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第29話 そしてみんなでアニ天へ

「あの…橘さん」


 健一は顔を真っ赤にしていた。


 今の楓が健一に抱きついている状態ということに気付き、楓も顔を赤くして慌てて離れた。


「ご、ごめんなさい」


「い、いや、べつに大丈夫だよ」

 

 お互い少し気まずかった。


 なので話を変えるため素朴な疑問を訊いてみた。


「それよりも橘さんって今までにその……自分がオタクってこと誰かに言ったことあるの?」


「いえ、高峰君が初めてです。私と同じ趣味の人なんていないと思いますから。でなくても高峰君みた

いに受け入れてくれるか不安ですし」


「そうだったんだ」


(もしかして彩芽と鏡子もそういう考えなのかな)


 彩芽と鏡子のことを考えていたその時、


「おーい、兄サン」


 振り返ると彩芽と鏡子がこっちに向かって歩いて来ていた。


 それを見た楓はまた逃げようとした。


「橘さん待って」


 とっさに楓の手を掴んだ。


「逃げなくても大丈夫だから」


 健一はやさしく言ったが、楓はでも、という顔をしていた。


「二人ともよくここがわかったな」


「健一がまだ捜すって言うから私たちもまだ捜すことにしたのよ。それでかえっちには悪いと思ったけど、財布の中から住所を調べてかえっちの家に行こうとしたのよ」


(よくそんなことできるな)


