8 キンキン、だ……
(2)
西京太郎は、離席して、デッキへと移動していた。
ドアの窓ガラスからは、曇天の合間の晴れ間か、白く雪化粧のかかった富士山が見えていた。
それを見て、
「う~ん、これは、よく見えるねぇ……」
西京が、感嘆の言葉をあげた。
ただ、同時に、
「ん、ん――?」
と、西京は、“あること”に気がついた。
ちょうど、少し隔てた隣のドアのほうに、奇しくも、例のロシア帽の男の姿があったのだ。
ロシア帽の男も、
「……」
と、静かに、富士山のほうを見ているようだった。
西京は、
「(む、う……)」
と、なるべく気づかれないように、チラリ――と、男を観察する。
手には、相変わらず17アイス。
(しかも、ティラミスと、ソーダか……)
と、西京は、その組み合わせに驚く。
さらにいえば、先ほどの、熱海からは暫く時間は経ってないか?
そうすると、多少は溶けているはずなのだが……、チラリーーと見るに、
「(キンキン、だ……)」
と、確かに、今しがた強力な冷凍庫から取り出したかのように、17のアイスはキンキンだった。
「(う~む……?)」
西京は、疑問に思う。
これは、熱海駅を出たあとで、またどこかで買ったのだろうか――?
あるいは、ワンチャン、キャリーケースの中に、アイスがあるのでは?
冷気を操ることができると思われる、彼らのことだ。
それくらいは、やってのけるだろう。
そのように、思考を巡らせていた。
その時、
――ピ、ィィン――
「(ハッ――!?)」
と、こちらの視線が気づかれたのだろうか? 西京は、“あちら”からも飛んできた視線に反応する。
「あっ……」
思わず声が出ながらも、ゆるりと……、少しだけチラ見する。
「……」
無言の西京。
その、数メートル先、
「……」
と、ロシア帽の男と、もしかすると目が合ったように思えた。
覗くブロンドの髪に、白い肌。
雰囲気は、北欧の“それ”に見える。
ただ、どこかチャラけた、陽気そうな空気感をまといながらも、その青く氷のような目は冷たいという、謎の雰囲気が漂っていた。
そのように、確認しながらも、
――フッ……
と、西京は、目を逸らした。
「……」
無言のまま、
――くる、り……
と、背を向け、その場をあとにした。
とりあえず、別の号車のデッキに行くとする。
このまま、近くには、居ないほうがいい予感がしたからだ。
まあ、そもそも、これからする電話の、会話を聞かれても困る。
それが調査対象であろうと、一般人であろうと、調査に関する会話を聞かれるのはNGだ。
――そうして、西京は揺れる新幹線の真ん中の通路を通って、別の号車へと移動する。
「(二両分くらい、離れたほうが良いか――)」
念のため、すこし余計に移動しておく。
車内は、座席は半分くらいは埋まっているだろうか。
途中、車内を警備している、アラフォーくらいの警察の男に会う。
「(お疲れ様です)」
西京が、声を抑えて挨拶し、
「(あ、あ……、お疲れ様です)」
と、警察の男は、遅れて気づいた。
やや草臥れて、そこまでやる気がないようにも見える。
まあ、異界人――、冷界人などというものを調査してくれという話であり、仕方がないだろう。
「(どう、ですか……?)」
西京が、いちおう聞く。
「はぁ、そう、ですねぇ……? 特に、これといって、変わったことはないですけど……」
警察の男が答えつつ、
「ああ……? そう、いえば……?」
「う、ん」
「ちょっと、気のせいかもしれませんが……、何か、アイスを、しょっちゅう、食べているような気がしましたね」
「そう、ですか……」
と、やはり、アイスのことには気づいているようだった。
また、警察の男が聞く。
「その……? 本当に、異界人なんですか……? あの、カップルは?」
「うん。これは、わりと、可能性はあるね」
と、西京が、そう答えながら、
「まあ、彼らが、何かコトを起こす可能性があるというのも……、“僕たち”の、取り越し苦労だと思うけんだけどね。とりあえず、このまま新大阪駅に着くまで、協力をお願いしたい」
「はぁ……、分かり、ました」
と、改めて頼んだ。
警察の男との話は終わり、西京は移動する。
ふたたび、デッキに立つ。
――ゴォォォ……
と、静かながらも、高速で走り続ける新幹線。
「……」
車窓を見るに、まだ、富士山は見えていた。
しかし、
「また、雪か……」
と、再度、雪がぱらつき始めてきた。
そうしながらも、
「……」
と、西京はチラチラと、辺りを見回す。
念のため、アベックたちや、他の乗客がいないことを確認してスマホを手に取った。
そうして、西京は、丸の内にいる松本清水子に電話をかけた。




