不安な夜
現代。
彼は、無口。
彼は、無愛想。
彼は、不器用。
そんなことは知ってる。
それでも私はあなたが好き。
だけど―――さびしくて、泣いてしまうことだってあるの。
「何を泣いてる」
気付かれてしまった。
すん、と鼻をすすって、涙をぬぐう。
「……なんでもないの」
「……………」
彼の部屋のキッチン。
こんなにもはやくシャワーから出てくるなんて思ってもみなかったから、ちょっと油断してた。
背中を向けて、表情を整えるために深く息を吸い込む。
「……ビールにする?」
少し掠れてたけど、声は出た。
でもまだ顔は見られたくない。
私は冷蔵庫を空けてその中を覗き込み、ビールの缶を探した。
あ、よかった。ラスト一本だ。
「何かおつまみもいる?」
「……」
すぐ後ろに彼の気配を感じた。
はー……と、長いため息が聞こえた。気づいたときには、私は彼の腕の中。
「俺は、またやってしまったのか?」
「……」
つらそうな彼の声を聞くと、私の心が痛い。
シャワーを浴びたばかりの、しっとりと汗ばんだ彼の身体。
よく見てはいないけど、今日もきっとラフなパンツを腰の低い位置ではいて、上半身は裸のままで、タオルを頭からかぶってるのね。
濡れたパイル地が首筋に当たってるし、背中だけ妙に温度が高くて。
……こんなふうに、心とか、気持ちとかも、キョリが近かったらいいのに。
時々、わかんなくなるの。
あなたが何を考えているのか。
「ダイジョウブだよ」
「何がダイジョウブなんだよ。泣いてただろ、オマエ」
「……」
身体を抱きしめてた腕が、私の手をとる。指と指と絡ませて、しっかりと包み込まれる。
「ううん、私が……」
ちょっと心が不安定になってたの。
だから。
いつもなら笑って答えられる、ほんの些細な出来事に、負けてしまったの。
あなたが、私を好きなこと。
ちゃんと知ってるわ。わかってるわ。
……だけど、時々確かめないではいられなくなるの。
私は、どこまで踏み込んでいいの……?
私だけの世界があるように、あなただけの世界がある。
多くのことを共有して仲を深めてきたけれど、私には絶対にわからない世界がある。
私の話に、あなたは微かなあいずちをうってくれる。
私が笑いながら話すと、どこかあなたも楽しげで。
私が怒りながら話すと、どこかあなたも不満げで。
だけど、あなたは唐突に、前触れもなく黙り込んでしまうときがある。
そんなときは必ず、心はここになくて―――私は泣いてしまいたくなる。
…あなたはどこにいるの?
…私のそばに帰ってきてくれるの?
不安が押し寄せてきて、私の心を潰す。
「…私のこと好き……?」
小さな声は、彼の耳に届かない。
どんな言葉をつぶやいても、その時の彼には聞こえない。
身体はこんなにもそばにいるのにね。
そうして私は、伸ばした手を彼の頬に当てる。
……ほら、こんなにも温かいのにね。
「……俺のそばにいるのはつらいか?」
私は、彼の言葉に何度も首を振った。
「俺は……勝手なオトコだな」
「……?」
彼の低い笑い声が聞こえた。
「例えオマエがつらいからいやだと言っても、手離す気なんてこれっぽっちもないのにな」
こくん、と彼の胸の中でうなずく。
頬を彼の胸に当てて、その鼓動を聞く。
全部を欲しがってしまう私を許して。
あなたのすべてを知りたくなる私を許して。
「……私のこと好き?」
言葉じゃなく抱き寄せる腕が、答える。
苦しいぐらいに強く、信じられるだけの確かさで。
それに、いつも救われる。
あなたの中を私で埋め尽くすことが出来なくても、これからもずっとそばにいてくれるのだと。
見上げて、彼に笑顔で答える。
「もう……大丈夫」
時々でいいから、こんなふうに私を抱きしめて。
――――――不安に負けないように。
例えばあなたが私を見ていなくても、その心の中に私の居場所がちゃんとあるんだと信じられるように。
……あなたの帰る場所は、私のところだと。
ホルモンバランス?




