46 まあ、いまでも、乗れるなら国鉄時代の車両に、乗りたいよね? 少し、遅くてもいいから
(3)
場面は変わって――
また、雪山の下……ではあるものの、こんどは、森の中のこと。
ジェラート大佐の兵隊たちと、そして、ムカイと交戦していた西京と瑠璃光寺のふたりへと、場面は変わる。
「む、ぅ……?」
西京は、次なる襲撃を警戒して眉をひそめながらも、何か、“違和感”を感じていた。
すなわち――
先ほどまで、何とか撃退できていた雪と氷の兵隊たちに加え、彼らの精鋭というべきムカイの登場により、苦戦を強いられていたわけである。
雑兵たちの攻撃の間を縫って、散発的にこちらを狙ってくるムカイが厄介であったのだが、
――シー、ン……
と、森の中は、いったん静まり返っていた。
少なくとも、ふたたびムカイが出てくる気配は、無さそうであった。
そうであるから、
「た、太郎、さん……?」
「う、ん?」
「あの、軍服の――「――いや、アレは、たぶん……、国鉄時代の、制服だね」
などと、途中で、西京が喋るのを被せて遮ったものの、「軍服の男の人、は?」と聞こうとしていたように、瑠璃光寺も、ムカイがいなくなったことに気がついていた。
「国鉄、時代――?」
瑠璃光寺は、【国鉄】との言葉に、一瞬、ハテナマークを浮かべるものの、
「あっ、ああ……!」
と、いちおう、“それ”が何であるのか、ピン――と来た。
すると、
「ちょうど……、いや、もう、僕のちっちゃいころから、国鉄じゃなくってたけどね。まあ、ちっちゃい頃に観た、電車や新幹線のビデオなんかには、国鉄時代のものも、結構あった記憶があるね」
と、西京が、こんなところで思い出す必要があるのか――? 幼いころの記憶とともに、国鉄と、その車両の姿を思い出して喋りはじめた。
「は、はいっ、」
瑠璃光寺が、いちおう返事する。
その、返事をしながらも、
(ち、ちっちゃい頃……?)
と、『ちっちゃい』との言葉が、微妙に気になりつつ……
また、西京が、
「いやぁ、国鉄とは、やっぱり、懐かしいよね。車両も、無骨だけど、個性的な車両ぞろいでね……、おっと――!!」
と、懐かしんで話しながらも、
――ズキュ――、ズキューンッ……!!
と、「おっと――!!」とか言いながらも、ほぼオートマチックかつ無感情な動作で、いつの間にか拳銃を撃っているという――!!
その撃った先、
――ザザッ……
と、残党のように現れた冷界の兵隊たちだったが、それら、2、3体が姿を見せた瞬間に、西京は速射し、殲滅していたわけである。
その様子を、
「……」
と、呆気に取られたように見ながらも、瑠璃光寺も、いちおう拳銃をかまえる。
――ザザッ、ザザッ――!!
と、ふたたび、残党たちが現れる中、
「あの、緑とオレンジの、湘南カラーだったり……、キハの、赤い車両だったりが、好きだったね……。あ、あ……? あと、同じキハでもね、ベージュと赤い色のが、急行とか、特急の――」
「たっ? たろ、さん?」
などと、ふたたび懐かしの鉄道トークをはじめる西京に、瑠璃光寺が、軽く引き気味に動揺し始めるも、
「まあ、いまでも、乗れるなら国鉄時代の車両に、乗りたいよね? 少し、遅くてもいいから」
「いっ、いやっ!? そ、そんなこと喋っている場合じゃ――」
と、西京は喋り続けながらも、
――ズキューンッ!!
――ズキューンッ!!
――ズキューンッ……!!
