第8話 部屋の掃除はこまめに
最近、時間が進むのが早い気がする。
まあ、関係ないことは置いといて、どうぞ!
真悟の家にやってきたが、部屋の中には入れなかった。
「相変わらず汚い部屋だな」
そこには本や雑誌がいたるところに散乱していて、文字通り足の踏み場もなかった。
まるである物全部をまとめてひっくり返したような部屋だった。
食べかけなどのゴミはないが、とにかく物で溢れかえっていた。
前に真悟にマンガを貸したことがあるが、その時はこの部屋を二時間も二人で捜した。
しかも真悟の捜し方はかき混ぜながらやるから見つかるものもすぐには見つからない。
「いいだろ別に、そんなことより早く座れよ健一。このゲームで対戦しようぜ」
真悟が適当に物を寄せて座るスペースを作る。
「え~俺、対戦苦手なんだよな~」
この言葉通り健一はボコボコにやられた。十戦0勝だった。
「ちょ、真悟タンマ。強すぎ何か他のゲームとかないのか?」
「あるけど、あれ一人用だからな~」
「別にううよ。俺、横でマンガ見てるから」
健一は無造作に置いてあったマンガを取り読み始めた。
真悟も違うゲームをやりだした。
そのゲームからは、なんだか甘~い音楽が聞こえてきた。
「それ何のゲームなんだ?」
気になる健一がマンガを読むのを中断してテレビの画面を見た。
「これか? これはトキドキメモリアルっていうやっと最近発売されたギャルゲーだ」
「ギャルゲー…か」
健一もギャルゲーの存在ぐらいは知っていたが、実際に見るのは初めてだった。だからどんな内容か
までは知らなかった。
「どんなゲームなんだ?」
ゲームの入っていたパッケージを手に取った。
「これはな学園の女の子の幼馴染や転校生、ツンデレ、姉系、妹系とトキドキな出会いの中からフラグを立てて仲良くするゲームなんだ」
「フラグ?」
さらに真悟は語った。
「ストーリーの中の選択によってどのルートか決まってそれによってハッピーエンドかバッドエンドに決まるっていうこともあるから、これが難しいんだな」
「? ? ?」
もう健一には疑問符が頭にいっぱい出来ていた。
「もっと俺にもわかるように要約してくれ」
「ま、ようするに女の子と仲良くなって彼女にするゲーム」
「そうか…やってて悲しくないか?」
「しょーがないだろ健一。だって、俺には彼女いないんだもん」
なんだか彼女のいない奴のなれの果ての台詞に聞こえた。
自分はこうはならないようにしようと心に誓った。
「健一、彩芽ちゃんや楓ちゃんには言わないでくれよ」
「誰にも言わないよ」
というよりそれを話題に出すことはないだろうと思った。
「健一…やっぱりお前はいい奴だな」
そう言いながら真悟は画面の方に向いていた。
「おもしろいか?」
やけに易しい声で聞けた。きっとどこかで真悟に同情したのだと思う。
「ああ、おもしろいぞ。俺もこれ買って間もないけど、色々な出会いがあるんだ。例えば、落とし物を拾ってあげたり、道の角でぶつかったり、転校生だったりと。もう俺にはどの選択肢でどれを選べば相手の好感度が上がるか大体解るぜ」
こういうことを真悟が自信満々に言うからすごい説得力があった。
「へぇ~、すごいな。けど、これが現実で活かせるといいな」
「それを言うな」
悲しそうに言った。
「健一お前も少しやってみるか?」
「いや、俺はいいや」
「まあそう言わずちょっとやってみろよ」
真悟が強引なまでにコントローラーを押し付けた。
仕方なく健一は渋々な顔をしながらもやることにした。
ゲームの内容は物語が進みトキドキ行動を選択する選択式だった。
・学校が終わり、放課後あなたはどうする?
・①真っ直ぐ家に帰る
・②図書室に本を借りに行く
・③友達を誘って寄り道する
「①かな」
・三つの道がある。どの道を通る?
・①商店街を通る
・②坂道を通る
・③裏路地を通る
「②」
「お、健一もこれを選んだか」
「これを選んだらどうなんだ?」
「パンチラシーンが見られる」
「…………」
おもしろい? と口には出さなかったが素直に思った。
こうしながらゲームをやっていると、携帯が鳴り出した。
「健一、電話鳴ってるぞ」
健一はゲームが中断できるので少しホッとした。
電話の主は彩芽だった。
『もしもし、兄サン』
「なんか用か?」
『実はねお願いしたいことがあるの』
彩芽の声は妙に弾んでいた。
『今日、あの店に予約していたものがあったの』
あの店とはもちろんアニ天のことである。
「ふ~ん」
他人事のような反応だった。
『それでね、兄サンにお願いしたいことっていうのは…』
「もしかして、それを俺に取りに行けって言うんじゃないだろうな?」
『正解。それでは続いての大事な大事なアタックチャンス』
どこぞのクイズ番組みたいな言い方だった。
「断る!」
健一は力いっぱい断った。
興味のある彩芽なら行きたいと思うけど、興味のない健一は行きたいとは思わない。ましてやアニメショップという普通の人からしたら行きたくない。
それだったらまだ、真悟の家でこのままギャルゲーやっていた方がましだ。
『ふ~ん。そんなこと言うんだ』
その脅しみたいな声は電話越しからでも健一に伝わった。
「だって今、ほら、真悟の所に居るし」
健一はもっともらしい理由を言った。
『いいよ、なら私が明日取りに行くよ。今日は兄サンの部屋から今朝、言ってたプリクラ捜してるから』
「分かったよ。行けばいいんだろ」
健一はやけくそ言った。
『ありがとう。やっぱり兄サンは優しいね。お金は後で渡すから。じゃあ、帰って来るの楽しみにして待ってるから』
そう彩芽が言うと携帯が切れてしまった。
「……………」
健一に行き場の無い気持ちが残った。
いっそのこともう携帯なんていらないじゃないかと思い始めた。
「健一、誰からだったんだ?」
そんな現実逃避している健一に真悟は訊いてきた。
現実に引き戻された健一は悔しそうに答えた。
「彩芽から。で、悪いんだけど俺これから行く所ができたから帰るよ」
「え~、これから良いとこじゃん。今、行かなくちゃいけないのか?」
「ああ」
「なら俺も一緒に行こうか?」
「来なくていい。絶っっっっっっっ対にいい!」
健一は激しく遠慮した。
真悟がつまんなそうな顔をした。
「そうか。ならまた明日な」
「ああ、また明日」
部屋の掃除、自分は苦手です。