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SCENE  作者: 恵奈
10/13

Christmas Short in 2004

想像。

 




「雪、降らないねー」


 アタリマエダロ。

 呑み込んだ言葉が、喉に詰まった。


 少し前を歩く彼女。

 華奢な背中に真っ白なコートを着て、空を見上げてる。細いヒールのブーツに包まれた足で、精一杯背伸びしながら。


「こーんなに寒いんだから、雪ぐらい降ってもいいのにね。……ただ、寒いだけなんてなんか損したカンジ」

「―――こんなの、寒いうちにはいらねえよ」


 俺の出身は東北。

 寒い、とボアの襟元を引き寄せる彼女にマフラーを巻きつけた。急に冷風に晒された首が少し痛かったが、シャツにセーター、ジャケットを羽織ってる俺は、これぐらいの寒さには負けなかった。


「クリスマスには、いつも雪が?」

「そうだな。11月に積もることだってあるさ」

「ふうん。………いいなぁ」

「……………………」


 ヨメニクルカ?

 再び、呑み込んだ言葉が喉に詰まった。


「今日は、ほんとうにありがとうね」


 縮めることの出来なかった距離のまま、彼女がそう言う。細めた目は優しげで、ほんの少し淋しそうに感じるのは、俺のせいか?


「…………」


 待ち合わせをして、映画を見て、食事をして。

 クリスマスだというのに、今までとなんの代わり映えもしない一日を過ごした。


 たぶん俺がその身体を引き寄せたとしても、彼女は逃げない。

 身体が壊れるくらい強く抱きしめたとしても。

 だけど……俺はそうしない。


「もう、行くから」

「…………」


 雪を見たい、と。

 そう言ってくれたなら、さらっていく言い訳ができるのに。


 街の明りで星の見えない真っ暗な空を見上げる彼女を残し、俺は雪深い土地へと帰ろうとしている。たくさんの瞬く星が、俺を出迎えてくれるはず。

 ……一人では、何の感動も無いだろうが。


 先に背を向けた俺は冷たい男だ。

 本心とは別のところで、彼女が俺の知らない男と幸せになれることを願い、去っていく男。

 俺を思い出すものなんて、何も無いほうがいいんだと何度も言い聞かせた。


 すでに別れた彼女からの最後の願い。

 こちらでの最後の一日を一緒に過ごすこと。

 いまだ未練の残る俺が指した日時は……クリスマスイブ。


 手渡すことのない指輪は、ずっとポケットの中。












「…………き」


 掠れた声。


「…………………ないで」


 途切れがちの、涙声。


 聴こえない振りをすればよかった。


 気持ちだけは、誰にも負けないほど強く。

 一生を彼女とともに過ごせたら、と真剣に願っていた。

 俺を好きだと言った彼女の気持ちも、本物。



 …………ただ、覚悟だけが足りなかった。



 好きだと。

 愛していると。

 その気持ちだけで彼女を守り通す自信が、俺になかった。


 それでも、彼女さえ言ってくれれば。



 振り返った俺に、彼女が叫ぶ。


「連れて行って!!」



 望んだ言葉は―――たった一言。





雪が積もるのはせいぜい数年に一度の土地に住んでます。

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