Christmas Short in 2004
想像。
「雪、降らないねー」
アタリマエダロ。
呑み込んだ言葉が、喉に詰まった。
少し前を歩く彼女。
華奢な背中に真っ白なコートを着て、空を見上げてる。細いヒールのブーツに包まれた足で、精一杯背伸びしながら。
「こーんなに寒いんだから、雪ぐらい降ってもいいのにね。……ただ、寒いだけなんてなんか損したカンジ」
「―――こんなの、寒いうちにはいらねえよ」
俺の出身は東北。
寒い、とボアの襟元を引き寄せる彼女にマフラーを巻きつけた。急に冷風に晒された首が少し痛かったが、シャツにセーター、ジャケットを羽織ってる俺は、これぐらいの寒さには負けなかった。
「クリスマスには、いつも雪が?」
「そうだな。11月に積もることだってあるさ」
「ふうん。………いいなぁ」
「……………………」
ヨメニクルカ?
再び、呑み込んだ言葉が喉に詰まった。
「今日は、ほんとうにありがとうね」
縮めることの出来なかった距離のまま、彼女がそう言う。細めた目は優しげで、ほんの少し淋しそうに感じるのは、俺のせいか?
「…………」
待ち合わせをして、映画を見て、食事をして。
クリスマスだというのに、今までとなんの代わり映えもしない一日を過ごした。
たぶん俺がその身体を引き寄せたとしても、彼女は逃げない。
身体が壊れるくらい強く抱きしめたとしても。
だけど……俺はそうしない。
「もう、行くから」
「…………」
雪を見たい、と。
そう言ってくれたなら、さらっていく言い訳ができるのに。
街の明りで星の見えない真っ暗な空を見上げる彼女を残し、俺は雪深い土地へと帰ろうとしている。たくさんの瞬く星が、俺を出迎えてくれるはず。
……一人では、何の感動も無いだろうが。
先に背を向けた俺は冷たい男だ。
本心とは別のところで、彼女が俺の知らない男と幸せになれることを願い、去っていく男。
俺を思い出すものなんて、何も無いほうがいいんだと何度も言い聞かせた。
すでに別れた彼女からの最後の願い。
こちらでの最後の一日を一緒に過ごすこと。
いまだ未練の残る俺が指した日時は……クリスマスイブ。
手渡すことのない指輪は、ずっとポケットの中。
「…………き」
掠れた声。
「…………………ないで」
途切れがちの、涙声。
聴こえない振りをすればよかった。
気持ちだけは、誰にも負けないほど強く。
一生を彼女とともに過ごせたら、と真剣に願っていた。
俺を好きだと言った彼女の気持ちも、本物。
…………ただ、覚悟だけが足りなかった。
好きだと。
愛していると。
その気持ちだけで彼女を守り通す自信が、俺になかった。
それでも、彼女さえ言ってくれれば。
振り返った俺に、彼女が叫ぶ。
「連れて行って!!」
望んだ言葉は―――たった一言。
雪が積もるのはせいぜい数年に一度の土地に住んでます。




