5 ――うん! おいしい!
(2)
円形の、トンネルの出入り口――
半世紀以上前の、新幹線開通という偉業を感じさせて佇む、コンクリート土木建築物。
そこへ、
――ポ、ワァン……、ポ、ワァン……、
と、列車接近の警報音が鳴り響く。
単調な電子音であれど、これから時速200kmを超えて走行する列車が接近するという、得も言われぬ緊張感が漂う。
――カタ、カタ……、カタ、カタ……!
と、レールを伝う振動音が聞こえてくるや、次第に大きくなる。
そして、
――ドーンッ――!!
と、いわゆるトンネル・ドンと呼ばれる現象か――!! 大きな音がするとともに新幹線がトンネル出口から顔を出し!!
――ヒュン、ヒュン、ヒュンヒュン――!!
と、車両が駆け抜ける!!
そんな、さながら鉄道ミステリものドラマのワンシーンのような場面。
そこから、打って代わること――
――――
――
「――うん! おいしい!」
とは、新幹線の、【こだま317号】の車内のこと――
西京太郎は、何のひねりも無い素朴な感想を口にしつつ、駅弁を食っていた。
なお、車窓からは、海が見える。
冬の、曇天気味の空とはいえ、解放感のある眺めではある。
「やっぱりね、東京で駅弁を買って、熱海の辺りから、駅弁を食べるっていうのが、美味しいよね」
西京が言う。
まあ、どこから食っても、美味いもんは美味いだろうが――という話だが。
「そうですよね。これで、お酒でも飲めたら、いいんですけどね」
瑠璃光寺が答える。
箸の先でつまむ、焼きモロコだったり、琵琶湖の郷土料理を見ると、自然と酒が飲みたくなってくるのだろう。
「そう、それができないのが、残念だよね」
「いちおう、仕事ですもんね」
そのように、ふたりは弁当を食いながらも、7、8列ぶんほど先の席には、例の【アベック】――、カラフルでメルヘンなロシア帽の男と、黒づくめの女の姿があった。
西京と瑠璃光寺のふたりは、なるべく気づかれずに、彼らを観察、調査しているわけである。
なお、車掌や、列車内警備、それから鉄道警察にも、今回の件については伝えてある。
そうして、弁当を食べ終えて、
「しかし、彼らが……、何て、呼べばいいんだろうね? 極寒の、異界の」
ふと、西京が、アベックをどのように呼ぶべきか、気になった。
「【冷界】って、呼び方、どうでしょうか? 【冷界人】、みたいな感じですかね?」
「うん。それ、いいね」
と、瑠璃光寺の提案で、アベックが来た異界を【冷界】と、暫定的に呼ぶ異にした。
また続けて、
「しかし、そうすると……、その、冷界のエージェントであろう彼らは、いったい? 何を、しに来たんだろうか?」
と、西京が自答ぎみに、瑠璃光寺に問いを投げかけた。
まあ、これは、今回の核心となる疑問だろう。
「まさか、の……、旅行……、とか?」
半分、冗談のように答える瑠璃光寺に、
「――であれば、いいんだろうけどね」
と、西京は、少し重たい様子で受け答える。
「エージェント、諜報員――」
「……」
考えるような西京の独りごとを、瑠璃光寺は聞く。
「何か、調べているのか……? この、日本の――、こちらの世界の中で」
「……」
「それとも……? もっと具体的に、何か、工作活動でもしようとしているのか?」
「工作活動――、ですか?」
瑠璃光寺が、【工作活動】との物騒な言葉に反応する。
ちなみに、西京たち特別調査課だが、その調査対象として、邪神だったり、秘密結社的な者たちを相手にすることも珍しくない。
ゆえに、人智を超えた、】形状し難い力と動機で以って大規模な破壊・事変を起こそうとするようなケース】というものを扱うことも、少なくもない。
実際に、そのような事件をいくつも調査、解決してきた実績もある。
「もし、何らかの破壊工作だったりすると、だ――」
西京が、ふたたび続ける。
「……」
「冷界人の彼らが、極寒の冷気を司る力をもって……、いったい? 何を、しようというのだろうか?」
「……」
と、瑠璃光寺が、しばし沈黙しながら、
「その……? 冷気を操るっていうと、大雪を降らせたり……、魔法のように、凍らせたりするような力――、ってことですよね……?」
「まあ……、そんな感じ、だろうね」
西京は、答えつつ、
「しかし、もし、そうだとすると……、こんな、こだま号に乗っているのは、何故なんだろうね?」
「う~ん……? 何で、こだまなんでしょうかね……? その、工作活動しようとしている場所が、のぞみやひかりが停まらないんですかね?」
「特急が、停まらない駅かぁ……」
西京が、天井を仰いだ。




