青春スクエア ~柳葉李哉の片思い~ 小学生編3
本日、柳葉李哉が目を覚ましたのは午後三時前。
午前の記憶が全くない。
どうやら今日はほとんど一日中、気を失っていたようだった。
時計を見て少し溜息を付く。
出来るならば、毎日普通に早寝早起きをしたい。
そう思っても、足の激痛には耐えられずにやはり気を失ってしまう。
少し辺りを見渡してみるが、梅の姿が見つからない。
何処に行ったのかと考え始める。
トイレか、それともまた用事で――
その時、今日もまた左足に激痛を感じる。
「ッ~……」
今日の痛みは今まで以上のもので、午前中はずっと気を失っていたほどの威力はある。
しかし、今ここで気を失うわけにはいかない。
四時になったら、翼が朗読をしに来てくれるのだから。
翼が来るまでにまた気を失うわけにはいかない。
「……こんな、の…痛く、なんか…ない……」
気を強く張って痛みに耐える。
耐えるのだが、どうにも一人だとどうしても足の痛みを意識してしまう。
そして意識を手放してしまいそうになる。
だが、翼が来るまで待つ。
来てくれた時に自分が気を失っていたらせっかく来てくれたのに台無しになってしまう。
そう思い、病室に飾られている時計を見つめながら早く翼が来る事を祈る。
――だが。
二分ほど経っては時計を見つめ、また二分ほど経っては時計を見つめる――
李哉はそれを繰り返していた。
そのため、時間が一向に進まない。
その上に梅も戻って来ない。
十分が一時間のように感じられ、三十分が五時間のように感じられ――
一時間経った頃には一日が過ぎたかのようにさえ感じられる。
時計の針が四時十分を差した時、病室の扉がノックされた。
「どうぞ……」
李哉の声には力がなかったかもしれない。
いや、実際力の無い声を出してしまったので翼がいつもは静かに扉を開けて入って来るのに少し慌しく病室に入って来た。
翼の表情は少し焦りを帯びており、心配そうに聞いてくる。
「大丈夫?」
「あ……来てくれた…」
李哉は顔を苦痛で歪ませながらも、嬉しそうに微笑んでそう言った。
そんな李哉を見て翼は悲しそうな表情を見せて李哉を見つめる。
「なんだか、今日は足の痛みが酷くて……さっきまで気を失ってた…」
「だったら、今日はやめようか」
そう言いながら翼はいつものように椅子に座る。
そして手にしていた本をデスクの上に置こうとしたので――
李哉はその手を左手で握って止め、口を開く。
「いや、読んで! だって僕、今まで頑張って綾崎君を待ってたから……」
そこで、翼の手を掴んでいる事に気付いてすぐに手を放す。
どうしてか胸が高鳴り、何故ここで緊張をしてしまうのだろうかと疑問に思う。
すると翼は少し困ったような表情をしたが――
やがて本を開いて翼は言う。
「――じゃあ、読むよ」
そう言って翼は朗読を始めてくれたが、結局は内容を全然覚えられなかった。
――我慢していたというのに、途中で意識を手放してしまったのだ。
結局、目を覚ましたのは二日後の事。
その日は足の痛みが少し引いていたので、まだ耐えられるレベルだった。
目を覚ましたのは翼が病室に来る二分前。
目を覚まし、すぐに梅から二日ほど眠っていた事を知らされる。
その直後に病室の扉がノックされ、本を手にした翼が病室に入って来た。
翼は梅に頭を下げて椅子に座り、優しく李哉に聞いてくる。
「柳葉君、大丈夫?」
「うん。なんとか」
「無理しないようにって言ったのに。今度無理したら朗読は聞かせない」
「え~、せっかく来るまで必死に頑張って耐えたっていうのに」
「我慢出来ないくらいに痛かったらすぐに言う事。身体に良くないから」
「でも…綾崎君の朗読を聞いている間は痛みを忘れられるんだ。だから――読んでくれると嬉しいんだ」
そう言って李哉は翼に笑顔を向ける。
翼は少し困ったように、だけれども嬉しそうに笑い、本を開いて朗読を始めてくれる。
何処まで覚えているかと翼は優しく聞いて来て、前回の読み始めからと答えるとそこから朗読を始めてくれる。
――翼の朗読を聞いていると、確かに足の痛みがあまり感じられない。
だから本当はずっと聞いていたいほどだ。
翼の心地の良い声をずっと聞いていたい。
しかし、それは出来ないので李哉は短い貴重な朗読の時間を大切にしていた。
翼の朗読を聞いていると、時間はまるで一瞬のように過ぎ去ってしまう。
アラームの音が鳴り響くと、朗読の時間は終わる。
もう、時間が止まってしまえばいいのにとさえ思う。
そうすればずっと翼の声が聞いていられるのだから。
それか、それならアラームが無くなればいいのに。
そう考えて、そのアラームが一体何のアラームなのか気になった。
