナースが病室から出て行ってしまう。
翼がそう言ってくれるのはいいのだが――
前回と同じようにして翼は布団を捲って足と身体を車椅子へと向ける。
――翼が乗せてくれるのは嬉しいのだが。
嬉しいのだが。
嬉しいのだけれども。
問題が一つある。
次の、動作だ。
「じゃあ、乗せるからね」
「う、うん…」
まだ翼に触れられていないのに、心臓がドクドクと脈打つ。
この状況で触れられたら、心臓が破けるか気絶でもしてしまうんじゃないかと思う。
――どうして、こんなにも心臓が煩いのだろうか。
その時、優しく翼が李哉の身体に触れる。
(――どうか、どうかこのドキドキがバレないように!)
祈るように李哉は目を瞑る。
その間に翼は李哉の身体を持ち上げて車椅子へと移動させる。
車椅子に乗せられると李哉は目を開けるが――
なんだか、翼の顔は見れない。
なので少し翼から視線を逸らすようになっていた。
「じゃあ、行ってらっしゃい」
「え、おばあちゃんは行かないの?」
「もうちょっとしたら行くよ。先に行っておいで」
梅にそう言われ、李哉は「じゃあ後で」と返す。
それに梅は微笑んで返してくれる。
準備が整うと翼は梅に頭を下げて病室から出る。
みんなが集まる待合ホールへと向かう。
李哉はまだ少し心臓が鳴っていて、翼の方を見れない。
何か話をしようとは思うのだが。
話題が思い付かなければ、話す事がない。
すると。
「――それで、俺の書く話のジャンルって、何?」
唐突に声を掛けられて一瞬、何を聞かれたのか理解出来なかった。
少し落ち着きながら李哉は翼の質問の答えを考える。
どんな、ジャンルだろうか――
「んー、主に悲しい話だったよ。悲しい話をベースに色んなジャンルを書いてたね。ファンタジー系とか、学園ものとか。だから多分翼君の書く話はね。悲しい話」
「そうなんだ……」
翼は李哉の返答を聞いて納得する。
「自分でどんなジャンルにしようとか考えないで書いてたの?」
「そう。自分の感じた事や、こんな世界があったら、疑問に思った事とかを形にしてるだけだから」
「――やっぱり翼君、凄いね」
「俺は凄くなんかない。だけど――普通じゃないけどね」
翼が小さくそう呟いた時、丁度待合ホールへと着いた。
待合ホールは多くの人がおり、五歳くらいの小さな子供から点滴を打っているおじいさんまで。
老若男女問わずに待合ホールに集まっていて、結構騒がしかった。
そのおかげで、翼の呟きは掻き消されて李哉の耳には届かなかった。
テレビの前には人だかりが出来ており、みんなカウントダウンに意気込んでいる様子だ。
そんな中。
この人込みの中で一際目立つ人物が居た。
それは――
前が見えないほど両手いっぱいにラッピングのされた箱や小さな袋を抱えている藤森先生の姿。
李哉が少し離れた所にいる藤森先生を見つめていると――
藤森先生は手にしている荷物を落とさないようにバランスを取りながら、こちらへと向かって来ていた。
それも迷う事なく李哉の方へ向かって。
かなり藤森先生が李哉に近寄って来ており、どうやら藤森先生は前が見えていないようだった。
あと一歩前に出たら李哉の乗っている車椅子にぶつかる距離まで来て――
「藤森先生。李哉君にぶつかってしまうので止まってください」
「えぇ?」
翼の声で藤森先生は歩みを止めた。
そのおかげで藤森先生が車椅子にぶつかる事は避けられた。
その代わりに――
藤森先生が急に止まったので、山積みにされていた荷物の中から小さな箱がコロンと李哉の膝の上に落ちて来た。
それを李哉は手に取り。
「先生、どうしたんですか? それ…」
「えっと……李哉君、悪いけど膝の上に置かせてもらってもいい? 重くないから」
「いい、ですけど…」
李哉がそう答えるとすぐに翼が車椅子のストッパーを掛けて藤森先生が手にしていた荷物を半分ほど持つ。
そのおかげでようやく藤森先生の顔を見る事が出来た。
藤森先生が荷物を李哉の膝の上に置く。
量の割には重さがほとんどない。
「ふぅ、やっぱり紙袋もらっておけば良かったかなぁ」
「これ、どうしたんですか?」
「ああ、これ? これはね」
「あの、すみません。荷物増えちゃいますけど……」
そう言って翼も小さな手のひらサイズの紙の袋を差し出す。
そして――
「誕生日、おめでとうございます。藤森先生」
「いいよ、嬉しい。ありがとうね」
そう言って藤森先生は翼からのプレゼントを受け取る。
李哉は少し驚きながら自分の膝の上にある物を見る。
ということは、これは全部誕生日プレゼントという事か。
そう思いながら李哉は口を開く。
「あの、すみません…。誕生日だって知らなくて…」
「いいよ。それに教えてないからね」
藤森先生は優しく笑う。
すると、前髪が前に垂れて来たのでそれを掻き揚げながら翼に聞く。
「翼君。さっそくだけど貰ったプレゼント、開けてもいい?」
「いいですよ。いつもの物で悪いですけど」
「それが逆にいいんだよ。でも、レパートリー増えちゃうなぁ」
そんな事を言いながら少し笑い、藤森先生は翼の渡したプレゼントを開ける。
プレゼントの中身は、シンプルな銀色のヘアピンと少しラメの掛かった黒のヘアゴムだった。
藤森先生はそれを見て「ありがとう」と言ってすぐに使用する。
前髪をヘアゴムで結い、目に掛かる髪はヘアピンで留める。
「どう?」
「はい、やっぱり似合ってます」
