エピローグ
今回で最終回です
さらに年月が流れた。
王太子夫妻の王女は、活発で利発な少女に成長していた。
「将来の王太子として、何の心配もない」
周囲から、そう太鼓判を押されている。
王太子妃は、その言葉を聞くたび、心から胸をなで下ろした。
フランシスは、時折会いに来る両親へ笑顔を向ける。
まだ言葉は出ていない。
だが、自分で計算した紙を、誇らしげに両親へ見せるようになっていた。
「この子も、少しずつ成長しているのですね」
王太子妃は、涙を流した。
◇
アレクシス夫妻には、三人目の子供が生まれていた。
「もう、てんてこ舞いですよ」
アレクはそう言いながらも、どこかうれしそうだった。
公爵家からは、いつも明るい笑い声が聞こえている。
レオンは、国王の側近として迎えられた。
領地の運営は、信頼できる者たちへ任せている。
ジャンヌは、しょっちゅう子供たちを連れて公爵家を訪れた。
「ここは自由でいいわ~~」
それが、ジャンヌの口癖になっていた。
◇
アンドルの家も、にぎやかだった。
そして――
オットーは、とうとう執事になっていた。
「公爵家の執事殿を見習い、励みます」
それが彼の口癖である。
エピナスチン伯爵は、そんなオットーを見るたび苦笑した。
「私が酔って口にした戯言を、本気にして実行するのは、もうやめてくれ」
オットーが目を瞬かせる。
「まさか本当に、街頭演説までしていたとは思わなかったぞ……」
伯爵は頭を抱えた。
「私も、これからは迂闊なことを言わないよう気をつけるが……。
下手をしたら、この家そのものがなくなっていたのだぞ」
そして、真顔になる。
「寛大な処置をしてくださったことに感謝して、これからは王家へ忠誠を尽くしなさい」
そう。
あの演説は――
伯爵が酔った勢いで口にした戯言を、オットーが本気で受け取った結果だったのである。
「孫たちのためにも、頑張らねばな」
伯爵の言葉に、アンドル夫妻もうなずいた。
◇
セリーは、相変わらず独房の中にいた。
一日中、話し相手もいない。
いつしか、ぼんやりと虚空を見つめていることが増えていた。
ある日、看守が上司へ報告した。
「まともな受け答えが難しくなっています。
食事をした直後にも、
『お腹がすいた』
とずっと叫び続けるのです。1日中です。夜中もです」
看守は困ったように続ける。
「これでは、もう余罪について取り調べることもできません。
このまま人手と費用をかけ続ける意味があるのでしょうか?」
上司は、しばらく考えた。
「そうだな。
『上』へ報告しておこう」
その後――
セリーは、
『牢獄にて病死』
と伝えられた。
それを聞いた娼館の女主人は、牢の中で笑った。
「ざまあみろ」
自分にも、いつか同じような末路が訪れるかもしれないことなど――
考えもしなかった。
◇
フランは――
何だかんだと言いながら、結局、独身のままだった。
「私には、若奥様とお嬢様、それに坊ちゃまがお二人おります。
三人のお世話で、十分すぎるほど満足しております」
そう言いながら、子供たちの教育について、あれこれ世話を焼いている。
下の男の子二人も、すっかりフランになついていた。
「フラン、かっこいい!
僕も、フランみたいになる!」
上の男の子が、目を輝かせて言う。
「父親より、フランかあ……」
アレクシスが、がっくりと肩を落とした。
「ふふ。
いいではありませんか」
リリアーナが笑う。
その時――
「お父さま~~!」
キャロルが、アレクへ抱きついた。
「キャロル!」
アレクは、すぐに娘を抱き上げる。
キャロルは、父親の首へ腕を回した。
「とっても、とっても好きですからね~~」
アレクの表情が、一気に緩んだ。
「……幸せって、こういうことを言うのだな」
ぽつりとつぶやく。
リリアーナが、微笑んだ。
「そうですね」
そして、少し考えてから続ける。
「でも、苦労を知っているからこそ、幸せだと実感できるのかもしれません」
アレクがリリアを見る。
「幸せであることが当たり前になってしまったら、それが幸せだということに気づけなくなる。
そして、幸せでいられることへの『感謝』も忘れてしまうのでしょう」
「その通りだな」
そばにいた公爵もうなずいた。
公爵夫人も、静かに微笑んでいる。
ちなみに――
『熊殺しを半殺しにした公爵家若夫人』
というリリアーナのあだ名は、なかなか消えることがなかった。
いつしか彼女は、国民の間で『英雄』のように語られる存在になっていた。
本人は――
そんなことになっているとは、まったく知らない。
「これから、どんなことがあっても」
リリアーナが家族を見回した。
「皆で力を合わせて、立ち向かっていきましょう」
皆が、大きくうなずいた。
◇
国王夫妻は、再び城のバルコニーに立っていた。
眼下には、穏やかな街並みが広がっている。
「『女王』というものに、もっと反発が出るかと思っていたが……」
国王が笑った。
「案外、大丈夫だったな」
「性別など、関係ございません」
王妃も微笑む。
「大切なのは、その者の人格でございましょう」
「そうだな」
国王は、遠くを眺めた。
「王位を男子だけに限定してしまえば、我々のように子に恵まれなかった時。
女児しか生まれなかった時。
あるいは、男子が生まれても、その子が王位を継ぐことが難しかった時――」
少し間を置く。
「そのたびに、王家そのものが揺らいでしまう」
王妃が静かにうなずいた。
「だからこそ、これからの時代には女王の存在も必要だ」
国王は続ける。
「そして何より――
王位を継ぐ者と、その配偶者に、
『絶対に子を産まなければならない』
という重圧を背負わせ続けることは、もう終わらせなければならない」
王妃は、大きくうなずいた。
「子供は授かりものでございます」
「うむ」
「男の子だから。
女の子だから。
そのようなことで、子供の価値が変わることなどあってはなりません」
王妃は、空を見上げた。
「女王を認められたこと。
本当に、英断でございました」
国王も、隣で空を見上げる。
「これからも、この国が平和でありますように」
「この平和が、ずっと続きますように」
二人は並んで――
静かに天へ祈った。
完
私も、「世界の皆さまが幸せでありますように」と祈ります
(ついでに「自分も」幸せになりますようにをこっそりつけたします)
最後までお読みいただきましてありがとうございました