翼は朗読をやめてすぐにケータイを取り出し、アラームを止める。
聞いていいのかと少し思ったが、ここは思い切って聞いてみる。
「それ、何のアラーム?」
「これは――家に帰る時間のアラーム」
それを聞いて梅は壁に掛けられている時計を見つめる。
時計の針が示していた時間は――
五時四十五分だった。
「六時には家に帰らないといけないんだね?」
「まぁ、そうです」
「門限? それとも他に、何かあるの?」
「――六時に、家庭教師が来るから」
「へぇ、家庭教師雇ってるんだ」
「今から家に向かわないと間に合わないから」
そう言う翼の表情は少し、嬉しそうだった。
そんなに勉強が好きなのだろうか。
李哉の場合、勉強は嫌でもなく、好きでもないので少し尊敬する。
翼は椅子から立ち上がって梅に頭を下げ、李哉に「また」と声を掛けて病室から出て行く。
――家庭教師を雇うという事は、頭が悪いのだろうか。
いや、頭が良い人でも家庭教師を雇っている人だって居る。
塾で他の生徒と一緒に勉強するのを苦手とする人は、家庭教師を雇って勉強している。
それに、李哉は翼が頭が良い事は知っていた。
少なくとも漢字に関しては。
朗読をする時、一度も躓く事がないからだ。
最初はルビが振ってあるからだろうと思っていたが……。
そうではなく、翼の読む本にはほとんどルビが振ってなかったのだ。
前に本を少し覗き込んで見た時に、それが見えたので少し驚いた。
翼はもしかしたら、小学校六年生以上の学力を持っているのではないだろうか。
少しそう思えた。
その時。
誰かがすごい勢いで廊下を走って来る足音が耳に届いた。
その足音が病室に近付いて来て――
李哉の病室の扉が勢い良く開かれ、梅と李哉は驚きながらも扉の方へ視線を向ける。
病室の扉に居たのは、翼だった。
息を少し切らせて、病室の扉に手を付いている――背にはランドセルを背負っている翼の姿。
初めて翼がランドセルを背負っている姿を見て、少し新鮮に思えた。
それに、こんな事をするような人ではないと思っていたので少し戸惑いながらも聞いてみる。
「ど…どうしたの? 何か、忘れ物でもした?」
翼は少し息を整えてから李哉の質問に答えてくれる。
「伝え忘れたから。来週の二十五日、病院でクリスマスパーティーをするんだ。柳葉君、参加する?」
「クリスマスパーティー?」
「と言っても、ただのプレゼント交換なんだけど。参加するならプレゼントを一個持って来て。それで参加出来るから」
「わかった」
翼は李哉の返事を聞くともう一度頭を下げ、「すみませんでした」とだけ言って病室の扉を静かに閉めた。
そしてその後すぐに廊下を走って行く足音が聞こえた。
――どうやら、クリスマスパーティーの事を教えるために戻ってくれた様子だった。
早く帰らないと家に家庭教師が来ると言うのに……。
ドキン――
胸が鳴り、不思議に思って胸を左手で少し押さえる。
しかし、触れてみても痛みを感じたりはしない。
ただ、とても暖かくて優しい気持ちがする。
「クリスマスパーティーか…」
「参加すればいいじゃないか」
「でも、プレゼントがいるんだよ?」
「そんなの、ばあちゃんが用意してあげるよ。ばあちゃんに任せな」
梅はそう言うと自分の胸をドン、と叩いてみせる。
プレゼント――
(渡すとしたら…誰だろう?)
そう考えてすぐ脳裏に浮かぶのは翼の姿。
翼を思い出してまたすぐに胸が高鳴る。
だが、渡す相手が決まっても翼に似合うようなプレゼントが思い付かない。
必死に考えてみるが、よく考えてみれば李哉は今の流行を全く知らない。
その上、こういう時にどういう物を渡せばいいのかもわからない。
「――どういうのを、渡せばいいんだろう…?」
「だったら、今人気の腕時計なんてどうだい?」
「腕時計?」
「今月発売されて、今すごい人気だってテレビで言ってたよ」
腕時計。
毎回、翼が朗読をしてくれる時に翼の付けている腕時計が視界に入る。
その腕時計は結構古そうな物だったので、とても印象に残っている。
腕時計は確かに翼に似合う物に感じられた。
なのですぐにプレゼントは腕時計に決まった。
「おばあちゃん、その腕時計――頼んでもいい?」
「もちろんだよ。じゃあばあちゃん、今すぐ家に帰ってパソコンで探して予約して来るね! 絶対に手に入れてくるから、待ってるんだよ!」
それだけ言うと梅は荷物を手に、疾風のように病室から飛び出してしまった。
あまりに早く、まるで台風のように走って去ってしまったので李哉は少し驚く。
一人残された李哉は呆然としながら一言。
「――おばあちゃん、パソコン出来るんだ…」
そう呟いた。
