第四話 いきなりの魔王城
U2Oではパーティーのメンバー数に上限は無いが、大抵の連中は五六人で動く。経験値効率上、または使えるスキルの配分上、それが最も都合がいい数だからだ。
戦士マイナ、女盗賊キルファ、魔女カタル、聖職者クリス、武道家リンリンがパーティーを組んだのは、だいたいそんな理由からだった。この中ではマイナのレベルだけが突出しているが、スキルという面ではマイナの足りない部分を補っている。一応バランスのいいパーティーである。
魔王城への道のりは、決して平坦な道のりではなかった。むしろ敵モンスターが強いことで知られるアーカム山脈の向こう側であった。
ちなみにこのショートカットを辿れるのは、パーティーの中に一度魔王城に到達したことがあるプレイヤー(マイナ)がいる場合に限られる。本来であれば、すごくまわりくどい道を辿って、中ボスを順繰りに撃破していく必要があるのだが――キルファの「めんどくさい」の一言でカットされた。
こんなだから長編小説が書けないんだ、との考えがよぎるが、まずはアホなハッカーが提示した条件「魔王の撃破」が先決である。
「ほら、あそこに見えるのが魔王城だよ」
アーカム山脈の頂上に立つと、マグマの堀に囲まれ、赤黒い石でできた巨大な城が見下ろせた。あの中に、魔王護衛軍と、魔王がいるのだ。
「狙撃〔ピンポイント・キル〕でいけるかにゃー?」キルファが猫耳を動かす。
「うーん、あの中にいっぱいモンスターいるから無理だと思うよ」マイナが答える。
「魔王護衛軍と直に戦闘するのは避けたいね」クリスは防御力は高いが、殲滅力が無い。
「まだ私ドラゴン殺したことないアル」リンリンがカミングアウトする。
「私はマイナ様の召使い……どこにでもついていきます」カタルは紙装甲なので守ってやらないといけない。
山頂で議論のために数時間が費やされた後、以下の計画が決まった。
「めんどくさいからまずメテオを撃とう。城門が開かれて魔王護衛軍が平原に出てきたら、そこでもう一回メテオ。あとは俺が無双するから、打ち漏らした敵を、後方で撃破。だいたい倒し終わったところで合流って流れかな」
「異議なーし」「はいこれMP回復ポーション」「多い!?」「二三回メテオるんだし、こんなもんでしょ」
かくして、アバウトな作戦が決行されることに決まった。山を少し下り、一行は陣営を張る。
「――星屑よ導け〔占星術〕――大地の生命にあまねく滅びをもたらせ〔メテオ・シャワー〕!!」クリスの支援を受けたカタルがマップ兵器を使う。
雲に穴が開き、流星のエフェクトが空を照らす。ちょっと可哀想だな。というのが、マイナの中での正直な気持ちであった。隕石のシャワーが魔王城に降り注ぐ。
大気圏の薄いこのVRMMORPGの設定では、隕石の運動エネルギーはほとんど大気との摩擦を起こさずに、直接、ダメージに転換される。
隕石の直撃を受け、崩壊、炎上する魔王城。いかに火耐性があるモンスターが多いといえども、これは間違いなく阿鼻叫喚の地獄絵図であった。
内側からしか開かないはずの跳ね橋が開かれ、無数のモンスターが平原へと避難、殺到する。そこで再び、メテオである。
「――星屑よ導け〔占星術〕――大地の生命にあまねく滅びをもたらせ〔メテオ・ディープインパクト〕!!」
巨大隕石は平原へと落ち、灼熱と衝撃でモンスターの大半が死んだ。無数の経験値が宙に浮いている。そんな中、平然としているのはドラゴンをはじめとする巨大モンスターだけだった。
「じゃあちょっくらドラゴン狩りに行ってくる」マイナはロングソード(ドラゴンスレイヤー +9)を片手に、山を降りてゆく。マイナに気付いた一匹のブラック・ドラゴンが死の咆哮をあげて威嚇するが、マイナはそういうのは見飽きていた。
マイナは人間にはありえぬほどの脚力で跳躍して、ドラゴンの頭上を飛び越え、背中に飛び乗る。振り落とそうとドラゴンがもがく前に、ロングソードはドラゴンの後頭部にさっくりと突き立てられていた。力尽き、崩れるように倒れるドラゴン。この鱗は売れば金になる。
「さて、次だ」マイナは弾丸のような勢いで飛んでくる数匹のドレイクを軽々と薙ぎ払うと、眼下の平原で怒り狂う、レッド・ドラゴンに向かって駆けていった。