第16話 集合は5分前に心がけて
今回は短めです。
が、どうぞ!
店を出た三人は辺りを警戒した。
「健一、私があんたの分まで知り合いがいるか見てあげるから合図したら一気に出るのよ」
「俺は見なくていいのか?」
「慣れてない健一が見るよりも、慣れてる私が見た方がいいでしょ。さいわい辰幻高校の二年生だったら判別できるし」
「二年生全員の顔が判るなんてすごい記憶力だな」
鏡子のこの言葉に感心した。
「この記憶力を勉強にいかせればいいのに……」
「余計なお世話よ!」
路地の角まで来ると彩芽と鏡子は確認を始めた。
その確認の仕方は無駄がなくそして素早かった。
まさに店に通っているベテランの動きだった。
「私は大丈夫だったよ。鏡子ちゃん」
「私の方も……大丈夫」
「じゃあ、いくよ! 1、2、3!」
路地から三人が一気に出た。
彩芽と鏡子はすぐ通行人と溶け込んだ。
しかし、健一はどこかぎこちなかった。
「よくあんなこと毎回できるな。二人とも嫌にならないのか?」
「私はもう慣れたから」
「私も、それにちょっとスリルがあるじゃない」
鏡子が楽しそうに言った。
「それにしてもやっとあの店から出た気がしたよ」
健一は緊張の糸を緩めていた。
「なあ彩芽、そういえば今日あの店に行くのだったら、昨日俺が行かなくてもよかったんじゃないか?」
「それは違うよ兄サン。昨日は昨日で欲しい物があったし、今日は今日で欲しい物があったの」
「野江もそうなのか?」
「当然よ!」
当然のように鏡子は答えた。
「そういえばさっき彩芽ちゃんが眺めてたグッズ、あれのアニメ今日あるよね」
「あ、そうだった! あれ見たいのに遊園地に行ってたら見れないよ。どうしよう! 鏡子ちゃんはあれ見てないの?」
「私も見てるよ」
「じゃあ、今日のは諦めるの?」
「ふっ、ふっ、ふ。大丈夫よ。私、毎週録画してるから」
鏡子は自信たっぷりに言った。
それを嬉しそうに、そして尊敬のまなざしで彩芽は見ていた。
「すっごーい! さすが鏡子ちゃん! じゃあ、また見たら貸してね」
「うん。いいよ」
鏡子の返事を聞いた彩芽はよりいっそう嬉しそうな顔をした。
「けど、毎回見てるのに録る意味なんてあるのか?」
「だから健一あんたは甘いのよ。ほんと、角砂糖より甘いわよ」
健一の疑問なんか鏡子はあっさりダメだしをした。
「いい! ドラマの最終回とかは何回も見たいから録る人っているじゃない」
「まあ、最終回ぐらいだったら……」
「それと同じよ。だから毎週録ってるのよ」
健一は納得できるような納得できないようで、まだ色々と納得できない部分もあったけど、これ以上は聞かないことにした。これ以上聞いていると本当に待ち合わせに間に合いそうになかったからである。
「二人とも、十時半に集合だからそろそろ急ぐよ」
「え、そうだったの? そういうことは早く言いなさいよ!」
「ゴメン、野江に言うの忘れてた」
「それで集合場所ってどこなのよ?」
この鏡子の問いかけに健一は言いづらそうだった。
「駅…なんだ」
「駅って言ったら、もう今からじゃほんとギリギリじゃない!」
「だから走るよ」
三人は走り出した。
「そういや彩芽は知ってたんだろ? なんで言ってくれなかったんだ?」
走りながら彩芽に訊いてみた。
「私は、兄サンがゆっくりしてるから大丈夫かなと思って」
「結局、健一が悪いのよ!」
鏡子が無理やりまとめた。
言いたいことはいっぱいあったが、ここは黙って駅に向かって走ることにした。