53 刑事ドラマでいえば、犯人が動機を語るシーン
「ふむ? いいの、か……? そんな簡単に?」
掌のミニ太陽をすこし小さくしてやりながら、妖狐が聞くと、
「うんッ!! いいよぉー!! だって、今回のは、演習みたいなものだからね、」
「【演習みたいなもの】、とな――?」
と、ジェラート大佐の答えに、キツネ耳をピクリ――、とさせた。
続けて、
「うん。さすがに、東京まで進軍しないって――、占領しないって」
「……?」
「その……、僕たちの仕事は、さぁ? まあ、スパイみたいなこともしてるから、さ?」
「それで、何処から東京を攻めるのがいいか――? 調査していた、というわけか?」
「うん♪ そっ、そ♪ まあ、わざわざ……、東京から新幹線に乗る必要はあったのか――? って、話になるけど」
ジェラート大佐は、平素のヘラヘラ顔に戻りながらも、鬱陶しくも手をワシャワシャさせる。
「――で? 何ゆえ? 【そのようなこと】、を?」
妖狐が問う。
同時に、
――ジュッ……
とここで、ミニ太陽を、完全に消してやりながら。
それを合図にして、
「さ、あ……?」
と、ジェラート大佐は、タバコでも吸うかのように、【17】アイスを取り出した。
「さあ――、とは……?」
妖狐が、聞き返すと、
「いや、ねぇ~……、僕らの、【女王】は、気まぐれだからねぇ」
「【女王】――と、な?」
と、ジェラート大佐の口から新たに出てきた、【女王】とのワードに反応した。
「うん。こっちの世界でも、さぁ? 女王ってのがいる国、あるじゃん? それと、同じなのかな――? 僕たちの世界も、女王が、治めていてね」
「ほう……、それで? その女王というのが、こっちの世界を、侵略したいというわけか?」
「い、いやいやっ! そんな、侵略なんて、」
と、ジェラート大佐は、ふたたびヘラヘラ顔で手をワシャワシャTPさせながら、
「何か、冬だからかな? こっちの世界の、氷漬けになった、大都市が見てみたいとか、言いだしちゃってさ」
「それが、東京か?」
「そっ、そ♪ 氷漬けになった東京の街を、夜景を、眺めてみたいって言っててさ♪」
「はぅ、」
「え? 何だい? その、気の抜けた相づち?」
と、確かに気の抜けた、屁みたいな相づちする妖狐に、ジェラート大佐はつっこんだ。
気を取りなおして、妖狐が問う。
「――で? そのための、今回の貴様たちの行動か? わざわざ、【こだま号】なんかに乗って……、【こんなところ】まで来て、こんなことをしたのは?」
「うん。そうだよ♪ まあ、別に、今回、東京まで氷漬けにするわけじゃなくて、さ? もし、今後、それを行うとしたときのための調査だよ」
「今回でなくて、今後、だと?」
「まあ、流石に……、何の調査情報もない状態で、いきなり、東京を直接攻めるのは難しくてね……。それに、あくまで、強い寒気と大雪が降るって条件がないと、冷界人の僕らは、そんな、軍事的にも動けないしね」
ジェラート大佐は答えながら、
「それに――、もし、【君みたいなの】が出てきた場合に、どうするのか――? 予め、演習しておくのとそうでないのじゃ、全然違うからね」
「ふむ。【それ】が……、今回、分かったということか?」
「そっ、そっ、」
ジェラート大佐は、フランクに返事しながら
「――だから、これで、【演習】は終わり♪」
と、ニッコリ――♪ と、微笑とともに告げた。
聞いて、
「は、ぁ……」
と、妖狐ですら呆気に取られて、ポカン……とした。
そのように、「やれやれ」と、妖狐は呆れつつも、続きの話をしようとした。
しかし、その時
――ぽ、たっ……
――ぽ、たっ……
と、白い雪面が、赤く滴った。
「お、や――?」
目ざとく、ジェラート大佐が“それ”に気がつき、
「……」
と、ムカイも、そちらのほうを見た。
ふたりの、見た先――
妖狐の、神楽坂文の口から、ポタ、ポタ……と、美しくも【赤い血】が、垂れていた。
【それ】が、【垂れ】落ちるなり、
――ニョ、キッ……
と、これも妖力、妖術なのか――? 赤く垂れた血が、雪化粧されて趣のある生垣の花――、【山茶花】へと、変化していた。
「それは、血――、かい?」
ジェラート大佐が、聞いた。
「ああ……、そうだ」