李哉の呟きは、病室に寂しく響き、消えてしまう。
翌日。
目を覚ました時にはもう既に夕方の四時過ぎだった。
――最近、夕方にしか目が覚めない。
足の腫れが少しずつ引いて来ているからだろうか、痛みも時々激しくなる。
この様子では、せっかく梅がプレゼントを用意してくれても、クリスマスパーティーに行けるだろうか心配になる。
李哉は不意に窓の方を見つめる。
今日もまた、空からは雪が降っている。
ここしばらくは雪が降っており、結構積もっているのだとナースが言っていたのを思い出す。
もう一度、走れるようになりたい。
立てるようになりたい。
それにはまず、足の痛みに耐えないといけない。
前回のように無理はしない程度に。
雪を見つめながら考え事をしていると、中々翼が来ない事に気付き、時計を見つめる。
時計の針は五時十分を指していた。
梅は――もしかしたら確実にプレゼントの腕時計を手に入れるまではこの病室には訪れないのかもしれない。
ナースに今日は梅が来たかと聞いても来ていないと言われたので、そう考える。
梅は病室に来れない理由がわかるのだが――
翼はいつも四時十分に来ていた事を思い出す。
一時間も遅れている。
翼の身に何かあったのかと心配し始めた時。
病室の扉がノックされた。
「ど、どうぞ!」
少し声が上擦ってしまい、自分でもしまったと思う。
静かに扉が開いて病室に入って来た学生服姿の翼は――
少し不思議そうな表情をして李哉の顔を見て来た。
そして李哉は翼の姿を見て安堵の溜息を漏らす。
それを見て翼は椅子に座って不思議そうに李哉に聞く。
「どうかした?」
「あ、いや…今日は綾崎君が来るのが遅かったから、綾崎君に何かあったんじゃないかって思って――」
「心配、してくれたんだ」
「うん。いつも来る時間に来なかったから」
「ごめん。他の病室の子にクリスマスパーティーがあるって宣伝して来てたから……」
「宣伝?」
「そう。だから来るのが遅くなったんだ。俺一人じゃみんなの所まで回れないし、柳葉君に会えなくなると思ったから後は看護士さんに宣伝頼んだけど」
そう言って翼はいつものように本を開く。
視線を本に落とす姿が綺麗だと思うのだが――
しかし、クリスマスパーティーなのだからみんな知っているのではないだろうか?
少しそう疑問に思った。
聞いていいのか少し迷い、思い切って聞いてみる。
「クリスマスパーティーだから、みんな知ってるんじゃないの?」
李哉にそう言われて、翼は視線を本へと落としていたが。
ん?と少し顔を上げて思い出したように口を開く。
「ああ、このクリスマスパーティーは子供向けで――まぁ一応大人も来ていいんだけど多分子供くらいにしか期待出来ないから。特に子供達は毎年クリスマスパーティーしたいって言ってたから今年から俺が主催した。だから主催者の俺がみんなに宣伝してるんだ」
翼の口からとんでもない言葉が出てきて、李哉は驚いてしまう。
どうして翼がクリスマスパーティーを主催出来るのか、どうして子供達の病室へ宣伝しに行けるのか。
聞きたい事が頭の中で渦を巻くが、混乱して言葉が上手く出て来ない。
「柳葉君、どうかした?」
「ど……どうして綾崎君がクリスマスパーティーを主催出来るの!?」
ようやく言葉が口から出た。
出たのはいいが、結構大きな声で驚きながら聞いてしまったので、もちろん翼も驚いていた。
それから翼は少し困ったような表情をして答えてくれる。
「そういえば、まだ言ってなかったかな。俺、この病院の院長の息子。その上に母親は総師長。だからこの病院にいる人とは大抵全員と話をしてる。先生達だって俺の事は知ってる。子供達は――父さんから年の近い子とはなるべく親しくなれって言われたから仕方なく」
またもや翼の口から驚くような事が飛び出て、最早驚きのあまりに言葉が出て来なくなってしまった。
確かに、それなら翼がこの病院にいる理由が理解出来る。
最初は何処か悪く、毎日病院に通っているのかと思っていたが……。
(まさか病院の院長の息子だとは……)
「父さんと母さんはただ自分の仕事さえ出来ればそれでいいみたいで、クリスマスパーティーなんか今までずっとなかったんだ。だから今年から俺が主催して、子供達を楽しませてあげようと思って――」
それを聞いて、翼がとても優しい人だと言うのはわかる。
だが、少し父親と母親の話をする時はなんだか嫌そうに感じられた。
そして混乱気味だった頭をなんとか整理した李哉は、先程の翼の言葉を思い出す。
『父さんから年の近い子とはなるべく親しくなれって言われたから仕方なく』
――という事は、自分の相手をしているのも〝仕方なく〟なのだろうか?
