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7 実は、この東海道新幹線ていうのはね、乗っててね、富士山が見えるとね、ちょっと得した気分になるんだ




          (1)




 午後、2時過ぎ―― 


 熱海駅を出て、新幹線こだま317号は、走り続ける。

 西京太郎と瑠璃光寺玉のふたりは、アベックたちのほうに注意を払いながらも、車窓を見つつ、他の乗客に溶け込むかっこうで調査を続けていた。

「――とりあえず、熱海では、何もなさそうでしたよね」

 瑠璃光寺が、振り返って言う。

「う~ん、そうだ、ねぇ……? その、冷界人の彼ら、アベックたちの立場に立てば、たぶん、熱海は、少し微妙なんだろうね」

「微妙――、ですか?」

「まあ、何となく、なんだけどね、」

 と、「何となくかよ」とつっこみたくなる西京の受け答えだが、続けて、


「まあ、大半が、『もしも――』の、仮定の、想像の話の範疇を出ないんだけどね……、その、冷界のエージェントであるアベックたちが、今回、もしくは今後に、何らかの工作活動を、“コト”を起こすと仮定する――」

「は、い」

「“それ”は、小規模なテロのレベルかもしれないし……、もしかすると、軍事的な、作戦の規模もあり得るとする――」

「軍事、作戦、ですか……」

 と、いっきに規模がデカくなる仮定に、瑠璃光寺がやや驚いてみせる。

「まあ、これまでも……、邪神や、それに準ずる相手が、そのような事件を起こしてきたじゃないか」

「まあ、確かに」 

 振り返るに、西京たちの所属する特別調査課であるが、邪神や陰謀論に出てくるような組織を相手とした調査というのも、これまでに幾度も行ってきた。

 その中には、大規模なカタストロフィを招くような事案も、無くもなかった。


 また、西京が続けて、

「それで、ね――」

「はい」

「もし、そのような規模の“コト”を、彼らは起こそうと考えているとすれば――」

「……」

「それは、東海道新幹線の、終点の新大阪までの間では……、いったい? どこなんだろうね?」

 と、問いを投げかけた。

「コトを起こす場所、ですか……」

 瑠璃光寺が、確認するように復唱した。


 その瑠璃光寺が、

「と、いうか……、そしたら? 何で? 彼らは、東京を、狙わないんですかね?」

「さ、あ……」

「もし、この日本の中で狙うとしたら、東京じゃ、ないんですかね?」

「まあ、そう、だねぇ……? 東京だと、守りが堅そうだしってのもあるのかなぁ……」

「まあ、守りは、堅いかもしれませんけど」

「それか、ワンチャン、今こうやって、僕たちが追跡しているアベックたちっていうのが、実は陽動作戦で……、本丸は東京の可能性も、あるかもしれないのかな?」

「え? そうだとすると、マズくないですか?」

「まあ、もしものもしも――、だよ。まあ、もし、その場合は、松もっちゃんたちに頑張ってもらうしかないね」

「それも、そうですね」

 と、丸投げするように言う西京に、瑠璃光寺も丸投げする気満々で同意する。


 またここで、

「それか、“そこまで”来れば、キツ――、タヌキさんのね? 力を借りるかもね」

「ああ、そう言えば。タヌキさん、いますもんね」

 とここで、ふたりは、妖狐の神楽坂文のことを思い出した。

 なお、本来はタヌキが間違えで、キツネと訂正してやるべきところを、キツネからタヌキと逆に訂正してタヌキ呼ばわりするという。

「そうだね、タヌキさんがいるから、最悪、妖力か、何か良い妖具でも貸してくれたり、何とかしてもらえるからね」

「ですよね。そう思うと、ドラえもんみたいなナニカですよね」

「うん。そうだね」

 と、ふたりは、妖狐のことをタヌキ呼ばわりしつつ、ドラえもん扱いする。


 そのように話しつつ、新幹線、こだま317号は山々を抜け、雪の舞う茶畑を駆け抜ける。

 そこで、

「う、ん――? そうだ」

 ふと、西京が、何かを思い出し、

「ん? どうしま、した?」

「ちょっと、電話してくるよ」

「あっ、はい」

 と、席から立ち上がった。

「ついでに、いま、雲も少し晴れているからね。富士山を、見てこようと思ってね」

「あっ、確かに、見えそうですね」

「だよね。実は、この東海道新幹線ていうのはね、乗っててね、富士山が見えるとね、ちょっと得した気分になるんだ」

「ですよね」

 何が「実は」なのか、何が「ですよね」なのか、西京と瑠璃光寺は言葉を交わしながらも、西京はデッキへと向かった。

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