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SCENE  作者: 恵奈
2/13

思い出

心酔した歌に寄せて。

 


 忘れるつもりで、どこかにしまっておいたはずのあの頃の写真を思いがけず手にした。





 幸せそうな笑顔の彼女。

 カメラを向けた俺への、笑顔。

 肩を抱いてる俺への、笑顔。


 俺は何枚かの写真と共に、車のキィを持って部屋を出た。

 彼女と過ごしたあの頃の休日を、……今もう一度たどってみようとして。


 時折、彼女のいない助手席を見るのもいいだろう。

 きっとあの頃の心の傷も、今はもう癒されているだろうから。


「思い出にしないでね」


 いつだったか……、彼女がそうつぶやいた。


 精一杯の強がりの中でそう言った彼女。

 抱き寄せた彼女の肩が、驚くほど細かったのを思い出す。





 あの頃をたどる一人きりのドライブは、見晴らしいい助手席が少し切ない。

 視界に大きく広がる、あの頃と変わらぬ景色。

 こんなふうに、穏やかに感じられるようになるまで、……ずいぶんと時間が、必要だった。





 ……あの日。彼女がうつむいたまま車を降りたあの日。

 俺を拒んだ背中が今でも鮮やかに甦る。

 泣いてたんだろうな、きっと。

 肩が震えてるのを気のせいにして、車をスタートさせた俺を、恨んだろうか。

 あの頃、俺も彼女もまだ若かった。

 バックミラーの中。

 彼女の姿がちいさくなっていくのを、俺は決して見ようとはしなかった。


 今の俺なら……Uターンして、彼女の元へ戻っただろうか。

 彼女を泣かしたりはせずにすんだろうか……。


「ほら、もうすぐ海だ」


 窓からは入り込んできた風に、思わず俺は助手席に声を掛けた。

 ……今はもう誰もいないその席に。


 沈黙が車の中を支配する。

 ……そうだ、、今日は一人きりのドライブ。

 視界に広がる景色は、一人占めするにはもったいないほど綺麗なのに。


「きれいね。泳げるかしら」


 そう言った彼女の声も、姿も、忘れていなかった。

 鮮やかによみがえる、あのころの二人。


 永遠の彼方まで記憶していそうだ。



 ……多分、まだ水は冷たいだろう。

 ちょうど三年前。

 冷たくて泳げないと言った、彼女の言葉の通りに。





 彼女は今どうしているだろう。幸せでいるならいいのに。

 きれいすぎる言葉だ、と誰かは言うだろうが。

 それでも伝えたい言葉があるんだ。

 辛い思いもしたけど。

 それでも

 君と出会えたことは幸せだったよ、と。





歌い手さんの声が独特で、すごく好きでした。


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