49 「はぁ~い❤」とは、また違ったイントネーションで
人間どうしであれば、間違いなく両者ともに爆発に巻き込まれ、タダでは済まないだろう!!
自爆して、自分を巻き込むつもりなのか――!?
あるいは、単純なハッタリ――、驚かして隙をつくり出すための、偽物の可能性はないか――!?
というよりも、この黒づくめの女は“人間ではない”。
ゆえに、この【手りゅう弾】によってダメージを負うのは、この自分だけであり、黒づくめの女のほうは、何のダメージを負わないという代物なのではないか――!?
松本は、“これらのこと”を一瞬で判断する。
そして、
――カチ、カチッ――!!
と、まさに炸裂しようとする中!!
「ちぃぃッ――!!」
と、松本は後ろに大きく跳躍しながらも、急所を護りつつ防御態勢をとろうとする。
だが、ユキノが“それ”を見逃すはずもなく、
――ジャ、カッ――!!
と、向けた砲口から、
――ド、ォォォンッ――!!!!!
と、無慈悲にも!! 松本に砲撃を撃つ!!
「てっめ――!!」
松本が苛立ちながらも、シャベルに妖力を込める!!
その砲弾だけは、
――カッ、キィィン――!!
と、何とか弾くものの、手りゅう弾のほうへの注意がおろそかになってしまうという!!
「しまっ――!?」
松本が言いかけながらも
――カッ――!!
と、ゼロのコンマ10桁秒の刹那――!!
――バ、ァァンッ――!!!!
と、手りゅう弾は炸裂してしまう!!
やはり、極低温の、氷の花火のような爆発が巻き起こる――!!
松本は巻き込まれ、そのまま、“凍り漬け”になってしまったと思われる。
いっぽう、
「……」
と、ユキノは、
――ファ、サァァッ……
と、爆発地点から雪煙が晴れていくのを、ジッ……と見て、確認していた。
まあ、確認するまでもないが、念のため、敵の――、松本の生死判定をしておくためである。
しかし、
「――?」
と、ユキノが“次に”感じたのは、違和感だった。
“そこ”に無い、2、30メートル先の、“凍り漬けなっているべき”である松本の姿――
だが、眼前の――
それも、ちょうど嫌な距離に!!
――スッ――
と、何とあろうことか――!? イリュージョンでも使ったのか!?
松本が、その姿を現したのだ!!
「なッ――!?」
ユキノが思わず声を出した。
松本は、そもそも回避などしてなかった――!!
松本を彩る、デジタル山茶花のような、美しい魔界植物――
妖狐の妖具を以って、手りゅう弾を防ぐなり、幻術のようにして、一瞬――、その姿を消したのである!!
さらには、手りゅう弾の爆発地点にあったのは、まるで陰陽師が使うような“藁と紙人形”――
それを以って、手りゅう弾に抗う松本の分身の姿を見せさせ……、その間に本物の松本のほうは、シレッと、ユキノの眼前にしのび寄っていたのである!!
そして、
――ジャ、キッ――!!
と、近接した松本はシャベルを構えるや、否や!!
「ふん、ぬッ――!!」
と、容赦なくユキノに向かって“それ”を振るう!!
――ブンッ――!!
と、クリーンヒットする瞬間――!!
「くっ――!!」
ユキノが、思わず少し顔を歪めそうになりながら、瞬時に重火器を構える!!
防御しようとするも、若干間に合わず、
――カーンッ――!!
「ッ――!!」
と、ユキノがダメージを受けながら圧される!!
ただ、圧されながらも後ろへ跳び、その衝撃を逃がす!!
そうして、吹き飛ばされた格好になりながらも、
――ズ、ザザァァッ――!!!
と、足から着雪しながらも、吹き飛んだ勢いから10メートルほど雪上を滑って、その勢いを殺す。
さらにそこへ、
――ブッ、シャァァ――!!!!
と、追い打ちかけるように、ユキノの周りに間欠泉がトラップが噴き出す!!
「――!!」
ユキノが、目を見開いて驚く!!
――ジュ、ワァァッ!!
と、浴びてしまい、
「ぐっ――!!」
と、すこし声が漏れながらも、これも彼女の能力か――!?
――キ、ィィン――!!
と、噴き出る間欠泉を、一瞬で凍りつかせ!!
続けざま、
――パ、リィィンッ――!!
と、砕け散らせながら、“それ”を無効化してみせる!!
