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第二話 死体を転がせ

「しかし長編を書くといっても、どこから手をつけたものか……」


 マイナは「酔い覚ましの水」を持って、宿屋の階段を上がる。

 

「そうだ。知り合いの誰かに低レベルの頃の苦労話を聞かせてもらうというのはどうだろう。俺は戦士系だから魔法使い系の苦労とかよく分からないし、そのへんをインタビューするのはアリだな」


 そう思ってドアに手を掛けた瞬間。

 

「不潔よーーーーーーーーー!!」甲高い絶叫が部屋の中から響いた。

 

 ドアを開けた先に居たのは、魔女カタルである。紺色の魔女帽子を被り、ローブに身を包んだ典型的な魔女ルックの、青い髪を垂らした彼女。

 事あるごとにちょっかいをかけてくる魔女カタルであるが、それがなぜかマイナの部屋の中で泣き叫んでいた。マイナの姿を見留めると、さらにわんわん泣き出す。マイナには意味が分からない。

 

「な、何で俺の部屋に!?」

「ド、ドアが開いてたから……じゃなくて! なんなのよこの状況は! きちんと分かるように説明しなさいよ!」


 杖で指差す先に居るのは、ベッドで猫のように丸くなるキルファである。いかに鈍いマイナでも、この状況で何を誤解されているかくらいは分かった。


「いやこれはその……キルファが酔って乱入してきて……」

「ひどい! 女性のせいにするなんて最低よ!」カタルは聞く耳を持たない。

「だからいま『酔い覚ましの水』を持ってきたんだけど……」

「信じてたのに! 信じてたのに!」一体何を信じていたのかまでは問うまい。


「もういい! あなたを殺して私も死ぬ! ――星屑よ導け〔占星術〕――」

「ぎゃー! 範囲魔法の詠唱をやめろ! 宿屋が壊れる!」

「――大地の生命いのちにあまねく滅びをもたらせ〔メテオ・インパクト〕!!」


 マイナは咄嗟にカタルの詠唱を止めようとするが、間に合わない。彼女も上級職に転職しており、詠唱短縮のスキルを極限まで上げているのだ。それに、マイナは無防備な女性の身体に腹パンをかますほど鬼畜ではない。そうこうしているうちに――ひどく不味いことに――詠唱は完了してしまった。

 

 隕石が落ちると、宿屋が壊れる。宿屋が壊れると、当然、莫大な損害賠償を請求される。残念ながらそこはリアルと全く変わらない。現実は非情である。

 

「さ、させるかっ!」


 マイナはその脚力にものを言わせて、階段をダッシュで駆け上がり、ドアを蹴破って屋上に出る。空は真っ暗になり、上空から無数の隕石が落ちてくるエフェクトが再生されている。このエフェクトが終わると、次はリアルに隕石が落ちてくるのだ。


 屋上に立つマイナは、腰のロングソード(ユニーク名、ドラゴンスレイヤー +9)を抜き放つ。こうなればやるしかない。ネタだネタだとさんざん言われ続けている実績「隕石返し」の達成。つまり落ちてきた隕石を打ち返すしかない。

 

「俺は、本当はみんなにウケる小説を書きたいだけなのに――」


 渾身のフルスイング。ジャストミート。ちょうどお肉。弾け飛ぶ火花。巨大な落下ダメージ。流れる走馬灯。そびえ立つ墓標。

 結局、宿屋は無事だったが、マイナは死んだ。死にながら、マイナはこんな台詞を耳にしていた。

 

――クラック完了。さあ、そろそろデスゲームの始まりだ。


 それが何を意味しているのか、そのときマイナは知る由も無かった。

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