そう思っていると――
「でも、柳葉君だけは違う」
「え?」
「父さんに言われたから仕方なくじゃなくて、今回は俺の意思で柳葉君と一緒に居るんだ。誰かのために自分の好きな小説を選んで持って来て朗読するなんて――柳葉君が初めてだから」
翼の言葉を聞き、またも胸が高鳴る。
ドキン、ドキン。
今まで感じた事の無い、とても心地の良い鼓動。
それを感じながら李哉は翼の顔を見つめる。
翼は少し嬉しそうに笑っていた。
その姿がとても格好良く、綺麗に思えてしまうのは――どうしてだろう。
何故、こんなにも心臓が鳴っているのだろうか。
わからない事がたくさんある。
だけど、一つだけわかる事がある。
翼と、もっと一緒に居たいという事だった。
十二月二十四日。
世間ではクリスマスイブと呼ばれる日。
クリスマスパーティーは明日の午後六時から。
李哉はいつものように翼が来るまでの間、窓の外を嬉しそうに見つめる。
今日も空からは雪が降っている。
雪の深さは連日の晴れのおかげで全て溶けてしまっていたが、この様子では今日もまた降り積もりそうな降り方だった。
(明日も雪が降って、ホワイトクリスマスになればいいのにな)
李哉はそう思いながら、時計を見つめる。
時計の針が指し示す時間は午後四時八分。
もうすぐ翼がこの病室にやって来る。それが楽しみでならない。
しかし、問題が一つある。
先週、梅が腕時計のプレゼントを予約してくると言って病室を出たまま、一度もこの病室に顔を出していないのだ。
プレゼントを手に入れるまでこの病室には来ないのだろうが――
それでも梅に何かあったのだろうかと、プレゼントよりもだんだんと梅の方が心配になって来た。
すると、病室の扉がノックされた。
この時間帯だと絶対に翼だ。
「どうぞ」
病室の扉が静かに開き、病室に入って来たのは――やはり翼だった。
だが――
李哉は翼の姿を見て思わず少し笑ってしまった。
それを見た翼は少し顔を赤くして不機嫌そうな声で言う。
「――直らなかったんだから、仕方ないだろう」
そう、翼の頭は寝癖が酷かった。
元々天然パーマがあるので、そのせいで直らないのもあるのだろうが。
いつも以上に髪が跳ねており、少し可愛いと思ってしまう。
「どんなに水で直しても直らないんだ。この頑固な髪は」
そう言って少し自分の髪を撫でる翼。
髪が跳ねている翼が可愛く思えて思わず李哉は直視してしまう。
直視されているのに気付いた翼は少し俯いて小さな声で言う。
「それに昨日は中々眠れなくて、朝は寝坊したんだ」
翼の言葉が、李哉には意外に感じられた。
翼のような人なら、絶対に寝坊などしないと思っていたのだ。
時間に厳しいような人だと。
「綾崎君でも、そういう事があるんだ」
「――俺も人の子だ」
「いや、そういうわけじゃなくてね…」
翼が少し不機嫌になったのを感じ、すぐに李哉はフォローしようとするが……。
フォローの言葉が思い付かない。
すると翼は溜息を付き、水に流してくれたようで気を取り直して本を開き、ふと呟く。
「ついに明日が本番だ」
李哉はそれがすぐにクリスマスパーティーの事だと気付き、主催者なので何か出し物でもあるのかと考える。
しかし、何をやるかまではさすがに検討が付かない。
「綾崎君、何かあるの?」
「いや、俺じゃなくて藤森先生が」
藤森と聞き、何処かで聞いた事のある名前だと思って少し記憶を探ってみる。
すると、目を覚ましてすぐに話した医師の顔を思い出す。
「藤森先生なら出来ると思うけど」
「あ、そういえば…。明日のクリスマスパーティーって、何処でパーティーをやるの?」
「待合ホール。そこでプレゼント交換をして、その後は食堂で夕食。そんな流れ」
「え、じゃあ僕――どうやって行くの?」
「車椅子を使えばいいよ。俺が押していくから」
「行くって…パーティーって確か六時からだよね? 綾崎君、家庭教師が来る時間じゃないの?」
「嗄さんにはクリスマスは七時からって伝えてるから大丈夫」
嗄という名前を聞いて、それが家庭教師の名前だとすぐに悟る。
それに、納得してしまう。
確かに主催するイベントに主催者がいないというのは聞いた事が無い。
とりあえず、明日への準備は全て万全のようだ。
足の調子も以前に比べたら少しだけ楽になっているので明日も大丈夫だろうが……。
明日のクリスマスパーティーまでに梅が来てくれるだろうか。
プレゼントなんてこの際どうでもいい。梅さえ無事ならそれでいい。それが一番の問題だった。
明日になれば全てがわかる。
――もしも、明日パーティーが始まるまでの間に梅が病室に訪れなかったら……。
翼が朗読を始めてくれたのでなるべく考えないようにしたのだが、やはり頭の片隅では梅の事を考えていた。
