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第6話 会話は共通性が大切

 夕暮れの帰り道二人の間に会話がなく気まずい空気が流れていた。


 先にこの空気に耐えかねたのは健一だった。


「あの、橘さん」


「はい?」


「そういえば、橘さんの用事ってなんなの?」


「えっと、詳しくは言えませんが私の趣味に関わります」


「それって料理かなにか?」


「そこは秘密です」


 楓はにこやかな笑顔で答えた。


「そう言う高峰君の方は?」


「俺の方も秘密ってことで」


 本当は大した用事でないので言えなかった。


「ふあ~」


 気の緩んだ健一はつい欠伸(あくび)をしてしまった。


「ゴメン、眠くてつい……」


「いいえ、気にしてませんから」


「そうだ、橘さんはなにか眠くならない秘訣って知ってる? 妹に聞いてもあまり参考にならなくて」


「そうですねーやっぱり、自分の楽しいと思えることをしたらいいと思いますの。そうすると次の日の目覚めが良くなりますよ」


「……………」


 健一はデジャヴってやつを覚えた。


「どうかしましたか? もしかしてお役に立ちませんでしたか?」


「ううん。そんなことないよ」


 不安そうに健一を見つめる楓にそう言うしかなかった。


「なら良かったです」


 急に楓が思い出したように健一を見た。


「ところで今何時か分かります?」


 携帯を見て健一は答えた。


「5時21分」


 この言葉を聞いた楓は急にソワソワしだした。


「どうしたの? もしかして急ぐ?」


「はい。その…5時半から用事があるもので、すみませんが私はこれで」


 そう言い残すと楓はダッシュで帰って行った。


 その速さは100mを十二秒台で走れる速さだった。


「早! よっぽど急いでたんだな」


 そう呟くと健一はゆっくりと家に帰った。


「ただいま~」


 しかし、返事はなかった。


「あれ? 彩芽いないのかな?」


 健一は二階に上がると自分の部屋の隣にある彩芽の部屋を開けた。


 そこにはテレビを見ていた彩芽がいた。なんのテレビを見ていたかというとアニメだった。(やっぱり)


「なんだここにいたのか」


 この声にテレビを見ていた彩芽がようやく健一の姿に気が付いた。


「あ、兄サンおかえり」


 テレビの方に顔を向けたまま返事した。


「またアニメ見てるのか」


 呆れた声で健一は言った。


「だってこれすっごく面白いんだもん」


「そんなに面白いもんか?」


「うん。これ五時半から始まったから兄サンも試しに見てみなよ」


 彩芽の言葉通り健一は試しにちょっと見てみることにした。


「え、これって……」


「そう、昨日兄サンに貸したマンガの『町中(まちなか)の忍』のアニメの再放送だよ。深夜にもやってるんだけど、この時間のは少し内容が修正されてたりしてちょっと違うんだから」


 内容は、その昔殿様が『わしの宝ともいえるこの町をずっと守ってほしい』という命令を代々受け継いできた家系の高校生忍者が女の子と仲良くなりながらも町内の平和を忍術を駆使(くし)しこっそり守るという内容だった。(まあ、そんなことは置いといて)

 

 アニメが終わって健一は横を見ると、彩芽が目をキラキラ輝かせていた。


「やっぱり最高だね!」


「ま、俺は面白かったらなんでもいいけど」


「けどやっぱり主人公の魅力と忍術の迫力が足りないのがちょっと気になると思わない?後、毎回パターンが決まっているからそろそろ転校生でも大事件でもいいから新展開が欲しいところね。まあ、恋愛に関しては私は好きだからいいけど、だから私これを見たいと思うの。後ね後ね……」


「じゃ俺はこれで」


 このまま彩芽が話していると明日になりそうだったからさっさと部屋を出ようとした。


「ちょっと兄サンどこ行くの? まだ話してる途中だよ」


「勘弁してくれよ」


「私の話だけでも聞いてって! こんな話ができるの兄サンしかいないんだから。あの店だって誰にも見つからないようにこっそり行かなきゃならないし」


 彩芽の言っているあの店っていうのは、この町で唯一のアニメ専門ショップのことである。


 店の名はアニ天という。天ぷらみたいな名前だ。


 そのアニ天に健一も彩芽の荷物持ちで何度か連れていかれたことがある。


「誰か話せる相手でも見つければいいだろ?」


「そんなの無理だよ」


「大丈夫だって俺も今日初めて会った橘さんと仲良くなれたんだから。ほら、彩芽も今日廊下で気にしてた女の子だよ」


 カチャ!


 この時、彩芽の頭の中でカギ穴にカギがはまった音が聞こえた。


「そうよ! 今日見た橘さんだっけ、あの人が店から出てくるの私見たことあるよ」


「店って彩芽が行くあのアニ天に? 橘さんが?」


 これに彩芽が真剣な顔で黙って首を縦に振った。


「彩芽……きっと誰かと見間違えたんだよ」


 健一は彩芽の言葉を爪のアカほども信じていなかった。


「見間違いじゃないもん!」


「はいはい、そうかもしれないな」


「あー全然信じてないでしょ! 罰としてさっきの話の続きを聞いてもらうから。聞かなかったら兄サンに貸した本返してもらうからね」


「そんなー」


 こうして話は彩芽が飽きるまで続いた。








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