第三話 唐突すぎるデスゲーム
紋章付きの白いローブを着た金髪の聖職者クリスの復活魔法によって、宿屋の前の街道に落ちて死んでいた俺は復活させられた。ドラゴン級モンスターを狩ってせっかく貯めた経験値が半減してしまっているが、レベルダウンまでは起こっていない。
「まったく、自分一人で隕石を打ち返そうなんて考えるやつはただのバカだよ」
聖職者クリスはキルファとカタルから、大雑把な事情を聞いていたようだった。
「次からは支援魔法をめいいっぱい受けてからやることだね」そう言って、クリスは俺の肩を叩く。
「ごめんなさいごめんなさい」キルファの覚醒で、誤解がとけたのだろう。魔女カタルは平身低頭謝るばかりである。
「まあ俺も鬼じゃない。カタルはしばらく俺の召使いだ。それでいいな」
「め、召使い……ご、ご主人様……(ゾクゾクッ」
何か問題があるような気もしたが、気にしないことにした。俺はさっそく、部屋に戻り、魔女カタルに、ゲーム序盤で苦労した点などを聞き出していく。
モンスターに囲まれたところをさすらいの高レベル魔法使いに雷撃(全体攻撃)で助けてもらった話。MP切れが近いときに、そっとMP回復ポーション1ダースを渡してくれたパーティーメンバーの話。
これまでカタルとこんな話をしたことがなかった。こんなにいっぱい話したのは何ヶ月ぶりだろうか。
「すみません、私、少し喉が……」
「ああ、ごめん。今日はこの宿屋に泊まって、話はまた明日か明後日にでも聞かせてくれ」
「でもこんな低レベルな話、聞いてどうするんです?」
「いや――俺も色々な視点からこのゲームを理解したくなったんだよ」
もちろん本当は違う。新米魔法使いを主人公に、あるいは仲間にした長編小説を書こうと画策しているのだ。ネタはいくつか揃った。モンスターに囲まれる→高レベルの人に助けられる、MP切れで足手まといになりそうになる→仲間からMP回復ポーションを受け取る、どれも長編でウケそうな話の流れだ。とても参考になる。
「そういえば、武道家リンリンさんも宿に泊まっているようですよ」
「リンリン……武道家リンリンか……」俺は赤いチャイナドレスを着た武道家を思い出す。
「何か問題でも?」
「あの子には、体術系スキルで唯一負けてるんだよな……」
「組み伏せられてそのまま無理やり……ってことですか!? 大丈夫です! 私が身をもってご主人様を守ります!」
そんな話をしていると、巨大な情報端末が勝手に開いた。閉じろと言っても閉じてくれない。黒っぽいサングラスを掛けた男の演説が始まる。
「じいさんばあさん、紳士淑女のみなさん、そしてくだらないガキどもに告ぐ。このゲームはハッカーグループAnonyMouseによって完全にハッキングされた。現時刻をもって、死者の復活は禁止される。死亡者はヴァルハラへと追放され、幽閉される。そして『魔王』を倒さない限り、このデスゲームは永遠に続く。プレイヤーは眠りから醒めず、衰弱し、いずれ死に至る。おわかりか? 我々は新しい運営、新しい神なのだ!」
「それはお前も同じじゃないか?」マイナは呟く。
「………………」沈黙が続く。
「しまった。誰も魔王倒せなかったら俺どうしよう……」全国から寄せられた総ツッコミに、ハッカーは狼狽している。
「バカだ……バカがいる……」
「しかし魔王討伐かー。久々に腕が鳴るな」
「マイナさんは、魔王討伐、したことあるんでしたっけ?」
「まあ、何度か、な。準備した割に得られるアイテムがぱっとしないんで止めてしまったけど」
戦士マイナ
女盗賊キルファ
魔女カタル
聖職者クリス
武道家リンリン
これだけ居れば、魔王軍の雑魚どもは相手にはなるまい。問題は「死者の復活は禁止」という点。パーティーに全回復をもたらすアイテム、「治癒の宝球」の価格は、いまごろ暴騰していることだろう。だとすれば……個別回復アイテムを買い占めるより他にない。
廊下で悩んでいると、そこに武道家リンリンが現れた。「治癒の宝球」をアイテム袋に持てるだけ持っている。
「あー、これ? ちょっと脅したらタダでくれたアルね♪」どんな脅しを使ったのかは、あえて聞かないことにした。