翌日、十二月二十五日。
李哉はその日、時計ばかりを気にしていた。
本日の体調は絶好調。
足の痛みは酷くなくて、クリスマスパーティーには参加出来る。
翼は六時十分前に来ると昨日朗読が終わった後にそう言っていた。
空からは白い雪が降っており、見事にホワイトクリスマス。
だが、やはり問題なのは――
梅が病室に訪れない事だ。
午前中は意識が無く、目覚めたのが午後一時過ぎだったが病室に梅の姿は無かった。
梅の事だから来てくれていたのなら李哉が目を覚ますまで居てくれるか、用事があったのならば手元にプレゼントを置いて行ってくれるはずだ。
クリスマスパーティーの時間が近付くなるほどに、嫌な予感しか考えられなくなっていた。
時計の針は午後の四時三十分を指している。
このまま梅が来なかったらどうなるのか。
その時、ふと疑問に思う。
何故自分には両親が居ないのだろうか。
どうして、両親は面会に来ないのだろうか。
どうして、梅しか会いに来ないのだろうか。
もしかしたら自分は、幼い頃に両親に捨てられていたのかもしれない。
そんな事を考え始める。
梅は里親になってくれて、祖母と呼ばせているのかもしれない。
自分の顔は鏡で見た事があるが、そんなに梅と李哉は顔が似ていない。
梅が今までずっと自分の事を育ててくれていたのかもしれない。
それだったら、両親が会いに来てくれないのも理解出来る。
そう思うと、目を覚ました頃に梅が何かを言おうとしていたのが両親の事なのだと気付く。
確かに両親の事は気になる。
気になるが――
李哉は今、過去よりも今を生きる事の方が大事だった。
過去なんてなくても、生きていける。
そう思っていたから。そう思わせてくれたのは翼だ。
だから李哉は足を治して、翼に助けてくれたお礼がしたかった。
今だけの付き合いだけではなく、出来る事ならば友達となって一緒に色んな所へ行って遊び回りたいと思っている。
だから、李哉には過去の事など関係ない。
今を生きようとしていたから。
しばらく考え事をし、時間を忘れていた李哉は我に返って時計に目をやる。
時計の針が示していた時間は五時四十分。
あと十分で翼が迎えに来る。
李哉はもう手を合わせて祈り始めた。
梅が無事で居てくれと――
神に、サンタクロースに願う。
その時。
廊下の方から物凄い勢いでこちらに向かって走って来る足音が聞こえて来た。
それはまるで像か、水牛の群れが攻めて来るような足音だったが……。
それが誰なのか、李哉は期待する。
梅であって欲しいと――
すると。
病室の扉が勢い良く開いた。
勢い良く開き過ぎて扉を壊すのではないかという勢いで。
李哉は病室の扉の方へと目を向ける。
そこにいたのは――
「…おばあちゃん」
梅だった。
息を切らせ、肩で息をしている梅の姿がそこにはあった。
そんな無茶をしたらこのままあの世へと逝ってしまいそうな様子で。
梅は李哉の目の前に来て息を切らせながら言う。
「ごめん……。もっと早く、渡したかったんだけど…配達員の……人がさっき来たから……ばあちゃん、全力疾走して来ちゃったよ……」
そう言って梅は頼んでいた腕時計の入っている、手に納まるほどの大きさの箱を李哉に差し出して来る。
「プレゼントを三日前まで探してて……ようやくこの一個だけを見つけたんだ。李哉にプレゼントをすぐに渡してあげたかったから、会いに来れなかったんだ。ごめんね……」
「おばあちゃん…ありがとう」
李哉は梅に抱き付いて涙を流した。
梅が無事で、良かった。
その上にプレゼントまであるなんて――
もう、今日のプレゼントはこれでいいとさえ思えた。
「ほら、涙を拭いて。そのプレゼント、渡したい人に渡して来なさいな。ばあちゃん、ここで待ってるから」
「付いてくればいいのに」
「ばあちゃん、疲れたからここで休んでるね。それにプレゼントも持ってないから。やっぱり年には敵わないわ」
そう言って梅は苦笑する。
梅は本当に自分の事を大切に思ってくれているのがわかって、また泣き出しそうになったが、涙を拭って李哉は笑う。
「ありがとう、おばあちゃん」
そうすると梅も笑ってくれた。
その時、病室の扉がノックされて丁度翼が車椅子を持って病室にやって来た。
「綾崎君」
「準備はいい?」
「うん」
李哉は頷いて答えると翼は車椅子をベットの横に置き、李哉と向き合う。
翼は淡々と布団を捲り、李哉の両足を車椅子のある自分の方に向かせて李哉の身体も自分の方へ向かせる。
所で、どうやって車椅子に乗るの?
そう聞こうとした時――
翼が李哉に抱き付いて来た。
(え――)
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
翼が――自分に抱き付いている?
