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第26話 遊んだ後の帰り道はなんか寂しい

 三人はお化けコースターを出て、写真を受取りこれで七枚になった。


 写真をチェックしたが、健一と彩芽の顔はどちらも問題なかった。けど、横に一緒に写っていた鏡子は、よく見ると白目をむいていた。


「それにしても鏡子ちゃん迫真の演技だね」


 ぬけがら状態の鏡子を横に彩芽は今も演技だと信じていた。


「演技か……よかったな彩芽は信じてくれて。なあ、野江」


「な、なによ。あ、あんたは私のあの、あ、の演技信じてないの」


 と言いつつまだ少し震えていた。


 嘘をついて目は泳いでいたけど、そんなの関係なしに嘘だというのがわかる。


(ていうか、バレバレだろ)


「はいはい。じゃあそういうことにしておくよ」


 鏡子が健一の言葉に言い返そうとしたけど、館内放送に遮られた。


「今、一番乗りのペアが到着しました。こちらで写真を確認したところどれも笑顔で写っていて、大変よろしい。では佐藤、岡本ペアにはフリーパス十枚を贈りたいと思います。私としては今度ここにはグループ交際で来てほしいと思っております。おーっとたった今もう一組のペアが到着しました。今度は家族連れのようです。では早速写真を拝見いたします」


 数十秒後再び館内放送が鳴った。


「えー、二番乗りのペアも到着しました。確認したところ問題はありませんでした。どれも家族みんな笑顔で………」


 流れている放送を健一はのんびりと聞いていた。


 不意に真悟からの携帯が鳴った。


『健一今の聞いたか?』


 電話越しから真悟達が走ってるのがわかった。


「ああ」


『実は俺達の方は写真が集まって会場に向かっているところなんだ』


「こっちもいま……」


 不意に体が動かなくなった。見ると自分の腕を片方ずつ鏡子と彩芽が掴んでいた。


「兄サン」


「健一」


 二人は同時に健一の方に振り返ると、


「「なにもたもたしてんのよ!!」」


 同じことを二人は同時に言うと、掴んだ腕を引きずるようにして全速力で走りだした。


 いきなりのことで健一の体制は崩れながらも二人のスピードについていった。というか体制を立て直そうにも二人に腕をしっかりと掴まれていて、体制を立て直せないので二人のスピードに無理矢理合わさせられていた。


 けれどその甲斐あって途中、同じように中央会場に向かっているペアを難なく追い抜いた。


 だけど、それ以外は三人が全速力で走っているので、人やきぐるみを着てバイトをしているマスコットに何度もぶつかりそうになった。


 それに謝ろうと思ったけど、走ってるせいで声がまともに出せなかったので心の中で彩芽と鏡子の分まで謝った。


 ようやく中央会場が見えてきた。まだペアらしき姿はそこにはなかった。三人は息を荒くしながらも最後のスパートをかけた。


 それに気付いた司会者がマイク片手に館内放送で実況を始めた。


「今ここに、最後のペアがこちらに向かっています。けど、私は彼らの所には向かうことはしない。それがここ、夢や希望を与えるネオランド役目。いや、大人の役目! だけどここまでみごと来たペアは私が直接写真判定を行う。そして賞品と一緒に存分に勝利を誉め称える。さあ、今ここに最後の一組が到着した。それは君たちだっ!」


 酸欠で言っていることが頭に入ってこなかったが、とりあえずなんで自分は今走ってるんだろうと思った。


 そして、司会者は目の前に来た一組のペアを指差した。





「久しぶりに遊園地ってのもなかなか楽しかったな」


 ネオランドの余韻に真悟は浸っていた。


 夕暮れに近い日差しを窓から浴びながら五人は帰りの電車に揺られていた。


「あーでもやっぱり、私もあのイベントには参加したかったな」


 鏡子が残念そうにもとい、悔しそうにも見えた。


「しょうがないよ。二人一組なんだから。それに俺は別にいいって言ったのに」


「別に私はそんな意味で言ったんじゃないの。それに…」


 下を向きながら小声で呟いた。


「私は健一と参加したかったの」


 言い終わった鏡子の顔は夕日よりも真っ赤だった。


「ん? なんか言ったか?」


「べつに、なんでもないわよ」


「ところでそれって、高く売れたりするのか?」


 真悟が十二枚のトレカの入ったケースを指差した。


 ちなみに三位の賞品は楓の手の中にあった。


 あの時、会場に辿り着く寸前のところで健一達の進行方向から逆の会場裏から現れた真悟達によってゴールをかすめ取られたのだった。


 一同はケースを持っている楓の手に集中した。


「真悟さん、まさかそれ売る気なの?」


「かえっち、それ絶対に真悟に渡しちゃだめだからね」


 鏡子が楓の手ごと庇った。


「それは俺と楓ちゃんのだろ。まっ、俺にそのトレカの価値なんて判らないけど」


「それじゃ、そのトレカは真悟さんと楓さんどっちが持つの?」


「どうする楓ちゃん。二人で六枚ずつ分ける?」


「それはダメ!!」


 彩芽と鏡子が同時に真悟に言い放った。


 その迫力に真悟はたじろぎながらも質問をした。


「え? 二人ともどうして?」


 二人は顔を見合わせ言葉を詰まらせた。


「それは……ねー、鏡子ちゃん」


 耐えきれなくなった彩芽は鏡子へと振った。


 鏡子は私に振らないでよという感じだった。


「へ? あー、ねー。……それはほらやっぱり、かわいそうって言うかねー健一」


 不意を突かれて、鏡子に視線を返した。


(なんでこっちに振るんだよ)


(仕方ないでしょ。いいのが思いつかないんだから)


(だからってこっち振るなよ。彩芽も何とかしろよ)


 彩芽に視線を送ったが、「兄サンよろしくー」っていう見守る顔になっていた。


 どうにかしてよ。と、二人を見たが、ファイトっていうエールが聞こえてきそうな目でこちらを見ていたので、もうやけくそ気味になった。


「そ、それって全部で一つみたいなもんだろ。だから、二人で持つより一人が持ってた方がいいと思うんだ」


「そうか、ならしょうがない、のか?」


「そうよ。しょうがないのよ。ね、彩芽ちゃん、かえっち」


 楓は空気を読んで彩芽と一緒に頷いてくれたようだ。


 真悟が混乱しながらも納得したようだ。


 健一が何か言いたげにしている横で、彩芽と鏡子はほっとした。


「なら、それ誰が持つんだ? 俺は別にいらないからみんなで決めてくれ」


 健一が横を見てみるとやっぱりというか案の定、彩芽と鏡子がチャンスとばかりに目を輝かせていた。


 彩芽と鏡子のどっちかが言うのかと思ったが、声は意外な人物から出た。


「あの…でしたら今日の記念に私が貰ってもいいですか?」


 トレカを持っていた楓が言った。


 これには彩芽も鏡子も健一もびっくりした。


 楓はいらないと思い、彩芽と鏡子の二人で取り合うと思っていたからだった。


「なら、それでいいんじゃないか」


 真悟が興味なそうな声で答えた。


「真悟と橘さんのペアが手に入れたから俺もそれでいいと思う」


 二人(もちろん彩芽と鏡子)は健一のことを睨んだけど、それ以上のことはせず、そしてなにも言わなかった。


 理由は簡単。どーでもよかったから。


「はい、これ大切にします」


 楓はトレカのケースを握りしめた。


 その後、電車に乗っている間、彩芽と鏡子はチラチラケースに視線を送っていた。






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