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SCENE  作者: 恵奈
11/13

ある雪の日

殺伐。





 降り積もっていた白雪に、その手の刃を突きたてた。

 長い刃に伝う、真紅の筋。

 それは、まぎれもなく血だった。


 己を呪う。

 なぜに俺はこの険しき道を歩むのか。



 膝まづいた箇所から冷気が上がってくる。

 吐いた息は熱く、空気に触れると白くなった。

 いわば偽りの白。

 額からは、汗と返り血の混じったものがぽたりと落ちた。

 わずかな休息だが、得るものはあった。

 深い呼吸を繰り返し、高ぶった己が神経を鎮める。

 急がなければ。先はまだ長い。

 まだ終わりの見えぬ先に、焦燥は募る。

 血が染みて色の変わった場所を避け、雪を手の平でかき集めた。程なくその雪すら朱に染まる。

 まだ誰も踏み入れていない、穢れなき白。

 それをどんなに汚しても、俺の心だけは今も暗く澱む。


「あの………」


 鈴の音のような声。


「………大丈夫だ。すぐに発とう」


 背後で身をすくませる、か弱く、そしてまばゆいばかりの存在。

 俺はそちらに目を向けることはせず、もうひと掬いの雪を汚して剣を清め、そして一度空を切って鞘へと収めた。

 身体が重い。

 ……今まで俺が絶ってきた命の重さか。

 だが、悔やむ時間すら無かった。

 俺は行かなければならない。……彼女を安全なところまで逃がしてやるのだ。

 立ち上がると、彼女が駆け寄ってきた。


「腕に怪我を………」


 見ると二の腕のところに赤く滲んだ一本の線があった。


「血は止まっている。かまうな」

「………」


 俺を見上げるその大きく美しい瞳には、怯えや恐れといったものはなかった。俺を信じ、怪我をしたことに心を痛めている色。

 舌打ちを噛み殺し、俺は背を向けた。


「………行くぞ」

「はい」


 血に染まった雪の残骸。

 その上にまた雪が降り積もれば、白く見えるだろう。

 だが雪解けのころには、その血が辺り一面を染めてしまうような気がして、俺は振り返れなかった。

 だから、俺の足跡のそば。

 寄り添う様につけられた彼女の小さな足跡も、見ることはないのだ。






武士かなー、騎士かなー。

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