妖狐が、ゆるり……と、答える。
その表情は、凛としながらも、どこか大きなダメージを隠している時の“それ”にも見えつつ……
「……」
と、“それ”を察したのか――? ジェラート大佐の微笑が、
――ニ、コリ……
と、ふたたび、冷酷にちかい冷たさを帯びる。
妖狐も“それ”を察し、話す。
「ふ、む……。この、我が妖力というのは、なかなかに、【弱体化】していてな――」
「ああ? それで、血が出ちゃったんだ? 綺麗だね♪ その、山茶花」
「フン、」
と、相づちする妖狐に、
「もしかすると? 【こっちの世界】に来ちゃうと――、【放っておくと、どんどん弱体化しちゃう設定】の、キャラクターなのかい? 君は?」
と、ジェラート大佐が聞いた。
その問いに、確信を持ちながら。
「ふむ。ま、あ……、そういった、ところだ――」
妖狐が、相変わらず凛として気丈に、そう一言だけ答える。
口からは、まだ、赤い血が滴れていながら……
その妖狐に、ジェラート大佐が、
「じゃ、あ♪ 次は、また【こっち】に来るときは、“アレ”だね♪ 君が、充分に弱ったタイミングを見計らってくる、か――」
「……」
と、朗らかな表情で、続きを聞く妖狐に、
「――もしくは、ちゃんと、君を弱らせるための作戦を――、用意して、来ようかな♪」
と、愉しそうに、ニッコリ笑って言った。
なお、妖狐も、
「――♪」
と、口から血が滴れながらも、微笑で返してやりながら。
そのようにしながら、
「おい? ポンコツ大佐」
と、こんどは、妖狐が呼びかけた。
「う、ん? 何だい?」
返事するジェラート大佐と、
「おい、ポンコツ呼ばわりに答えるのかよ? お前は?」
と、ムカイが冷静な顔でつっこむ中、
「そう言えば、“アイツ”は、いいのか?」
と、妖狐がジェラート大佐に、何か思い出させるように聞いた。
「アイ、ツ……?」
ジェラート大佐は、すこし天を仰ぎながら、
「あっ――!? 忘れてたっ!!」
「ちっ! まったく、おめぇの大事な相方、忘れんなよ!」
と、思い出したジェラート大佐に、ムカイが舌打ちして呆れた。
すなわち、ジェラート大佐の相方こと、黒づくめの秘書の女――、ユキノのことであった。
思い出してすぐに、
「ユキノっ!! ユキノー!!」
ジェラート大佐は、慌てて無線で呼びかけた。
すると、
――ジ、ジッ……
と、すこし時間差で、
『はい、何ですか?』
と、ユキノの声が返ってきた。
その声の様子は、普段の、あまり感情を感じさせない時の“それ”とは違って、何か、熱くなったというか感情の入った感じがしていながら。
その、ユキノの様子を感じ取って、
「ん? 何? 機嫌悪いのかい?」
と、ジェラート大佐が聞くと、
『はい? 別に、機嫌悪くなど、ないですけど』
「あ、あ……」
と、明らかに、すこし機嫌の悪そうな声が返ってきた。
なお、そのユキノであるが、ジェラート大佐から入った無線で手をとめるものの、片手にはバカでか重火器を持ちつつ、先ほどと同じく、シャベルを手にした松本清水子と対峙していた。
そうして、戦闘力は、冷界人であるユキノのほうが上ではあるものの、軍用シャベルを持って鬼神レベルに応戦してくる松本を仕留めれないためか――? 若干、苛立ちが募っているのだろう。
そんなユキノに、
「ユキノ、戻って来てよ」
と、ジェラート大佐が言ったものの、
『はい? これから、【殺す】ところですけど?』
と、【殺す】などと、明らかに感情の入った言葉が返ってきた。
「いや、もういいよ。もう、いいって」
『は、い?』
「だっ、て……!! タヌキさん、来ちゃったんだって!!」
『は、ぁ? タ、ヌキ?』
と、タヌキと聞いて、すぐにピンと来ないユキノに、
「あっ? き、キツネだっ!! キツネ、妖狐が来ちゃったから、帰ろっ!!」
『はい? 妖狐が来たから、帰るのですか?』
「うん!! もう、勝てないから!! 降参しちゃったから、帰るんだって!!」
と、ジェラート大佐は、【妖狐】のことを伝えるも、こちらの緊迫感が伝わらず、少し声を荒げる。
『はぁ……、せっかく、これから完膚なきまでに叩きのめすところ、なんですけど……』
