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SCENE  作者: 恵奈
5/13

不安な夜

現代。

 


 彼は、無口。

 彼は、無愛想。

 彼は、不器用。


 そんなことは知ってる。

 それでも私はあなたが好き。

 だけど―――さびしくて、泣いてしまうことだってあるの。




「何を泣いてる」


 気付かれてしまった。

 すん、と鼻をすすって、涙をぬぐう。


「……なんでもないの」

「……………」


 彼の部屋のキッチン。

 こんなにもはやくシャワーから出てくるなんて思ってもみなかったから、ちょっと油断してた。

 背中を向けて、表情を整えるために深く息を吸い込む。


「……ビールにする?」


 少し掠れてたけど、声は出た。

 でもまだ顔は見られたくない。

 私は冷蔵庫を空けてその中を覗き込み、ビールの缶を探した。

 あ、よかった。ラスト一本だ。


「何かおつまみもいる?」

「……」


 すぐ後ろに彼の気配を感じた。

 はー……と、長いため息が聞こえた。気づいたときには、私は彼の腕の中。


「俺は、またやってしまったのか?」

「……」


 つらそうな彼の声を聞くと、私の心が痛い。

 シャワーを浴びたばかりの、しっとりと汗ばんだ彼の身体。

 よく見てはいないけど、今日もきっとラフなパンツを腰の低い位置ではいて、上半身は裸のままで、タオルを頭からかぶってるのね。

 濡れたパイル地が首筋に当たってるし、背中だけ妙に温度が高くて。

 ……こんなふうに、心とか、気持ちとかも、キョリが近かったらいいのに。



 時々、わかんなくなるの。

 あなたが何を考えているのか。



「ダイジョウブだよ」

「何がダイジョウブなんだよ。泣いてただろ、オマエ」

「……」


 身体を抱きしめてた腕が、私の手をとる。指と指と絡ませて、しっかりと包み込まれる。

「ううん、私が……」


 ちょっと心が不安定になってたの。

 だから。

 いつもなら笑って答えられる、ほんの些細な出来事に、負けてしまったの。

 あなたが、私を好きなこと。

 ちゃんと知ってるわ。わかってるわ。

 ……だけど、時々確かめないではいられなくなるの。

 私は、どこまで踏み込んでいいの……?



 私だけの世界があるように、あなただけの世界がある。

 多くのことを共有して仲を深めてきたけれど、私には絶対にわからない世界がある。


 私の話に、あなたは微かなあいずちをうってくれる。

 私が笑いながら話すと、どこかあなたも楽しげで。

 私が怒りながら話すと、どこかあなたも不満げで。

 だけど、あなたは唐突に、前触れもなく黙り込んでしまうときがある。

 そんなときは必ず、心はここになくて―――私は泣いてしまいたくなる。


 …あなたはどこにいるの?

 …私のそばに帰ってきてくれるの?

 不安が押し寄せてきて、私の心を潰す。


「…私のこと好き……?」


 小さな声は、彼の耳に届かない。

 どんな言葉をつぶやいても、その時の彼には聞こえない。

 身体はこんなにもそばにいるのにね。


 そうして私は、伸ばした手を彼の頬に当てる。

 ……ほら、こんなにも温かいのにね。


「……俺のそばにいるのはつらいか?」


 私は、彼の言葉に何度も首を振った。


「俺は……勝手なオトコだな」

「……?」


 彼の低い笑い声が聞こえた。


「例えオマエがつらいからいやだと言っても、手離す気なんてこれっぽっちもないのにな」


 こくん、と彼の胸の中でうなずく。

 頬を彼の胸に当てて、その鼓動を聞く。


 全部を欲しがってしまう私を許して。

 あなたのすべてを知りたくなる私を許して。


「……私のこと好き?」


 言葉じゃなく抱き寄せる腕が、答える。

 苦しいぐらいに強く、信じられるだけの確かさで。

 それに、いつも救われる。


 あなたの中を私で埋め尽くすことが出来なくても、これからもずっとそばにいてくれるのだと。


 見上げて、彼に笑顔で答える。


「もう……大丈夫」


 時々でいいから、こんなふうに私を抱きしめて。

 ――――――不安に負けないように。

 例えばあなたが私を見ていなくても、その心の中に私の居場所がちゃんとあるんだと信じられるように。

 ……あなたの帰る場所は、私のところだと。




ホルモンバランス?

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