そうして、
「……」
と、ユキノは平静な顔で、それほどダメージを負わず、
――ジャ、カッ……
と、また重火器を構え、松本の前に立ちはだかる。
それを見ながらも、
「ああ、もう……、きっつ……!!」
と、松本は、吐き捨てるように言った。
「早く、こっちも何とかしろっての!! あの、タヌキ――!!」
******
場面は変わる。
ふたたび、雪山の上から下へ――
「やります、ねぇ……♪」
と言ったのは、“双眼鏡を持った”ジェラート大佐であった。
もう、ほとんど雪に埋もれた新幹線の上で、ジェラート大佐とムカイは、ユキノと松本清水子との戦闘の経過を見守っていた。
横から、
「いや、何で? わざわざ、【双眼鏡】で見る必要があんだよ」
と、ムカイがつっこんできた。
まあ、傍から見ても、つっこみたいところだろう。
ホワイトアウトするような吹雪の中、さらに、雪山の中腹での戦闘であるから、普通に考えると双眼鏡などで、その様子は見えるはずもない。
「うん♪ これは、雰囲気づけだよ」
「あ、あん? 雰囲気だと?」
答えるジェラート大佐に、軍用のタブレットデバイスらしきものを手にしたムカイが、怪訝な顔して言った。
戦闘の様子は、ドローンと、ユキノが身に着けてあるウェアラブル・カメラで捉えており、軍用デバイスに反映させていた。
それと同じ情報を、わざわざ双眼鏡にも映るようにするという、まったく必要のない小細工をしていたわけである。
「いや、雰囲気は、ムードは大事だよ? 何でも。たがら、女の子にモテないんだよ、ムカイは」
「フン、何を言ってんだ」
ジェラート大佐に、「やれやれ」とムカイは呆れる。
それはさておき、
「ふぅ……、さすが、ユキノと言いたいところ、だけど――」
と、前置きするように言ったジェラート大佐に、
「あの、人間も、な……」
と、ゆるり……と、ムカイが言葉を続けた。
戦闘の経過を観察する中――、当初は、自分たちと同じく冷界人のユキノが、人間に過ぎない松本清水子を圧倒し、早々に凍り漬けにしてしまうかと思いきや、善戦をしているわけである。
「まあ、妖狐の、“何か道具か力”でも使っているんだろうけど……、よく、隙をついたね」
ジェラート大佐が、感心するように言う。
そこへ、
「加勢しなくて……、いいのか?」
と、ムカイが聞いてきた。
ユキノが負けることはないと思いながらも、思った以上の人間・松本の力と、妖狐の妖具・妖力というポテンシャルの見えなさから、念のためにであろう。
「そう、だねぇ……?」
ジェラート大佐は、考える仕草をしながら、
「ちょうど、“彼女”の注意は……、いま、ユキノだけに向いているだろうからねぇ……?」
と、ドローンや砲撃なりで、松本に不意打ちをしてユキノを援護しようと考えるも、
「いや、でも……、“自動的に迎撃するって妖具”――、っていうのかな? 何か、“そんなガジェット”が、あるんだろうな」
との、推察に至る。
「まあ、それでも、何かしとけば、援護にはなるだろう」
ムカイも、ジェラート大佐と同じく、“それ”を察して言う。
「まあ、ね……」
ジェラート大佐が相づちしながら、
「もうすこし……、様子見を、しようかな……?」
「ふ、ん……」
と、ムカイが頷いた。
それと、タイミングを同じくして、
「それに……? そろそろ、“来る”んじゃないかな――?」
と、ジェラート大佐が、“ナニカ”を察したように、振り向かずに言った。
「ああ……」
ムカイも、“それ”は同じであった。
ひと呼吸おいて、
「むぅ――?」
と、ムカイが、【気配】に反応した。
その、ムカイとジェラート大佐の背後から、
「コーン、コン♪」
と、【キツネ】を真似る声がした。
「……!」
ムカイと、
「……」
と、ジェラート大佐が無言ながらも、
――くる、り……
と、振り向く。
――スッ――
そこにあった、姿――
黒のアサシンドレス……ではなくて、流石に雪山の今回は、白の友禅の着物を羽織った、麗しい黒髪に狐耳の、女の【形】をした者――
すなわち、【妖狐】の神楽坂文の姿であった。
「ちっ――!! 妖狐かッ!!」
ムカイが思わず、警戒に声をあげるも
「あっ――!! キツネさぁーん!!」
「ああ”?」
と、ヘラヘラした顔で喜んだように言うジェラート大佐に、「何言ってんだ、こいつ」との、拍子抜けをした顔をする。
すると、
「はぁ~、い」
と、妖狐が、ジェラート大佐の呼びかけに答えた。
なお、「はぁ~い❤」とは、また違ったイントネーションで。
さらにいえば、お決まりのように、【タヌキ】と言い間違えることなく。
その妖狐に、
「ねえねえ♪ キツネ、さぁ~ん♪ 何が、好きィ~?」
と、ふたたび、ジェラート大佐が聞いた。
「ふむ? 何が、とは――?」
妖狐が聞き返すと、
「アイスだよ♪ 【17】の――♪」
と、ニッコリと答えるジェラート大佐の手には、【17】のアイスがあった。