と、松本のほうを見続け、まだバカでか重火器を手にして臨戦態勢のユキノが、すこし不満げにジェラート大佐に答えると、
「わ、わかったって……!! じゃあ、君の勝ちで良いじゃん!! とりまっ、命令すりゅ!! 帰るよっ!!」
と、ジェラート大佐は噛みつつも、ユキノに命令する。
『……』
ひと呼吸、沈黙を挟みながらも、
『はい、分かりました――』
と、ユキノは答え、
――スッ……
と、構えたバカでか重火器を、下ろした。
場面は一瞬、無線の向こうの、ユキノと松本のほうへと変わって――
――――
――
松本清水子は、20メートルほどの距離を隔てて、ユキノと対峙していた。
軍用シャベル一本で、バカでか重火器を手にしたユキノと互角にまで戦っていた。
そうして、ユキノが無線を取ってからも、松本は警戒しつつ、攻撃はしないでいた。
それで、目の前のユキノが、『もう、攻撃の意思はない』との意思表示か――? 例のバカでか重火器を持った手を、だらり……と、下ろしたわけだから、
「なっ……? ち、ちょっと、」
と、思わず声をかけようとした、その時、
『――おい。貴様も、もういいぞ』
と、松本のほうも、妖狐から無線が飛んできた。
「は――? どゆこと?」
『ふむ。目の前のヤツを見たら分かろう? 戦闘停止だ』
「戦闘停止、だって……?」
『ああ……。“ヤツラ”は、ジェラートのヤツは、撤退するだと――』
「はぁ、ぁ?」
と、妖狐の言葉に、松本は、まさに「はぁ?」の顔をした――
――――
――
――また場面は、雪山の上から下へともどる。
そのようにして、妖狐のほうも、松本清水子にも戦闘停止を伝えた。
それを確認してか、
「じゃあね♪ タヌキさん。僕たちは、帰るよ♪」
と、ジェラート大佐が、ヘラヘラしながら言ってきた。
「フン、さっさと帰るのだ、鬱陶しい。それに、キツネだと言っておるだろ? 殺すぞ」
妖狐が、露骨に鬱陶しがる顔で答えると、
「うぅ~っ……、鬱陶しいだって……。みんな、僕にひどいこと言うよなぁ、ムカイ?」
「いや? 実際、鬱陶しいしな」
「もぉ~っ、酷いぃ~……」
などと、ジェラート大佐はムカイにつっこまれながら、
――サ、ァァッ……
と、雪煙の、白色の向こうへと、消えて行ってしまった――
妖狐は、
「……」
と、無言で眺める。
そうして、
…………、…………
と、暫しの、静かな沈黙がただよいながらも、
――ザッ、ザッ、ザッ……
と、足音が聞こえて、これはタイミングが良いのか悪いのか――? 西京太郎と瑠璃光寺玉のふたりが現れた。
「ふ、ふぅ、ふぅ……」
と、一キロメートル弱とはいえ、この雪の中を歩いて来て疲れたのか、西京は少し息が上がった状態で、
「つ、疲れましたぁ……、ハァ、ハァッ……」
と、瑠璃光寺も同様だった。
そんなふたりに、
「フン……、ほんとうに、ゆっくり来おってからに、このパパ活コンビ」
と、妖狐が、パパ活コンビ呼ばわりして言うと、
「す、すみません……。ゆっくり、来ちゃいました」
「そ、それに……、雪で、歩くのも大変だったんです」
と、ふたりは詫びつつ、
「まったく、刑事ドラマでいえば、犯人が動機を語るシーンだったというに、」
「――と、言いますと?」
と、西京が聞くと、
「ふむ。終わったぞ――」
「終わった――、ですか?」
「え――?」
と、妖狐の答えに、ふたりは聞き返す。
「だから、終わったと言っておろう。ジェラート大佐のヤツは、撤退した」
と、ふたたび答える妖狐に、
「な、何ですと……?」
「え? えぇ――!?」
と、ふたりは、思わず驚いた。
「ふむ。まあ、詳しい話はあとだ――」
妖狐の言葉に、
「「は、はい……」」
と、ふたりは答えつつ、肩をなでおろした。
そうしながらも、見た先――
――サ、ァァッ……
と、吹雪が止み、視界が晴れてきた。
そうして、雪が積もりに積もった、関ケ原の新幹線線路が見えてくる。
「ふぅ……、帰れるまで、ちょっと、大変かもね……」
西京が言って、
「そう、ですね……」
瑠璃光寺は答える。
事件後の、現地調査など、諸々のことを想像して億劫になりながらも、
「帰りは、アレですかね?」
「うん、そうだね……? 帰りは、また、【琵琶湖の水止めたろか弁当】にしようかな――」
(終了)




