第22話 それぞれの思惑
元の場所に戻ると健一は真悟と楓に参加のことを伝えた。
「参加するのはいいけど、一人の奴はどうするんだ?」
もっともな質問だった。
健一たちは言葉が詰まった。
「それなんですけど。ペア参加って言ってもみんなで同じ物を乗ればいいじゃないですか。そうすれば参加しながら楽しめますよ」
「さすがかえっちナイスフォロー」
「あと一つ。誰がその一人になるんだ?」
これが最大の問題かと思われたが、あっさり決まった。
「それは俺がなるよ」
健一からすればどうでもいいことなので、進んで立候補した。
「それはダメ!」
彩芽が健一の立候補に待ったをかけた。
「なんでダメなの? 彩芽ちゃん」
「やっぱりこういうのは公平にしないと」
そして、鏡子だけに聞こえるように耳元で囁いた。
「もし私と鏡子ちゃんが組んで後で賞品のことで揉めるのも嫌だし。それに兄サンとなれば三位の賞品は丸々その人の物よ」
「そうね。それじゃ、組みたい人と組むってことにしよっか」
「俺の意見は無視か!」
勝手に進む話に思わず叫んだ。
この瞬間、真悟が首に腕を廻してきてそして周りに聞こえないように小声で囁いた。
「健一、願いを聞くっていう約束覚えてるよな」
「ああ。けど、言ったら変更するなよ」
鏡子の時みたいにならないように釘を刺しといた。
「しないしない。今日はずっとこれだけを狙ってたんだから」
この時、真悟がどんなことを言うか大体予想がついたが、一応訊いてみた。
「……どんな?」
「ずばり楓ちゃんとペアを組ませろ」
「……………」
予想という的のど真ん中一直線だった。あまりにも予想通りだったので、当たった喜びを通り越して呆れていた。
「ちょっと、何さっきから二人でゴチャゴチャ喋ってんのよ。早くしないと誰かに賞品取られちゃうじゃない」
「わかってるって。っていうことでそっちでペアを決めておいてくれ。俺は先に受付がどんな様子か見てくるから後から来てくれ」
そう言うと一人受付の場所に向かった。
残された四人は決めることにした。
「それじゃ、まず野江は誰と組みたいんだ?」
「わ、私は……」
健一を見ながら鏡子はどう言うか悩んでいた。
けど、すぐに言葉を見つけ口を開いたが横から別の言葉が飛んできた。
「お願いを使うから私は兄サンと組みたいな」
鏡子はとっさ言う言葉を変更した。
「…妹にしか誘われないなんて寂しいわね。しょうがないから私もお願い使って健一と組むのに立候補してあげるわ」
「別に無理して組まなくても彩芽と組めばいいだろ」
これに鏡子は小声で答えた。
「今は彩芽ちゃんと組んだら都合が悪いのよ。それに健一と組んだ方が賞品がもらいやすいじゃない」
「そのかわりどんな結果になっても二人のお願いはもう使ったことになるからな」
「仕方ないわね」
「うん」
答え終わると二人は向き合った。
「それじゃ彩芽ちゃん、どっちが健一のペアになるか決めようか」
「なにで決める?」
「そーね」
二人はクジだの取引だのなにで決めるか話し合いをしていた。
この光景に一人残されている楓に気付いた。
「橘さんは誰か組みたいとか希望はない?」
楓は健一を見つめたままだった。
「……いえ特には」
「じゃ、二人があんな感じで時間掛かりそうだから、橘さんは真悟と組んでくれないか? あいつは誰でもいいって言ってたから」
「わかりました」
楓は笑顔で言うが、健一にはその笑顔が痛かった。
(橘さんゴメン。無理やり押し付けたみたいになって。けど、これもさっさと真悟の願いを終わらすためなんだ)
心では申し訳のない気持ちでいっぱいだった。
その横では二人が勝負の構えに入っていた。
どうやらジャンケンで決めることになったらしい。
「いくよ鏡子ちゃん」
「これはいくら彩芽ちゃんでも譲れないからね」
この時二人の頭の中ではさまざまな情報から何を出すか考えていた。
「いくよ!」
せーの、ジャンケン、ポン!
二人の出した手はグーとパーに分かれた。
「やったー、私の勝ちね」
「ま、負けた」
彩芽はうれしそうに手をパーにしたままその場で飛び跳ねた。
一方の鏡子は悔しそうにグーにした手をまっかになるまで握りしめていた。
けど、そんなに長いこと落ち込んではいなかった。
鏡子の目には楓の姿が映った。
「そうだ! かえっち、私と組みましょうよ」
「ごめんなさい」
きっぱり言われ、鏡子の心は一刀両断された。
「なんで、もしかして私とじゃ……嫌?」
「そんなことありませんよ。たださっき高峰君に頼まれまして、佐藤君とペアになることになりましたの」
鏡子は健一をじろりと睨みつけた。
「健一なんであんたは余計なこと言うのよ!」
「だって長そうだったから」
「あーもー、なんであんたは……それじゃ私一人じゃない…………一人!?」
自分で言ってこのイベントに参加できないのに気が付いた。
「ふふ、ふふふふふ。それじゃここはみんなに頑張ってもらおうかしら」
この時、鏡子の顔が不敵な笑みを浮かべていた。
「ほらみんな早く行くわよ」
真悟の待っている受付にと向かった。
チーム決めに一話使ってしまった。
この次はやっとイベントに入る予定