6 うん。取り急ぎ、ルビィちゃんが好きとかいう、チョコミントを頼むよ
また、少しの間をはさんで、
「それ、とも……? これから、その、工作活動をしようとする場所を、どこにするべきか――? こだま号で、ゆっくり調べようとしている、とか……?」
ふと、瑠璃光寺が思いついたように言った。
それを聞いて、
「……」
西京が、しばし、ピタリ……と沈黙する。
「たろ、さん……?」
瑠璃光寺が、声をかけると、
「ふ、む……、そう、だねぇ……? その可能性も、いちおう、考えておこうか」
「い、いえ……、そんな、軽い気持ちで、言っただけですけど」
「いや、いいじゃないか。何事も、いろいろな可能性をね、考えておいたほうがいい」
「そう、ですか……?」
「だって? もし、彼ら、冷界人――だったかい? ――が、この日本のどこかで工作活動しようとしているけど、“まだ、場所を決めておらず、どこにするべきか迷っている”っていうパターンも、あり得るかもしれないじゃないか」
「はぁ、」
「そうすると、ね? こんな、こだま号なんかで調べるってのは、ゆっくりと調べるには、いいかもしれないんだ」
「まあ、それはそうですね」
と、瑠璃光寺は同意しながら、
「でも、何って、言うんでしょうか? そんな、悠長というか……、もし、あのふたりが、冷界――でしたよね? ――の、エージェントや工作員だとすると、こちらの世界に来る前に、どこを破壊工作で攻撃するかっていうのは、ある程度、決めているはずですよね? まさか、そんな、ノープランな、」
「まあ、ノープランな可能性も、あるかもよ。それこそ、旅行ついでに、調査して――」
「旅行ついでに、ですか……」
「それで、旅行ついでに、思いついて、破壊工作を実行する――、なんてことも、ね……」
「……」
と、西京の言葉に、瑠璃光寺は沈黙した。
そうしているうちに、こだま317号は、熱海駅に着く。
チラリ――と、アベックのほうを見るに、
「あっ? あのふたり、降りるみたいですよ」
「む、む――?」
瑠璃光寺が気づいて、西京が目を細める。
「そうすると、この、熱海で、降りるわけか?」
「い、え……、何か、荷物は、席に置いたまま、みたいですね」
「う、む……」
西京は頷きながら、チラッ……と、腕時計を見て、
「出発まで、10分ほどある、か……」
「です、ね」
と、瑠璃光寺も、発車時刻と照らし合わせて確認すると、
「僕らも、コーヒーでも買うふりして、少し、追ってみようか」
「は、はい」
と、西京と瑠璃光寺のふたりも、ホームのほうに降りることにした。
(3)
そうして、熱海駅のホームにて――
「うっ、さっむ――!」
瑠璃光寺が、思わず声をあげ、
「うん、これは、寒いね」
と、西京が答えた。
確かに、
――ヒュォォッー……
と、少し風がホームを通り抜けつつ、雪がぱらついていた。
また、同じホームの、少し離れたほうにはアベックたちの姿があった。
そして、
「あっ――! 太郎さん、また、アイスが……!」
「む――!」
と、ふたりが注目した先――
17の自販機で買ったのだろうか? やはり、ロシア帽の男は、アイスを大量に持っていた。
「3つ、もしかすると、5つ、持ってるかもしれないです……!」
「何、と……」
と、瑠璃光寺と西京は、少し驚愕する。
まあ、人がアイスを3つ持ってようが、5つ持ってようがいいだろうという話だが……
ただ、相手が、異界の――、冷界というべき異世界から来たと思しき存在である以上、そのようなことにも、注意を払うべきなのだろう。
そうして、アベックのほうをみていると、
「う、む……?」
と、西京は、ロシア帽の男のほうが、
――チラリ……
と、こちらを、一瞥したようにも見えた。
それには、瑠璃光寺も気づいており、
「気づかれ、ましたかね……?」
「さ、あ……」
と、ふたりは、そこは曖昧にしておく。
まあ、気づかれないに越したことはないのだが、もし、終点の新大阪まで行くとしたら、4時間ほどと長い間、それなりに近くで観察するわけである。
ゆえに、どこかで、何か違和感を感じられたりする可能性はあるかもしれない。
そうしながら、
「しかし……、やはり、アイスか……」
と、何が「やはり」なのか、西京がつぶやいた、
「見てたら、食べたくなりましたね」
「確かに、そうだね」
「冬のほうが、むしろ、アイスを食べたくなるって、本当なんですね」
「みたい、だね。それに、外が寒いからね、コンビニとかで買って帰るにしても、溶けずに、ベストな温度で家まで持ってけて、そのまま、食べれるのは最高だよね」
「あっ、それ、分かります」
などと、ふたりは話す。
そこへ、
――キィィン……!!
と、新幹線が接近する音が聞こえ、
――ゴゴゴゴゴォ――!!
と、のぞみかひかりか、大きな走行音を立てながら、高速で駅を通過していった。
その、余韻のように、
――ファ、サァァッ……
と、雪煙が舞う。
それに、自然に、見入りながら、
「とりあえず、彼らと、入れ替わりで買おうかな」
「ええ。私、買ってきますよ」
「うん。取り急ぎ、ルビィちゃんが好きとかいう、チョコミントを頼むよ」