そう理解した瞬間、心臓の鼓動が速くなる。
どうしてこんなにも身体が熱くなるのか。
どうしてこんなにも心臓がバクバクと破けそうなほどになってしまうのか。
李哉にはわからない。
李哉が動揺していると、翼は李哉の身体を持ち上げて車椅子へと乗せてくれた。
車椅子に乗せられて初めて気付く。
あれが車椅子に乗せるための行動だったのだと。
少し残念に思いながら、李哉は必死に落ち着こうとする。
車椅子に李哉を乗せると翼はいつものように梅に頭を下げ、車椅子を押しながら病室から出る。
――よく考えてみれば、李哉は今回が初めて病室から出るのだと気付く。
初めてだからこそ、緊張してしまう。
「そういえば、柳葉君って病室から出るの初めてだっけ?」
考えていた事を不意に言われたので少し驚く。
「う、うん」
「――この病院、どう思う?」
翼にそう聞かれて李哉は病院を見渡す。
この病院は病室だけではなく、廊下や至る所に白い色があった。
どうやら白がモチーフのようで、とても清潔感があり、病院らしいと思える雰囲気。
「白い色が多くて清潔感があって、いいね」
「――俺も最初はそう思ったよ」
翼の声は少し元気が無く、表情を見ようと翼の顔を見るが、翼の表情は何を考えているのか窺えなかった。
ただ、少し難しい顔をしていた。
どうしてそんな事を聞くのかと聞く事も出来ず、李哉はただ病院の中を見渡すだけだった。
待合ホールに着き、そこには結構な人数が集まっていた。
五歳ほどの子供から高校生くらいまで集まっており、ナース達も集まっている。
これから楽しいクリスマスパーティーになりそうだった。
その時、丁度六時になったので翼が呟く。
「六時になった。柳葉君、後で感想――聞かせて」
「え――」
翼の言葉の意味がわからず、どういう意味なのかと聞き返そうとした時――
「メリークリスマ~ス!!」
男性の声がホールに響き、その場にいた全員が一斉に声のした方へ視線を向ける。
そこには口に白い付け髭を付け、大きな袋を持ったサンタクロースの服装をしている藤森先生の姿があった。
「良い子の諸君! メリークリスマース!」
「あ! 藤森先生だ!」
「本当だ! 藤森先生だ!」
五歳から小学校二年生ほどの子供達がすぐにサンタの正体が藤森先生だと気付き、騒ぎ出した。
まぁ、確かに完全に丸わかりなのだからわからないはずが無いのだが。
藤森先生が子供の夢を守るためにどんな言い訳をするのかと李哉は少し楽しみにする。
大抵の大人は「き、気のせいだよ」と言ったり、「違うよ、サンタさんだよ」等とはぐらかすが――
藤森先生は一体どう返すのだろうか。
そう思っていると――
「知らないおじさんから物を貰っちゃいけないって、みんなお母さんやお父さんから言われているだろう? だからサンタさんはみんなの知っている人の姿になってプレゼントを渡すんだよ」
「へぇ、そうなんだぁ~」
子供達はみんな簡単に信じてしまう。
その理由もわかるような気がした。
咄嗟の言い訳にしてはサンタの設定は確かに現実を考えており、設定が細かくて良い。
しかも藤森先生の演技は全くわだとらしくなく、とてもさり気無いので思わず李哉も信じてしまいそうになる。
「じゃあサンタさん! 早くプレゼントを頂戴!」
「いいよ」
そう言ってサンタ(藤森先生)は袋の中に手を伸ばす。
だがその袋はどう見ても何も入っていないように見える。
そして――
「あぁっ!? どうしよう! みんなにあげるはずのプレゼントを入れていた袋に大きな穴が開いちゃってるよ!」
そう言ってサンタはみんなに見えるように袋に穴が開いているのを見せる。
これまたとても自然な演技で、特に不自然な所も違和感も全く感じない。
李哉は思わず藤森先生の演技力の高さに少し驚く。
「どうしよう…このままじゃあみんなにプレゼントが渡せない……。ん? あれ。みんな、どうしてプレゼントを持ってるんだい?」
「めぐみ兄ちゃんが持って来るようにって言ってたから!」
男の子がそう言うと、みんなの視線が一斉に李哉の後ろに立っている翼の元へと集まる。
翼は少し笑い、「そうだよ」と優しく答える。
「そうだ! みんなが持っているプレゼントをこの袋の中に入れてくれるかい? それをシャッフルしてみんなに渡そう!」
(えっ!?)
藤森先生の演技力の高さに驚いている暇なんてなかった。
持っているプレゼントを、あの袋の中に入れてシャッフルしてみんなに渡す?
