第17話 遊びに行く移動も遊びに含まれる
「健一の奴なにやってんだ! もう楓ちゃんも来てるっていうのに」
真悟は来ない健一にイラついていた。
「高峰君が今日来れなくなった二人を連れてくるんでしょ?」
「そうなってるけど、あの時は健一が当てがあるって言ったから切ったけど、今にして思えば任して大丈夫だったかな?」
「もう一度電話はしてみました?」
「そうだなもう一回してみようかな」
真悟は携帯を取り出し電話しようとした時、楓は前から走って来る人物を指差した。
「あ、高峰君達が来ました」
向こうの方から健一達は走って来た。
「遅いぞ健一!」
「悪い悪い」
「で、誰を誘って来たんだ?」
興味津々で真悟が聞いた。
「この二人だ!」
健一は後ろの二人を指差した。
そのうちの一人を見て真悟はにがい顔をした。
「健一、彩芽ちゃんはいいとして、なんであの野江鏡子まで一緒にいるんだよ!」
「まあ近くにいたから。それに真悟は誰でもいいって言っただろ」
「まあ、そうだけど」
真悟は自分が誰でもと言った手前これ以上言えなかった。
「ちょっと、なに二人でぶつくさ言ってるのよ。電車は大丈夫なの?」
「そうですよ。とりあえずもう電車が来ますからひとまずそれに乗りましょう」
電車の音がもうそこまでしていた。
五人は急いで電車に乗り込んだ。
さいわい中は空いていたので座ることはできた。
「なんとか座れたね」
「ほんと、よかったよ。それにしてもまさか、あの有名なかえっちがいるとは思わなかったわ」
鏡子は仲が良くなくてもすぐ親しく呼ぶことがある。
「確か野江さんでしたね?」
楓は確認するように聞いた。
「私のこと知ってるの?」
「はい、友達の話題で何度かでてきたことがありますから」
「そうなの。でも野江さんはやめてよ」
鏡子は気恥ずかしそうに言った。
「では、鏡子さんで。それでそちらは?」
楓は彩芽を見ながら尋ねた。
「俺の妹なんだ」
「初めまして、妹の高峰彩芽です」
「よろしく、彩芽さん」
にこやかな笑顔で楓は挨拶をした。
その顔を彩芽はじっと見つめていた。
「どうかしました?」
「あの、橘さんって変わった店に行くことってありますか?」
「また言ってるのか」
「どういうことですか?」
「いや、なんだか彩芽が橘さんを見たことあるって言うんだよ」
「そうなんですか。それでその変った店ってどこのことですか?」
彩芽の言葉が一瞬止まった。
「み、店の名前は忘れちゃった」
店の名前は誤魔化した。
言えば自分もそこに行っているとばれてしまうからだ。
「変わったお店ですか。う~ん、よく分かりませんわ」
「それよりさ、健一とかえっちっていつから知り合いだったの?」
気になった鏡子が我慢しきれず聞いてきた。
「一昨日かな」
「そうなんだ。でも以外よね~健一なんかが、かえっちと仲良くなってるなんて」
「なんかで悪かったな」
「鏡子さんの方は前から高峰君と知り合いだったんですか?」
「そうだよ。私は去年一緒のクラスだったから」
「おかげで大変だったよ」
「それにしても楽しみだね、遊園地!」
「ほんとほんと」
話は盛り上がっていた。けれど、一人だけ静かな人物がいた。
いや、忘れられているといった方がいいか。一人だけポツンといた。
「なんか俺、さっきからすっごい忘れられているな」
「あ、いたの」
鏡子が真悟の存在にようやく今、気付いた感じだった。
「ええ、いましたとも」
みんなにほっとかれ、すっかりいじけいた。
「そういえば遊園地のチケット持ってるのってあんたよね……えっと………し………し、しんいち」
「真悟だ」
「ゴメン、ゴメン」
名前を間違えられて、真悟はさらにいじけた。
しかし、そんな真悟の気持ちを知らず鏡子は話を続けた。
「それにしても今日はチケットありがとうね」
これに真悟は意外そうな顔をしていた。
「そういえば俺もお礼言ってなかったよ」
「私も」
「私もでしたわ。ありがとうございます」
楓はその場で深々と頭を下げた。
これによりいじけていた真悟は元気を取り戻し、いつもの調子に戻った。
「そういえば私、もう一つ言うことがあったわ」
鏡子は一、二回咳払いして、照れくさそうにした。
「昨日の廊下の事。あれは謝るわ。あの時は急いでいて、それでついきついことを言って……悪かったね」
「別にそんなの気にしてないって」
今の真悟にはなにを言っても許してくれそうな感じだった。
それほどまでに立ち直っていた。
「あ、そう」
鏡子は真悟の態度に切り捨てる様に言った。
それでも真悟は気にしていなかった。
「まあ、そのおかげで昨日健一と会ったし」
「私も昨日高峰君と会って、買い物しましたよ」
「私も私も、昨日……」
彩芽も話に入いって混ざりたそうだった。
それでも真悟は気にして……いた。
「健一、昨日用事とかいって、そんな羨ましいことしてたんだ」
真悟がうらめしそうに健一を見つめた。
「いや、あれは…その…成り行きでそうなったんだよ」
「どういう成り行きなんだよ」
さっきまでの何を言っても許してくれそうな雰囲気ではなかった。
「高峰君は昨日、鏡子さんとも楽しくしてたんですね」
楓はなぜか針で刺すような声をしていた。
「つまり健一は昨日、みんなを手玉にとって楽しんでたわけね」
最後は鏡子がひとまとめにした。
「なんでそうなる」
健一のツッコミもむなしく鏡子には効かなかった。
「という訳で、健一は今日みんなの願いを一つずつ聞くのよ」
「だからなんでそうなる。なあ、真悟」
健一は真悟に助けを求めた。
しかし、真悟の返事は健一の求めたものではなかった。
「それいいな」
今度は楓に助けを求めようとして目線を送ったが、楓もまた真悟と同意見だった。
「私もいいと思います」
彩芽はもう聞くまでもなく、みんなの話に交じって賛成派だった。
「私は兄サンにどんなことをお願いしようかなあ~」
こんな独り言を言っていた。
みんなの考えは膨らんでいった。
「あのー、俺がみんなの願いを聞くなんてまだ一言も言ってないんだけど……」
「あら、いいじゃない。願いの一つや二つ」
「そうだぞ健一、それに元々みんなを手玉に取ったお前が悪い」
もう健一の意見なんてみんなには効かなかった。
いわゆるピンチだった。考えた。
そして、健一は抜け出す方法はないと悟って観念した。
「わかったよ! けど、おごりとかはナシだからな」
けど、抑える処はしっかり抑えた。これだけでも金銭面でのピンチを乗り切ったといえよう。
そこにアナウンスが流れた。
ピンポンパンポーン
『この電車は間もなく到着いたします。お降りの方はお忘れ物のないようお気を付けください』
「よし、みんな降りようか」
五人は電車を降りた。
次からは遊園地の話になります。
遊園地……多分もういくことはないと思う遊園地。
どんなものだったか思い出します。ちなみに絶叫系は嫌いです。想像しただけでも
ガタガタブルブル