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第七話 魔物使いのマオ

 三匹のゴブリンを相手に、マオは苦戦していた。

 マオは最初、その魔王の声でゴブリンを威圧していた。だが、下手に知能があるゴブリンは、耳障りなお喋りの末に、マオが単なる人間の女性にすぎないと判断してしまった。

 

 短刀ナイフでゴブリンを威嚇しながら、マオは「――私に従え」と呪言じゅごんを繰り返す。

 だが、マオの匂いは人間の女のそれである。ゴブリンは下卑た声で笑うと、マオに向かって棍棒を振るった。思わず目を閉じてしまうマオ。

 

「はい、そこまで!」キルファが狙撃〔ピンポイント・キル〕でゴブリンを次々に貫いてゆく。

 

 マオが目を開けると、そこにはゴブリンの死骸が横たわっていた。

 

「な、何も殺さなくても……」

「なに言ってるのさ。殺さなきゃマオちゃんがやられてたんだぜ?」キルファはそういうところはドライである。


魔物使い(ビーストテイマー)ってのは、モンスターに舐められたらおしまいなんだ」キルファは淡々と話す。

「最初の三分間、ゴブリンを声だけで威圧したのは認める。才能あると思うよ。でも、実力が無くちゃ、モンスターをずっと従えておくことはできない」


 マオは自分の無力さを噛み締める。とはいえ、ペンダントを外して魔王の姿に戻ることはできない。ペンダントを外すことなく、この女性の体のまま、強くならねばならないのだ。その程度のことが出来なくては、魔王軍の再構築など不可能である。

 

 遠くから見ていたマイナは、マオに近付いて言った。

「もし最終的にドラゴンを従えようとするなら、声だけじゃダメだ。いつでも殺せる。いつでも倒せる。その実力を持ちながら、あえて殺さずに、交渉してやっている。そういう態度で接しないといけない。その上で、ドラゴンのプライドを傷つけずに従えないといけない」

 

 マオは当たり前のようにドラゴンを使役していた頃のことを思い出す。魔王は絶対だった。雷撃でドラゴンを黒コゲにすることも容易かった。だからドラゴンたちは従っていたのだろうか。私にではなく、私の「力」のみに従っていたのだろうか。今となっては、答えは分からない。

 

「……強くなるにはどうしたらいい?」マオの問いに、

「練習、特訓、修行だ」マイナは答えた。


 マイナは短い木刀を持って、短刀ナイフを構えるマオを手招きする。かかってこい。そう言われて、マオはマイナに果敢に切りかかっていく。マイナはそれを、子供をあしらうように軽々と捌く。そしてマオは気付く。マイナは、強い。おそらく自分が想像している以上に。遥かな高みから、短刀ナイフを使う自分を育てようとしている。


「マイナは、どのくらい強いの?」

「文句なしに最強の戦士だよ」答えに迷うマイナの代わりに、キルファが答えた。


 その言葉に、マオは動揺した。

 魔王軍を滅ぼしたのが、彼と彼女らであるという事実に、遂に思い至ったからであった。

 

「デスゲーム」マオは言った。

「魔王を倒すまで、終わらないんでしょう?」


「そうだね」キルファは言った。

「でもそのうちなんとかなるよ。マイナは最強なんだから」


 マオとマイナの練習は、日が暮れるまで続いた。マオの太刀筋は、驚くべき早さで上達を見せていた。

 

----


 その夜。

 ランプで部屋を照らしながら、マイナは集めた小説のネタを情報端末ウィンドウに書き出してゆく。

 魔法使いのカタル(幼少時)

  モンスターの集団に襲われていたところを、雷撃使いに助けられた彼女は、彼と同じ魔法使いを目指す。

  金欠とMP切れで困っていると、パーティーのメンバーからMP回復ポーションを分け与えられる。

 魔物使いのマオ

  天賦の才を持ちながら、己の力不足ゆえにゴブリンすら従えられなかった少女。

  力不足を補うために、一所懸命に短刀ナイフを振り回し、上達して行く。

  片時も離さないそのペンダントは、母の形見なのか。


「うーん。まだ設定とプロットの練り込みが足りないな」

 マイナはランプを吹き消すと、いつものようにベッドに潜り込んだ。

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