第10話 秘密の共有は仲が良い証拠
今回は鏡子と彩芽の二人の会話です
それではどうぞ!
学校から遠くもなく、近くもない住宅街にその家があった。
周りには特にこれといった物が無く、住宅が並んでいるだけだった。
その住宅の中の一つに健一の家があった。
そこには、荷物を持った鏡子が立っていた。
「確かこの家って言ってたわね」
鏡子は一息入れると、早速行動に出た。
「さて、健一の妹がどんな子なのか拝ませてもらうわよ」
鏡子はドキドキしながら玄関のインターホンを押した。
「は~い。今でますー」
家の中からでも聞こえたその声は、勢い良く玄関を開けた。
「お帰り兄サ……じゃない。あ、あなたは!」
鏡子が見た人物は予想外だったので驚いた。それと同様に相手も同じ反応だった。
「あ、彩芽ちゃん? な、なんで健一の家にいるのよ!」
彩芽はキョトンとした顔で、当たり前の様に答えた。
「なんでって、ここ私の家だから」
「じゃあ、彩芽ちゃんが健一の妹なの?」
「そうだけど、鏡子ちゃんは何しにここに来たの?」
「私は、健一にこれを届けるように頼まれたのよ」
鏡子は預かった荷物を彩芽に差し出した。
「あ、これ兄サンに頼んだ物だ。え? でもどうして鏡子ちゃんが?」
まだ状況がいまいち掴めていない彩芽に鏡子が説明しだした。
「今日、私もあの店に行ったのよ。そこで健一に偶然に会っちゃって、私があの店に行っていることがばれたのよ。それで黙っていてくれる約束をして、店を後にしたんだけど健一は、なんだかその後用事があるって言って、私に荷物を届けるように頼んだって訳なのよ」
「え、ってことは、兄サンとは知り合いなの?」
「知らないの? 私も辰幻高校に通っていて、去年健一とも一緒のクラスだったのよ」
ここで彩芽はようやく今の状況が理解できた。
「そうだったの」
「健一からは、何も聞いてなかったの?」
「そんなことないよ。兄サンからは、そんな子がクラスに居るっていうのは聞いてたんだけど、名前はまでは聞いてなくて……」
「そうなの。……じゃあ荷物も届けたし、そろそろ私は帰ることにするよ」
「待って、せっかく届けてくれたんだから、少し上がって中でお茶でもしようよ」
「う~ん、じゃあちょっとだけ上がろうかな」
こうして鏡子は家の中に入った。
「おじゃましま~す」
「部屋は上がって二階だから」
「へぇ~、ここが彩芽ちゃんの部屋ね。ってことはあの部屋は……」
「兄サンの部屋だよ」
「ふ~ん」
健一の部屋のドアを横目でチラチラ見ていた。
「鏡子ちゃん、兄サンの部屋見てみる?」
鏡子の心境を知ってか知らずか訊いてきた。
「べ、別にいいよ。こういうのは本人がいない時に見るのはちょっと……それに、私はあいつのことなんてなんとも思ってないから。まあ、あいつがデートとかに誘ってきたら行ってやらなくはないけど。その時は健一のおごりだけど。心配しないでもちろん彩芽ちゃんにはお土産買って来るから……」
鏡子の妄想話は膨らんでいった。
しかし、その横には彩芽の姿はなかった。
「鏡子ちゃん、早く私の部屋に入りなよ」
部屋の中からの彩芽の言葉で、鏡子は現実へと引き戻された。
鏡子は部屋の中に入ると、全体を見渡した。
キラキラキラキラ
そんな音が聞こえてくるかのように、鏡子は目を輝かせた。
「すっごーい。これ全部彩芽ちゃんのなの。あれ? こ、これは私も欲しかったけど、初回限定で手に入らなかった『町中の忍』のDVDとポスターじゃないの!」
「よかったら貸してあげるよ。でも、それの初回版のCDだけは手に入らなかったんだよね」
「そのCDなら私、持っているわよ」
「え、ほんと? なら、今度CD貸して」
「いいわよ。けど、よくDVDとポスターの両方が手に入ったわね」
「兄サンが手伝ってくれたから」
「やっぱり協力者がいたら買い物しやすいのね」
ここで鏡子はよからぬことを考えだした。
「私も今度健一に手伝ってもらおうかしら」
「ダメだよ。兄サンは、私を手伝うんだから」
「じゃあ、それ以外の時は良いでしょ」
「それならいいよ」
健一がいないところで二人は勝手に話を進めていた。
「けど、こんなにグッズがあると他の人が来た時、隠すの大変でしょ」
「ううん、そんなことないよ。その時は、グッズ全部兄サンの部屋にしまうから大丈夫なんだよ」
「よくそんな頼みまで聞いてくれるわね」
「うん。だって兄サンは優しいもん。今頃、何してるんだろう」
健一の苦労も知らないまま、二人の話は盛り上がっていった。