月日ってのはあまり重要ではない
私は彼と高校2年の時から付き合っている。
まさか運動神経も頭も良くてイケメンな彼に
「俺、大崎のこと好きなんだよね」
と、平々凡々な私が言われるとは夢にも思わなかった。
彼、吉野 龍二は、とてもモテるわけで釣り合うわけも無かった。
しかし私、大崎 亜紀は彼が大好きだったので、即"OK"をだした。
それからもう6年がたつ。
お互い23歳だ、はやいものである。
そんなある日、それは突然に起きた。
「亜紀、俺と別れてくんね?」
「……はい?」
そしてある女が現れる。
「涼子……?」
それは、私の親友だった。
なぜ涼子がここに?
全くもって脳内整理が出来ない私は
頭が混乱する。
「ごめんね、亜紀……あたし龍二くんのこと亜紀より前から好きだったんだよね。」
「何、どういうこと?」
「だから、ね?」
じっと彼女、由愛 涼子は私を見つめる。
なぜ龍二の隣にあんたが座るの?
ずっと前から好きってなに?
「亜紀、俺、涼子のことが好きなんだ。」
「……涼子とは、いつから?」
ふっと龍二は目をそらす。
「2年前。」
浮気され続けていた2年間、どうして気づかなかったのか。
私が龍二の一番だと思っていたのは何だ?
私がいないとダメだと思っていたのは?
風邪を引いた時だって一日中ずっと看病したり、就職するときだって私が早くに決まったってこともあったけれど、支えたじゃないか。
龍二は6年間を共にした私よりも涼子をとったのだ。
「はッ、馬鹿らしい」
気づいたら口からその言葉が出ていた。
もうやけくそだ!!!
「別れてやるわよッ! 2年間も騙され続けてたあたしが馬鹿らしいわッ! あんたに尽くしてきたつもりだけど、あんたはそうでもなかったみたいね? イケメンなんてクソくらえだッ! 今度からは顔に騙されないようにするわ。あんたみたいなクズには涼子みたいな尻軽がお似合いね、最低同士ッ!!!」
言い切った、言い切ってやったぞ。
私は憤りを感じながらその場をあとにする。
6年間がたったの数分で終わった。
1週間後の夜……
「だぁーッ! もう、ホント最低なんだよ、畜生ッ!!!」
「わ、わかったから、亜紀ちゃん、もう飲むのはよさないか?」
私は、先輩の鮫宗 雅也さんに飲みながら愚痴を言っている。
もうすでにビール3本に焼酎半分飲んでいるのだが
まだ飲み足りないくらいだ。
「まだ飲み足りないってんですよ。鮫宗さんこそ、もっともっと飲むべきですっ!!!」
「いや、ほら、俺が飲めないの知ってるでしょ? それに俺に愚痴ったってしょうがないでしょうが。本人に直接言うべきだよ。」
私は、持っていたグラスをバンッとテーブルにおく。それに鮫宗さんはびくっとした。
「会いたくないってんですよ! この6年間が無駄になったんですよ!?」
「いや、そんなこと言われても……とりあえず、そろそろ帰らない? 送っていってあげるから、ね?」
鮫宗さんも、顔整ってるなぁ、とまじまじと見てわかった。
なんだかそれにむっとしてしまって、頬をふくらませてしまう。
「そんな顔したってダメだよ。ほら、帰るよ?」
「鮫宗さんも、顔整ってるから嫌いです。」
「何それ!? 別にそんなによくもないと思うけども……お会計してくるから待ってなさい。」
「あーい。」
私は、席がお座敷だったのでごろんっと寝転がった。ちょっと飲みすぎてしまったような気がする。
あー、このまま結婚して幸せに暮らしてって思ってたんだけどなぁ、アホらし、考えるだけ無駄無駄。
また新しい彼氏を作るなんて億劫に思えるし……
「「あ」」
扉の外を見たときにある人とバチッと目があった。
私はバッと目を逸らす。
「龍二……。」
なんて最悪なタイミング。
今、一番あいたくない人とあってしまった……。
鮫宗さん! なぜ、扉をしめていってくれなかった!?