確かにそう聞こえた。
――このプレゼントは、翼専用のプレゼント。
翼のためだけにしか用意していない。
李哉は持っていたプレゼントを少し握り締める。
藤森先生の登場は、小さな子供達に何かプレゼントをするためだけだと思っていたが……。
まさかこんなトラップがあったとは――
「さぁみんな。サンタさんの持っている袋に持って来たプレゼントを入れて」
翼がみんなにプレゼントを袋へと入れるように促す。
しかし。
確か袋には穴が開いていたはず。
先程藤森サンタが穴の開いていた袋を見せていたのを思い出す。
「でも、サンタさんの袋に穴が開いてるよ?」
子供達がそれに気付き、シャッフル作戦は無くなったかのように思えた。
だが。
「大丈夫だよ。サンタさんの魔法で直しちゃったから」
そう言うとサンタは先程まで持っていた袋をみんなに見せる。
――確かに穴は何処にも開いていない。
まるでマジックでも見ているようで、本当に目の前にいるサンタの服装をしている藤森先生は、本物のサンタじゃないのかとさえ思えてしまう。
(って、そうじゃなくて! どうしよう、このプレゼント――綾崎君のための物なのに…)
自分の手の中にある梅が用意してくれたプレゼントを見つめる。
このプレゼントがもし、翼以外の人の手に渡ってしまったら――
それこそ梅の努力が無駄になってしまう。
李哉が手にしていたプレゼントを袋の中に入れないと決意した時。
「はい、じゃあ入れるね」
そう言っていつの間に目の前にいたのか、藤森サンタが李哉の手の中にあったプレゼントの箱を手に取る。
「あっ! それは――」
そしてみんなのプレゼントの入っている袋の中へ、迷う事無く入れてしまった。
その後に李哉の後ろに立っていた翼も持っていたプレゼントの箱を入れた。
それで全員のプレゼントが袋の中に入ったようで、藤森サンタがみんなに言う。
「じゃあみんな、目を閉じて両手を出して。サンタさんが良いって言うまで、絶対に開けちゃダメだよ。音楽が止まるまでにサンタさんがプレゼントをみんなの手の上に乗せて行くからね」
こうなってしまっては、李哉のプレゼントが翼の元へ行くのを願うしかない。
李哉は願いながら目を閉じ、両手を出す。
みんなが目を閉じたのを確認するとラジカセから音楽が流れ出す。
流れる曲はジングルベル。
ジングルベルの曲が流れる中、藤森サンタはみんなに言う。
「じゃあプレゼントを渡して行くね。絶対に、目を開けちゃダメだよ。開けたらサンタさん、すぐに帰っちゃうからね」
そんな藤森サンタの声が聞こえたが、李哉はずっと願っていた。
自分のプレゼントが、翼の元へ行くようにと――
そして曲が二回ほど繰り返された頃。
李哉の手の上にプレゼントが置かれた。
(ん?)
李哉の手の上に置かれたプレゼントの大きさは、先程まで李哉が手にしていたプレゼントの大きさと同じだった。
両手で包み込めるほどの大きさ。
(もしかして、自分のプレゼントが戻って来た?)
それなら問題ないのだが。
「はい、みんな。プレゼントを配り終えたから目を開けてもいいよ」
サンタの声が聞こえ、みんな目を開けて自分の手の上に置かれたプレゼントを見る。
子供達のプレゼントを開けて喜ぶ声が辺りから聞こえて来る。
李哉も目を開けてプレゼントを見てみると――
それは自分の持っていたプレゼントの箱ではなかった。
大きさは同じなのだが、ラッピングが全く違っていた。
すると何処からか白衣を来た藤森先生がやって来てみんなに聞く。
「みんな楽しそうだね。何かあったの?」
「サンタさんが来て、プレゼントをくれたんだ!」
「え、そうなの? あーあ、先生。サンタさんからプレゼント貰えなかったよ」
そんな声が聞こえて来た。
しかし、李哉の耳にそんな声は届いていなかった。
手の中にあるプレゼントを一瞬どうしようかと迷ったが、自分の所に来た以上、それは自分のプレゼントなので一応開けてみる事にした。
しかし右手が思うように上手く動かず、左手だけで開けてみようと試みたが、一人では開ける事が出来ない。
翼はナースや藤森先生と一緒に子供達を食堂へ行くように促して、最後に残った李哉を食堂に連れて行こうと李哉の方を振り返り、李哉がプレゼントを開けてみようとする事に気付いてくれた。
「そのプレゼント、柳葉君の所に行ったんだ」
「え?」
「それ、俺の用意したプレゼントなんだ。柳葉君にあげようと思ってた。別の人の所に行ってたら俺のプレゼントと交換して貰おうと思ってたけど――良かった。柳葉君の所に行って」
そう言って、翼は嬉しそうに笑う。
翼のプレゼントが自分の元へ来て嬉しいと思っていると、翼が李哉の目の前に来て優しく聞いてくれる。
「開けてあげようか?」
「うん」
翼は李哉の手の中にあるプレゼントの箱を手に取り、包装紙を綺麗に取っていく。
そして箱の中からでも中身が見えるように開けてくれた。
箱の中身は――
とても高そうなブランド物の腕時計だった。
「これ…こんなに高そうな物、貰っていいの?」
