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デカ盛りグルメむさぼり探偵 つくし ~元天才科学者は、爆食後の5分だけ覚醒する。~  作者: 団田図
第5章 崩れゆく肉の巨塔とあぶり出される罪

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第30話 食後のデザートは別腹

 パトカーの赤い回転灯が、ホテルの車寄せを毒々しく照らしていた。

 筆島ふでしま鋭一えいいちを乗せた車両が、サイレンの音を遠ざけながら夜の闇へと消えていく。

 それを見送ると、ホテル『インペリアル・トーキョー』のロビーには、祭りの後のような静寂と、微かな虚脱感が漂った。


「……終わったな」


 俺、見貫みぬき泰三たいぞうは、大きく息を吐き出し、強張っていた肩の力を抜いた。

 長かった。

 2.5キロの大盛りカレーから始まり、10キロのローストビーフの塔へ。そして、三年越しの恩人の死の真相へ。

 あまりにも高カロリーで、濃密な時間だった。


平良夏たいらげさん。本当にお疲れ様でし――」


 俺がねぎらいの言葉をかけようと、隣の相棒を振り返った時だった。


「……ぷしゅぅ……」


「えっ?」


 奇妙な空気音が聞こえたかと思うと、純白のドレスをまとった平良夏つくしの体が、ぐらりと傾いた。

 まるで、電池の切れた玩具のように。

 糸が切れた操り人形のように。


「ちょ、平良夏さん!?」


 俺は慌てて体を滑り込ませ、倒れくる彼女を受け止めた。

 彼女は俺の背中にドサリと寄りかかると、そのまま完全に脱力してしまった。


「……あ……限界……」

「限界って、まさか……」

「……思考リソース……完全枯渇。……システム……強制シャットダウン……」


 つくしは俺の背中で、ぐったりと目を閉じていた。

 あれだけ食べた10キロの肉のエネルギーは、筆島を追い詰めるための高速演算と、最後の「告発」の体力のために、一瞬ですべて使い果たされてしまったのだ。


「……まったく、燃費が悪すぎるでしょう」


 俺は苦笑しながら、彼女を背負い直した。

 ずしりとした重み。

 だが、今の俺には、その重さがどこか心地よく、誇らしくさえ感じられた。

 俺たちはロビーを後にし、夜風の吹き抜けるホテルのエントランスへと歩き出した。


+++


 夜風が、火照った頬に心地よい。

 俺は背中のつくしに、気になっていたことを問いかけた。


「……ねえ、平良夏さん」

「……んぅ……」

「追っていた事件が解決しましたし、これで科捜研カソウケンに戻るんですか?」


 小田切おだぎり教授の無念は晴らされた。

 彼女が庶凡書房に潜り込んだ目的である、犯人の特定も果たされた。

 ならば、彼女のような天才が、こんな安月給のグルメライターを続ける理由はもうないはずだ。

 彼女は元の場所――日本の科学捜査の最前線へと戻るのだろう。


 俺の問いかけに、つくしは背中でモゾモゾと動き、うわ言のように答えた。


「……戻らない」

「え?」

「……私は、ライターとして生きる……」


 意外な言葉だった。

 ジャーナリズムへの目覚めか? それとも、俺とのコンビに愛着を感じてくれたのか?

 俺が少し感動しかけた、その時。


「……だって、警察じゃタダでデカ盛りグルメをむさぼれないし……」

「そこかよ!!」


 俺は思わずツッコミを入れた。

 感動して損した。

 彼女の行動原理は、最初から最後まで「食欲」だった。

 人を救うためでも、正義のためでもなく、ただ己の胃袋を満たすために。

 なんてブレない、清々しいほどの欲望だろう。


 俺は呆れつつも、自然と口元が緩んでいくのを止められなかった。


「……しょうがないですね。これからもお世話しますよ、この燃費の悪い名探偵さん」


 俺がそう呟いた、その瞬間だった。


 グゥゥゥゥゥゥ~~~~ッ!!


 静かな夜の街に、猛獣の咆哮のような音が轟いた。

 地震か? いや違う。

 震源地は、俺の背中だ。


「……嘘だろ」


 俺は戦慄した。

 つくしが、パチリと目を開けた気配がした。


「……見貫くん」

「は、はい」

「……口が、レモンパイになってる」

「はあ!?」


 彼女は俺の首に腕を回し、耳元で甘えるように、しかし力強く囁いた。


「……手紙の追伸に書いてあったレモンパイ……。教授が用意してくれるはずだった、幻のレモンパイ……」

「いや、あれは手紙の内容で……!」

「……帰りに買って。……ホールで。……生クリームたっぷりのやつ」


 つくしの瞳が、眼鏡の奥でギラリと光ったのが見えなくても分かった。


「……あと、口直しに塩辛いポテトチップスも」

「まだ食うのかよ!!」


 俺は夜空に向かって叫んだ。


「さっき『バベルの塔』食べたばっかりでしょう! 10キロですよ10キロ! あなたの胃袋はブラックホールですか!」

「……うるさい。食後のデザートは別腹よ。……物理法則の特例事項」

「どんな物理学だ!」


 俺の抗議も虚しく、つくしは「……早く。……血糖値が下がる……」と俺の脇腹をペシペシと叩く。


 俺は観念して、重い足取りで歩き出した。

 この底なしの胃袋を持つ天才と一緒なら、退屈することだけはなさそうだ。

 俺の財布と体力は心配だが、まあ、それも悪くないかもしれない。


 俺と彼女の凸凹コンビが、夜の街へ「食」と「謎」を求めて消えていく。

 月刊ジャンボの次号予告には、こんな文字が踊るだろう。


 『名探偵ライター・つくしのデカ盛り旅』


 これからも、俺たちの高カロリーな旅は続いていく。

 ごちそうさまでした。


第5章 完




ここまでお読みいただきありがとうございました。

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