と、こんどは、「おっと――!!」などと、予備動作的な言葉を発することなく、いっさいの無感情で残党たちに速射を見舞っていた。
登場したばかりの、雪と氷の残党兵たちだが、
――サ、ァァッ……
と、西京の射撃は、ちゃんと命中しており、消滅してしまうという。
その様子を見ながら、
「……」
と、瑠璃光寺は、フリーズしたように沈黙した。
(い、いや……、まあ、撃退できているから……、この際、つっこまなくていいだろう)
と、心の声が云わんかのように、何も言わないことにした。
ついでに、
「……」
と、チラリ……と見つつも、喋りながら無感情で射撃していた西京に、どこか、“サイコに近いナニカ”を感じつつ。
そうして、残党たちの襲撃は止むと、
「こ、これで……、大丈夫ですかね?」
と、念のため、確認する瑠璃光寺に、
「まあ、油断は、できないけどね……」
と、西京が答える。
最後に倒してから、それ以降、確かに残党は現れる気配は無くなっていた。
「その、“国鉄の人”がいなくなってから……、楽になりましたよね?」
また、瑠璃光寺が、振り返りながら聞いた。
「うん。そうだね」
西京が、返事をする。
まあ、文脈を抜きにしてダイレクトに文面だけ受け取ると、『国鉄時代の人間が厄介、老害』みたいな、ナチュラルに毒のある文面だが……
そのように、言葉を交わしながらも、
「――ってことは、もしかして……? 戦況の、変わり目ってところかな?」
と、西京は言いながら、いまの状況を把握する。
すなわち――
残党が姿を見せなくなったということは、全滅した可能性がある。
まあ、この関ケ原全体では、まだまだ残っており……、また、大量の雪から、兵力は再生産できるものの……、少なくとも、今この森近辺の、自分たちを追撃しにきた兵力に関しては、残ってはいないと思われる。
また、ムカイも、どこへ行ったのだろうか――?
姿を見せなくなったきり、ふたたび現れてくる気配は、無い――
これは、どういうこと、だろうか――?
――と、西京が、そこまで思考していると、
「タヌ――、妖狐の、神楽坂さんが原因、ですかね……?」
と、瑠璃光寺が、聞いてきた。
「ま、あ……、“それ”は、あるだろうね……」
西京は、答えながらも、
「ジェラート大佐、だったか――? 僕たちを追撃しようと、あの、“国鉄の男”を遣わしたんだろうけどね? おそらく、タヌ……、キさんが、この現場――、いや、“現場”という言葉には、スケールが大きいけどね」
「まあ、これ、もう……、戦場の、スケールですもんね」
「うん。もし、タヌキさんが“こっち”に――、この関ケ原に、来る可能性があれば、ね? 僕たちの追撃なんかよりも、彼らの大将の――、ジェラート大佐とやらを、守るのが最優先になるだろうね」
「そう、すると……、“国鉄の人”は、新幹線のほうに、戻ったんですかね?」
「たぶん、ね……」
と、ふたりは、ムカイの行動を推察する。
また、
「すると? さっきの、狙撃も……?」
と、瑠璃光寺は、ムカイとの交戦中に、“何者か”がムカイに対して狙撃してきたのを思い出した。
「い、や……? 狙撃、か……?」
西京が、怪訝な顔をする。
狙撃といった、妖力的な要素の無い――、むしろ、自分たちと同じく、“人間的な”攻撃である。
自分たちに対する妖狐の援護であれば、それこそ、新幹線から逃走中に出てきた間欠泉のようなものや……、あるいは、何かオーラが出るとともに、魔法陣的なものが召還されたり、また、魔界植物などが出て来たりといった……、まあ、“魔法モノのようなビジュアル”の攻撃になるはずである。
しかし、さきほどの狙撃は、そのまんまの狙撃であり……、魔法要素のない、至って通常兵器によるものだった。
まあ、妖力による、“何らかのサポート的な力”くらいは、かけられているのかもしれないが。
そのように、考えていたところ、
「――ふむ。“アレ”は、更年期のヤツの、だ」
と、突然に、斜め頭上から声がした。
「――!?」
西京が、まず気がつき、
「あっ――!?」
と、瑠璃光寺も、一瞬遅れて気がついた。
すなわち、彼らが気がついて、見た先――
「「た、タヌキさんッ――!!」」
と、そこには、妖狐の神楽坂文の姿があった。
そうして、妖狐の姿を確認するなり、
「おい、もういい加減にしろ、お前ら。何回も、タヌキでなくてキツネと言っておるだろうが。絶対に、わざとだろ」
と、確かに、もう何度目の“タヌキ呼ばわり”か――? さすがの妖狐も、怒ってきた。
「「あっ――!?」」
ふたりは、ハッ――!? としてみせながらも、
「すっ、すみませんッ――!!」
「すみません、キツネさん」
と、おのおの、妖狐に謝った。




