ある雪の日
殺伐。
降り積もっていた白雪に、その手の刃を突きたてた。
長い刃に伝う、真紅の筋。
それは、まぎれもなく血だった。
己を呪う。
なぜに俺はこの険しき道を歩むのか。
膝まづいた箇所から冷気が上がってくる。
吐いた息は熱く、空気に触れると白くなった。
いわば偽りの白。
額からは、汗と返り血の混じったものがぽたりと落ちた。
わずかな休息だが、得るものはあった。
深い呼吸を繰り返し、高ぶった己が神経を鎮める。
急がなければ。先はまだ長い。
まだ終わりの見えぬ先に、焦燥は募る。
血が染みて色の変わった場所を避け、雪を手の平でかき集めた。程なくその雪すら朱に染まる。
まだ誰も踏み入れていない、穢れなき白。
それをどんなに汚しても、俺の心だけは今も暗く澱む。
「あの………」
鈴の音のような声。
「………大丈夫だ。すぐに発とう」
背後で身をすくませる、か弱く、そしてまばゆいばかりの存在。
俺はそちらに目を向けることはせず、もうひと掬いの雪を汚して剣を清め、そして一度空を切って鞘へと収めた。
身体が重い。
……今まで俺が絶ってきた命の重さか。
だが、悔やむ時間すら無かった。
俺は行かなければならない。……彼女を安全なところまで逃がしてやるのだ。
立ち上がると、彼女が駆け寄ってきた。
「腕に怪我を………」
見ると二の腕のところに赤く滲んだ一本の線があった。
「血は止まっている。かまうな」
「………」
俺を見上げるその大きく美しい瞳には、怯えや恐れといったものはなかった。俺を信じ、怪我をしたことに心を痛めている色。
舌打ちを噛み殺し、俺は背を向けた。
「………行くぞ」
「はい」
血に染まった雪の残骸。
その上にまた雪が降り積もれば、白く見えるだろう。
だが雪解けのころには、その血が辺り一面を染めてしまうような気がして、俺は振り返れなかった。
だから、俺の足跡のそば。
寄り添う様につけられた彼女の小さな足跡も、見ることはないのだ。
武士かなー、騎士かなー。




