Call Me
ガラケー時代。
――― 今日も、電話は鳴らなかった。
私の携帯のメモリの中には、ちゃんとあの人の番号が登録されている。
用事があるなら。
もしくは声が聞きたいだけだとしても。
私から電話をすればいい。
……でも、それができないでいた。
彼は、私の恋人ではない。
友達?
それもけっこう微妙かも。
メル友、なのかな?
ずいぶんメールのやり取りをしているけど、実は……一度も会ったことは、ない。
出会いはあるサイトのチャットルーム。
最初の何度かは大勢の中の1人としてしか会話できなかった。
だけど気が合って、いろんなことで盛り上がったりするのはとても楽しくて。
そのうち二人だけで話したりもするようになった。
そのうちパソコンでのメールのやり取りが、携帯でのメールのやり取りになるのにたいした時間はかからなくて。
いつでもどこでも彼との接点を持てる分、とても身近に感じるようになっていった。
それがたぶん、『トクベツ』になっていったってこと。
彼には話したいことがたくさんあった。
その日あったこととか、読んだ本の話、見た映画の話。
みんなたわいもないことだったけど、彼はいつも返事をくれた。
メールでお互いのことを話すことだってある。
彼が乗ってる車の名前。
彼が今聞いている音楽。
彼が吸ってるタバコの銘柄。
彼が住んでる街の、今日の天気。
私が聞けば、彼は何でも答えてくれた。
そして、私は思う。
彼を、もっと知りたい。
[一度、話してみたいな。今度、電話して? 私の番号は…]
なけなしの勇気を、そう文字に変換する。
それが、私の精一杯。
[OK 今はムリだけど今度するよ。俺の番号は……]
メルアドは知っていても、電話の番号までは知らなかった私たちの、第一歩。
数日待っても鳴らない電話に、私は待つことをやめた。
彼が電話してこない理由は、いくつも浮かんだ。
そのどれもが私にとって都合の悪いものばかり。
―――だいじょうぶ。まだ……大丈夫。
ダメージを受けてないふりをするのは簡単だった。
いつものようにメールを送ればいいだけ。
私から彼の姿が見えないように、彼に私の姿は見えない。
[今日はね、映画見に行ってきたよ]
当たり障りのない話題。
面白そうな映画だと、つい最近チャットで話してたの覚えてる。
[俺も実は今日見てきた]
彼からの返事。
それは、いつもと変わらなくて、私を安心させてくれる。
[あの結末、どう思った?]
そう送るつもりで打ち始めた文字は、不意にかかってきた電話に中断された。
慌てて出た電話の向こう、知らない声がした。
『俺。分かる?』
「え……!?」
初めて聞く、彼の声。
あまりに驚きに真っ白になった頭。
くすくすと笑う声。
……気がつくと、私も笑っていた。
ネット恋愛等の経験はありませんが
送られてくる言葉にのぼせ上がる自信はあります(自慢できない。
そういう出会いから、
本当の「恋」になることってあるのでしょうか。
相手の姿が見えないぶん
そのやり取りは純粋かもしれないし
まったくの嘘かもしれない。
だけど、
そこでしか在りえない出会いもあるのですよねきっと
時代は変わった(笑)




