第5話 プリクラって女の子とカップルのためにあるもの
そこには団体やカップルが賑わっていた。(当たり前と言えば、当たり前だった)
その中でカップルではない自分たちがいることが場違いな気がしてきた。
中に入るとさっそく二人は、撮るフレームを選び始めた。
「高峰君はどれがいいですか?」
フレームには、色々あった。
満開の花
のどかな平原
時代劇風
夏の浜辺
サンタクロース
ハロウィン
夜空の星
夕焼けの空etc.
健一は考えた。
「俺はこれがいいと思う」
健一が選んだそれは、今の季節にぴったりの桜の花びらだった。
「私もそれがいいと思ってました」
その声はとてもうれしそうだった。
「では撮りましょうか」
そう言うと決定ボタンを押した。
ポーズを決める数秒の間、楓は健一との距離があることに気付いた。
「あの、高峰君。もっと近づかないと写りませんよ」
そう言うと楓は健一の体を引き寄せた。
そして、出来たプリクラには満点をあげたくなるような笑顔の楓と、顔に緊張が読み取れる健一が写っていた。
「もしかして高峰君こういうの初めてですか?」
「……初めてです」
健一は力なく答えた。
けれどそれ以上に横に楓がいるからだ。
なんてことは口が裂けても言えなかった。
「じゃ今のは練習用ってことでもう一回撮りましょうよ」
「え、でも真悟達が待ってるし別にいいよ」
「高峰君が良くても私がダメです!」
楓は真剣な眼差しで健一を見た。
「え?」
「あ、いや別に深い意味で言ったんじゃないですから、あまり気にしないでください」
慌ててそう言い直すと楓はフレームを選び始めた。
健一には楓が慌てていた理由がいまいち分からなかった。
「今度はこれにしましょう」
そう言いながら楓が選んだのは、二人がかなり近寄らないと写らないいわばカップル用のフレームだった。
しかし、そんなことを知らない健一は変わったフレームだなとしか思わなかった。
健一はさっき自分が写った位置にいた、がカップル用だったのでやはりはみ出していた。
「もっとくっつきませんと入りませんよ」
楓は健一の体を密着させた。
これには楓も少し頬を赤らしめたが、それ以上に健一も赤くなった。
「ほら高峰君リラックス、リラックス!」
楓に言われリラックスしたもののやはり緊張という文字が顔に残っていた。
「写る時は楽しいことを考えるといいですよ」
こんな楓のアドバイスに健一はさっそく楽しいことを考えてみた。
(確か昨日、テレビを見ていたら途中彩芽の部屋の掃除を手伝わされたんだっけ)
ちょっとムっとした。
(けどその後お礼に彩芽が貸してくれたマンガ本がなかなか面白かったなあ。そういえばまだあの本全部読んでなかったな。帰ったら続きを読もう)
なんてことを思い出していると顔から少しは緊張という文字が消えた。
そして、できたプリクラには少し緊張が解けた感じの健一、そして今度は少し緊張気味の楓が写っていた。それでも楓の笑顔は満点に近かった。
「いいのが撮れたね橘さん」
「そ、そうですね」
「どうしたの顔赤いよ」
この時の健一は本続きのことで頭がいっぱいで、密着していたことなどすっかり忘れていた。
「なんでもないですよ。なんでも……」
楓の顔は恥ずかしそうだったけど、どこかうれしそうだった。
二人はみんなの所へと戻って行った。
「遅いぞ! 健一」
みんなを代表して真悟が待ちくたびれた様子で言った。
「ゴメ…」
健一はそれ以上言えなかった。
「すみません。ちょっと混んでましたもんで」
健一の声より先に楓の声が届いた。
「楓ちゃんが謝る必要ないよ。混んでたんなら仕方が無いよ」
楓の一言によって場の空気が和んだ。
「で、どんな感じに撮れた?」
真悟が興味津々といった声で聞いてきた。
「はい、こちらです」
楓は練習用の方を真悟達に渡した。
「へぇ~よく撮れてるじゃん」
「やっぱり橘さんってきれいだね」
「高峰君も初々しい感じがなんだかかわいいね」
「このフレームもなんだかいいね」
みんなが一枚目に夢中になっている間、健一は楓に小声で尋ねた。
『なんで二枚目の方も渡さなかったの?』
『二回も撮ってたなんて言ったら待ってたみんなに悪いじゃない』
健一はなんとなく納得した。
『高峰君二枚目の方は二人だけの秘密にしてくれませんか?』
『うん、いいよ。じゃ二人だけの秘密ってことで』
『はい』
楓の声は弾んでいた。
「二人ともこそこそ何やってんだ?」
「なんでもないですよ」
「そう、なんでもない。なんでも」
「本当か?」
真悟が疑いの眼差しで二人を見ていた。
「本当、本当」
「ふ~ん。ま、いっか」
真悟の声に二人ともかなり動揺しながらも何とかその場を誤魔化した。
「じゃあこのままカラオケ行く人!」
この真悟の声に手を上げたのはほぼ全員だった。
その中で健一と楓の手は上がらなかった。
「え、なんだよ健一も楓ちゃんも来ないのかよ」
「すみません。私夕方から用事がありまして」
「ゴメン。俺もちょっと用事があってさ」
「健一の用事って?」
「まあ、ちょっとな……」
実は健一の用事とは、帰ってさっき思い出したマンガの続きを読むことであった。
「ま、なんでもいいや」
質問をしたわりには真悟の返事は軽かった。
「じゃあ健一、楓ちゃんまた明日学校で」
こうして二人は真悟達と別れた。
プリクラの部分はほぼ想像です。
なにせ撮ったことがあるのは1回こっきりですから……
悲しいッス(涙)