「龍二、誰かいる、の……。」
うげッ、涼子も一緒!?
今日の占い、最下位だったかな……?
「あ、亜紀、久しぶり……。」
名前を呼ぶな、そして不自然に会話をしようとするな。
「亜紀ちゃん、お会計済ませてきたから早く帰る……よ?」
鮫宗さんが戻ってきて龍二と涼子をみて首をかしげる。
「どちら様ですか?」
鮫宗さんは二人にニッコリと笑いかけた。
「……もう彼氏作るとか、あんたも最低じゃん。」
涼子がボソッと呟いた。
その言葉に鮫宗さんが真顔になる。
「あぁ、亜紀ちゃんの元恋人に元友人さんね。よく話しかけることができるね。」
「何? あんたには別に関係ないと思うんですけど。それともなんですか? 亜紀の彼氏ってのはマジなんスか?」
龍二がじっと鮫宗さんをみる。
「そういうわけではないけど、まぁ先輩だからね。後輩の面倒を見るのは当たり前でしょ?」
「先輩? 同期かと思った……。」
涼子が言ったあとにハッとする。
ついうっかり出てしまったという感じだ。
「まぁ、そうだね。良く言われるよ」
鮫宗さんは182㎝という長身に関わらず若くみられることが多い。
一度も染めたことのないような黒髪に少し茶色かかった黒目。目鼻立ちが良い整った顔。
一つ一つ見ると大人っぽく感じるが、なぜか若く見えてしまうのが鮫宗さんだ。
「うん、と……龍二君、だっけ?」
「はい?」
「君は、亜紀ちゃんのことどう思ってたの? 少なくとも亜紀ちゃんは君のことを大切に思っていたのだから、6年間という長い月日が亜紀ちゃんにとっては無駄になってしまったわけだよ。君は、そのとなりの子にうつつを抜かしていたわけでしょう? まぁ、俺が君に最低だの何だの言う義理は1㎜もないわけだけどさ……。」
ズンズンと鮫宗さんは龍二へと歩いていき、ガッと胸倉を掴んだ。
「もう、一生亜紀ちゃんの前に現れんじゃねぇ! 次なんかしたらぶっ殺す。」
そう言って、龍二をバンッと投げ飛ばし私の手をとって歩き出した。
「悪いね、店長。店の中であんなことしちゃって。」
「良いけど……今度埋め合わせはしろよな。」
「分かってるよ。」
店長とは知り合いのようで入り口付近で少し会話をして店をでた。
「さ、鮫宗さん!」
鮫宗さんはぎゅっと私の手を握ったまま歩いていく。
ど、どうしよう、なんだかあんなに飲んだのに酔いもさめてしまって……。
「亜紀ちゃん」
「は、はい?」
ガバッと急に鮫宗さんに抱きしめられる。
「ちょッ!?」
「余計なこと、しちゃったかな? ごめんね、でも、なんか許せなくって……亜紀ちゃんのこと傷つけたのにあんな態度とってたのが。」
謝られることなんてない。
むしろ、私がお礼を言う立場なのだ。
「さ、鮫宗さん、ありがとう、ございました。」
「いや、俺なんてあんなことしか出来ないからさ。」
「鮫宗さん、さっき嫌いって言ったの、取り消します。」
トンッと押して私は鮫宗さんから離れる。
「鮫宗さんは、男らしくてかっこいいので大好きです。」
そういうと鮫宗さんの顔はみるみる赤くなっていった。
「だ、ダメだよ亜紀ちゃん! そんなことすぐに言っちゃぁ!」
ガッと視線をそらして鮫宗さんはまた歩いていく。
照れてる鮫宗さんは何だかとても可愛かったのだが胸がドキッと跳ねたような気もした。
6年間付き合っていたよりも
今の出来事の方がどれだけ嬉しさが大きかったか。
月日なんてものはそれほど重要でもないんだな、と私が実感するのは、まだもう少し先のお話である。
勢いでバーッと書いてしまいました。
こういう感じってよくありますよね。
The修羅場(`・ω・´)