 口には出さなかったが、鏡子の常識を少し疑った。


「そしたらこの公園を通りがかった時に、兄サンと橘さんがいたのを見つけたの」


「それより、かえっちなんで逃げたのよ」


「それはだな……」


 健一が楓の替わりに説明しようとした。


 しかし、楓は首を横に振った。


「高峰君、ここからは私が言います」


 彩芽と鏡子に向き合った。


「じ、実は私……その袋の中にあるようにアニメが好きなんです」


 彩芽が持っていた袋を指差した。


 それを聞いた彩芽と鏡子は顔を見合わせた。


「……かえっち、どうして私たちがアニ天で会ったかわかる?」


 そこで楓はしばらく考え、はっと気付いた。


「もしかして、みなさんも……そうなんですか?」


「そうだよ」


「正解よ」


 彩芽、鏡子、素早く肯定。 


「俺は違うけどな」


 健一、素早く訂正。


「そうだったんですか。あはは、なんだか逃げ出したのがバカみたいですね」


 ほっとする楓。と同時に胸のつっかえが取れたのか笑いが込みあがってきた。


「そうだね」


「ほんと」


 彩芽と鏡子もつられて笑った。


「はいこれ、橘さんの荷物」


「わざわざありがとうございます」


 彩芽は楓に荷物を手渡した。


「あっ、でしたらこれ欲しかったんじゃ……」


 袋の中からネオランドで手に入れたトレカのケースを取り出した。


 彩芽も鏡子もそのケースをおあずけされている犬のように見つめていた。


「いいのよ。欲しかったけど、それはかえっちが手に入れたものだから」


「そうそう」


 二人は欲望に負けなかった。


「でも、私これもう持ってますから。ただ一組しかなくて保存用にと出来たらもう一組欲しかっただけですから」


「「…………」」


 この言葉に二人は欲望に少し心が動いた。だけど涙を呑んで我慢した。


「け、けど、それでも橘さんに悪いよ」


「そうそう、あ、彩芽ちゃんの言う通りよ」


 彩芽と鏡子はトレカが欲しいのは確かだけど、レアな物だけに素直に貰うことができないでいた。


「でしたらこれをみんなで分けましょうか。これだったら二人とも納得してくれます?」


「それだったら、ねっ鏡子ちゃん」


「そうね。それじゃありがたく貰おうかしら」


 この提案に二人の心は欲望に負けたのだった。


 二人の目は輝いていた。


「かえっち、どれ選んでもいいの?」


「ええ構いませんよ」


 彩芽と鏡子はトレカを選び始めた。


「高峰君はどれがいいですか?」


「へぇぁ!? 俺?」


 自分に言われるとは思わなかったので、変な声を上げてしまった。


「俺は別にいらないよ」


「そうそう健一にトレカあげるなんてドブに捨てるようなものよ。その分、私たちで分けましょうよ」


「せっかく仲良くなった証にと思ったんですけど……どうしても受け取ってもらえませんか?」


 さっきまで泣いていたせいなのか楓の瞳が潤んでいた。


 その潤んだ瞳に見つめられながら何とか断ろうとした。


「いやこういうオタクっぽい物もらってもいらないんだけど……」


 健一のオタクって言葉に楓は目を細めた。


「高峰君! 話に水を差すようで悪いんですけど、そのオタクって言うのやめてください!」


「そうよかえっちの言う通りよ。罰として受け取りなさい!」


 もう鏡子はさっきと言っていることが180度変わっていた。


「そういえば私、まだお願い聞いてもらえてませんでしたよね」


 楓は意地悪っぽく健一を見た。


「そうだね。橘さんってまだ言ってなかったよね」


 無言でトレカを何枚か差し出す楓、それを健一は受け取った。


 健一の手に完全に移ったのを確認すると楓は一歩下がった。


「でも、これが私のお願いじゃないですからね」


「え? でもこれ……」


「それは高峰君が快く受けっ取ったものじゃないですか。もちろん返却はできません」


「やるわねかえっち。健一をはめるなんて」


「…………」


「じゃ橘さんのお願いは?」


 彩芽は満足そうな顔のまま訊いてきた。


「私のお願いは……」


 健一は固唾を飲んでどんなお願いがきても覚悟することにした。


「これからも友達でいてくださいね」


 楓は微笑みながら言った。


「そんな願いならお安い御用だ」


 ほっとした様子で微笑み返した。


 トレカを選び終えた彩芽と鏡子が二人を見ていた。


「ちょっと健一、かえっちと和んでいるところ悪いんだけどさー」


 鏡子が怖いくらいにこにこした顔で訊いてきた。


「なに?」


「さっき、かえっちの財布調べた時に見ちゃったのよ」


「なにを?」


 健一にはさっぱり分からなかったが、楓にはすぐ思いつくものがあった。


「まさかあれを見たんですか?」


「もちろん見たわよ」


「私も」


 楓の顔はみるみる赤くなっていった。


「野江なにを見たんだ?」


 この時、健一はこの場からすぐに逃げなかったことを後悔することになる。


「あんたとかえっちが写っているプリクラよ! しかもめちゃくちゃ密着してるじゃないの!」


 鏡子が言ってるのはボーリングの時に撮った二枚目のカップル用のプリクラのことだった。


 どうやら楓は財布の中に貼っていたらしい。


「……あ、あれはクラスのボーリングの時になっ! 橘さん」


「ええ、そ、そうですよ。あれはボーリングのクラスの時にですよ」


 慌てて言う楓だったが、さっき以上に顔が赤くなっていった。


「なにさ、かえっちまでそんなに慌てちゃって。健一、今度……その……」


 急に口をもごもごさせ、そして何故か楓の次は鏡子まで顔が赤くなった。


「今度みんなで撮りに行こうよ。いいでしょ兄サン!」


 彩芽が代わりに鏡子の言いたいことを言ったのか、それとも自分の言いたいことを言ったのか、わからないけど二人とも健一を睨みながら答えを待っていた。


 本音を言えば、行きたくない。だけどなんだか二人が睨んで恐かったので、首を縦に振った。


「よし、そうと決まったら今からみんなでアニ天に行くわよ」


 仕切り直しと深呼吸して鏡子が言った。けど、顔はまだ少し赤いままだった。


「じゃ俺は帰るわ」


 聞かなかったふりして背を向けた。


 しかし、そんな健一に彩芽と鏡子は素早く手を握ってきた。よく見ると楓も服の裾を掴んでいた。


「俺のお願いは一刻も早く家に帰りたい」


 健一は独り言を言ってみた。


 けど三人は放す気配がなくそのまま足取りはアニ天へと向かっていた。


「俺は行きたくないんですけど……」


 どうやら健一の願いは三人には叶えてはもらえそうにないようだ。





この後、話を続けていましたが書ききれる自信がないのでここで終わりにします。


こんな作者でゴメンね

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