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懐かしの我が級友たち(1)「ピアニスト、茉莉」  作者: 石原裕


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第3話 茉莉、「突発性難聴」と診断される

 茉莉は気が狂いそうな不安に駆られた。

治らなければどうしよう!このまま耳が聞こえなくなるのだろうか?もしそうなったら音楽は出来るのだろうか?ジャズを聴きピアノを弾くことは出来るのだろうか?片耳が聞こえなくてプロのジャズピアニストになるなんて可能なんだろうか?

物を食べたりアルバイトに行ったり、大学でレッスンを受けたり、そんなことをする気にはさらさらなれなかった。検査を受けるまでの三日間は長かったし、その後の再診までの四日間はもっと長かった。茉莉は、なんとか治りますように、と祈りにも似た気持ちを抱いて再診の日を待った。

 医師は努めて冷静を装って言った。

「血液検査の結果、内耳梅毒でないことは確認されました。その他の検査の結果を総合判断すると、内耳性の感音性難聴だと思われます。突発性難聴ですね」

「突発性難聴、ですか?」

「ええ、突発的に起きる原因不明の難聴です」

「原因が判らないんですか?」

「ウィルス感染とか内耳循環障害とかストレスとか、諸説は色々ありますが、突発性難聴は原因が不明なんです。原因が判明すれば診断名が特定されますから、突発性難聴では無くなるんですね」

「ストレスで耳が聞こえなくなるんですか?」

「ええ、そうです。何か心当たりが有りますか?」

茉莉は、四歳でピアノのレッスンを始めてから以後の、今日までの来し方の人生を振り返って、耳が聞こえなくなるほどに強いストレスを溜め込んでいたのだろうか、と思った。が、プロのジャズピアニストになる為に送っている今の生活は止むに止まれぬことなんだ、これしか仕方が無いんだ、後もう少しだったんだ、なのに・・・茉莉は歯軋りするように奥歯を噛んだ。

「先生、お願いです、何とかして治して下さい。ジャズもピアノも私の人生なんです。何でもします、お願いですから聞こえるようにして下さい」

茉莉は恥も外聞も無かった。ちゃんと聞こえるようになりたい、その一心だった。

「解かりました。全力を尽くしましょう。でもね・・・」

医師は言葉を止めて、茉莉の顔をじっと見た。

「全力は尽くしますが、覚悟はしておいて下さい。完治するかどうかは何とも言えませんから」

「・・・・・」

「入院して安静に治療する方が良いのですが、入院は出来ますか?」

 茉莉には否応無かった。何とかして、仮令、針の穴を通すほどの可能性でしか無くても、試ってみるしかなかった。その日の内に茉莉は入院した。

 

 翌日から早速に治療が始まった。ステロイド剤仁加えて血流改善剤、代謝促進剤が投与され、高気圧酸素療法が施された。四日後には星状神経節ブロック注射も打たれた。

 だが、一週間経っても茉莉の聴力は殆ど回復しなかった。

病棟を担当する若い看護師が慰めるように、労わるように言った。

「ゆっくり気長に諦めないで頑張るのよ。この病気は、百万人に二百七十人ほどの数少ないものでね、厚労省の特定疾患に指定されている難病なの。治れば再発することはないし、良くなったり悪くなったりすることも無いのよ。だから焦らず治療に専念することね」

 然し、半月後、茉莉は漸く理解した。難聴が高度の場合、尤も、高度でないと突然難聴になったことに気付かないが、初期に強い眩暈を伴ったものは聴力予後が極めて悪いこと、発症して二週間を過ぎると治癒の確立が大幅に低下することを!


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