翼の選んだヘアピンとヘアゴムは藤森先生に良く似合う物だった。
似合うと言われてまるで子供のように無邪気に藤森先生は笑う。
そんな藤森先生の姿を見て李哉が少し聞いてみる。
「あの…もしかしてこのプレゼントって、全部――」
「うん。大抵がヘアピンとヘアゴムだよ。みんな僕がヘアピンとヘアゴムを付けてるからプレゼントでくれるんだ。それに子供達のお小遣いだったら100円ショップで買えるからね。僕のプレゼントは。これでまたレパートリーが増えるや。毎日みんなのくれた物を使おう」
そう言って藤森先生は嬉しそうに笑う。
そんな藤森先生の顔を見て、本当に喜んでいるのだとわかる。
すると。
「藤森先生!」
先程李哉の病室にやって来たナースが紙袋を持ってやって来た。
ナースの声に藤森先生は振り返って。
紙袋を見て嬉しそうな顔をした。
「ありがとう。やっぱり紙袋はいるな。みんなを甘く見てたよ」
そう言って藤森先生は笑う。
すぐにナースは紙袋の中に李哉の膝の上に置かれたプレゼントを入れていく。
藤森先生もナースから紙袋を受け取って、貰ったプレゼントを紙袋へと入れる。
翼もそれを手伝い、プレゼントを紙袋に全部入れると藤森先生は両手に紙袋を提げて李哉と翼に言う。
「ごめんね、じゃあもう僕は行くよ」
「はい、先生。また後で」
ナースがそう言うと藤森先生は笑顔で返して李哉達に背を向ける。
そして歩き出してすぐに子供達が藤森先生の元へ集まり、またプレゼントを貰っている姿が見える。
そんな姿を見て、まだ紙袋が必要だと思う李哉と翼とナース。
ナースはそう思うとすぐにナースステーションの方へと行ってしまった。
多分、紙袋を取りに行ったのだろう。
李哉がそう思っていると。
「もうそろそろだね」
翼がクリスマスの時に李哉が渡した腕時計を見てそう呟いた。
ちゃんと翼が渡した腕時計を使っている事が嬉しくて、少し顔が綻んでしまう。
李哉が嬉しそうな顔をしていると、翼も優しく微笑んでくれて、車椅子をみんなの集まっているテレビの前へと移動させてくれた。
翼が車椅子をテレビの前まで押してくれた時。
『カウントダウンまで一分を切りました!』
丁度テレビからそんな声が聞こえた。
テレビの前にいる患者達は小さな声でカウントダウンを始めている。
李哉は十からカウントダウンを始めようと思っていたので少しの間、患者達を見つめている。
「李哉君」
「何?」
新しい年を迎える。
その事にウキウキとしながら李哉は聞き返す。
そんな李哉とは裏腹に、翼は真剣な声で呟いた。
「来年は、今よりもずっと辛いと思うよ」
「え…?」
翼の声は、とても静かで。
逆にその静かな声が周りの騒がしい、楽しげな声に紛れる事無く逆に浮いて聞こえ、李哉の耳に届いた。
驚いて翼の方を見てみると――
「来年は、足を治すための手術が本格的に始まるから。李哉君、その痛みに耐えられる?」
翼は真剣な声で、悲しそうな――心配そうな表情をして聞いてきた。
――翼の悲しげな色を帯びている瞳から、目が離せない。
まるで、その瞳に吸い込まれそうで。
悲しげなのに、とても綺麗に思える瞳。
翼の顔に見惚れている自分に気付き、思わず翼から顔を背ける。
顔が熱くなっている事に自分で気付き、少し顔に手を当てて顔から熱を奪う。
そして、思った事を素直に口にする。
「耐えるよ。だって、足を治して翼君といっぱい遊びたいから」
そう言って、李哉は無邪気に笑う。
いつもならば李哉の笑みにつられてか、それとも嬉しいのか翼も笑うのだが――
今日は、笑わなかった。
笑う事は無く、心配そうに悲しげな表情をしていた。
李哉はすぐに翼の変化に気付いたが――
「「「30!」」」
年越しカウントダウンをみんなが始めたので翼はすぐに顔から表情を消した。
30から大抵の人がカウントダウンを始めた。
李哉は翼に先程の言葉の意味を聞こうとするが。
聞くタイミングが無かった。
きっと、今聞いても周りにいる患者達のカウントダウンの声で掻き消されてしまうだろうから。
翼の顔を見て様子を窺いたいのだが――
どうしてだか、翼の顔を見る事が出来なかった。
すると、カウントダウンが10に入った瞬間。
その場にいた全員がカウントダウンを開始する。
もちろん李哉も。
今聞いたら、この楽しい雰囲気と空気を壊してしまうと思ったからだ。
「10、9、8、7、6、5、4――」
翼もカウントしていると李哉は思い込んでいたが――
翼は、カウントダウンをしていなかった。
ただ悲しげな表情でテレビの画面を見つめていた。
それに気付く事はなく、李哉はカウントダウンをする。
「3、2、1――」
ハッピーニューイヤー、明けましておめでとう。
統一性は全くもってゼロだったが、それぞれに年を明けてみんなに挨拶をしている。
李哉もその中の一人で――
「翼君、明けましておめでとう! 今年もよろしくね!」
「こちらこそ、よろしく。李哉君」
李哉が嬉しそうに笑って言うと――
今度こそ翼は笑ってくれた。
少し笑って、翼はそう返してくれた。
そんな翼を見て李哉は嬉しそうに笑う。
李哉は今年、足を完全に治して翼と一緒に色んな場所で遊ぶという目標があった。
それと、今よりももっと翼に近付いて仲良くなる事。
その目標のために李哉は強く生きようと思っていた――
~To be continued~