「もちろん。柳葉君のために買ったんだから」
「…どうしてこんなに良い物を?」
「それは――」
そこまで言って、翼は黙り込んだ。
不思議に思って李哉が翼の顔を覗き込んでみると。
「――そう思ってるのは俺だけかもしれないけど、柳葉君が……友達になってくれたから」
李哉と翼しかいないホールに、翼の声が響く。
翼の声はホールだけではなく、李哉の心にも響いた。
友達――
翼は、自分の事をそう思ってくれていた。
会ってまだ一週間ほどしか経っていないのに。
会話らしい会話など、ほとんどしていないのに。
いつも一方的に翼が本の朗読をしてくれていただけなのに。
それをただ李哉は聞いていただけなのに。
それなのに、翼は自分の事を友達だと思ってくれていた。
そう思うと嬉しさで胸が締め付けられる。
「……そう思ってるの、俺だけだよね。ごめん。今の忘れて」
翼は立ち上がって車椅子を食堂へと移動させようとして――
翼の腕を掴む事が出来ないので李哉は口を開く。
「嬉しい」
「え……?」
「友達だと思ってくれて、嬉しい」
李哉は思った事を、感じた事を素直に口にしていた。
翼はそれを聞いて、驚いていた。
「会って、まだ一週間くらいしか経ってないけど…友達だと思ってくれて、嬉しい。だって僕、綾崎君が朗読を始めてくれなかったらずっと笑えなかった。ずっと窓の外を見ているだけで、楽しい事なんて見つけられなかった。楽しい事なんて有るわけが無いって思ってたんだ。僕、絶望してたんだ。どうして生きているんだろうって、どうして事故に合った時に死ななかったんだろうって。絶対に走る事は出来ないって…。立つ事も、歩く事も出来ないって…。でも、希望の光を綾崎君が教えてくれたから。だから僕は今、こうして笑えるんだよ。それにどうして死ななかったかって理由もわかった。僕は――」
李哉はそこで一度言葉を切り、翼を見つめる。
――今ならわかる。
どうして自分が生きてここに居るのか、その理由が。
少し息を吸って、緊張に胸を躍らせながら――
李哉は口を開く。
「僕は――翼君と会うために生きてるんだって」
李哉は、自分の思いを素直に翼に伝えた。
とても真剣な目で、声で――
それはちゃんと翼に伝わったようで、翼は嬉しそうに笑って。
「ありがとう、李哉君」
そう言ってくれた。
李哉は嬉しくて、翼のくれた腕時計を見つめる。
今すぐにでも付けてみたい。
そう思いながら腕時計を見つめていると。
「付けてあげようか?」
「うん!」
翼はまるで李哉の心が読めるかのように言ってくれる。
――実際、李哉はすぐに顔に出るので解り易いのだが。
翼が床に右膝を付き、腕時計を付けてくれようとした時。
カツーン、と何かが落ちる音がホールに響いた。
翼が落とした物はプレゼント交換で回って来た物だった。
しかもそれは李哉が翼に渡そうと思っていたプレゼントだった。
「それ…」
「これ? もしかして――李哉君のプレゼント?」
「う、うん…」
「開けてみてもいい?」
「…うん」
翼は李哉の了解を得るとプレゼントの箱を開けていく。
先程と同じように包装紙を綺麗に取り、箱を開けて中身を見る。
その瞬間、翼は驚いた表情をしてそのまま動かなくなった。
まさか、気に入らなかったのでは。
そう思って李哉もプレゼントの確認をする。
そして翼に渡したプレゼントを見て、固まってしまった。
梅に頼んだプレゼントの腕時計。
李哉はその腕時計を見た事がなかった。
だからどのようなデザインなのかも知らなかった。
李哉の手の中にある腕時計と、翼の手の中にあるプレゼント。
――それは全く同じ物だった。
……プレゼントが完全に被ってしまっている。
この場合、どうすればいいのだろうか。
李哉がどうやって対処しようかと思っていると――
「ぷっ……あはははははははは!」
まるで頭のネジでも外れてしまったかのように、翼が突然笑い出したのだ。
李哉の頭は混乱しており、どう対処していいのかわからない。
ただオロオロとしていると、しばらくして笑っていた翼が笑い疲れて少し納まり、腹を抱えながら言う。
「俺達、考える事が同じなんだな。ありがとう。すごく嬉しい」
そう言う翼はとても良い笑顔をしており、李哉に渡した腕時計を手に取って優しく李哉の左手首に付けてくれる。
付けてくれた腕時計を見つめていると、翼も李哉が渡したプレゼントを右手首に付ける。
そしてお互いに見つめ合い。
「今更だけど……俺と、友達になってくれる?」
「もちろん!」
そう言って李哉は腕時計を付けてもらった左手を差し出す。
翼は嬉しそうに微笑んで右手を差し出し、握手をする。
まるでこの腕時計は――
「「友情の証だね」」
李哉と翼は同時にそう言った。
そんな二人はお互いに笑い合い、その声は静かなホールに響き渡る。
十二月二十五日。
雪降るホワイトクリスマス。
その日、李哉と翼は友達になった。
その日は、柳葉李哉にとっても――綾崎翼にとっても、特別な日となった。
~To be continued~




