45 ドラえもんのいる『大長編ドラえもん』と、ドラえもんのいない『大長編ドラえもん』くらいの違いがある
また、ジェラート大佐が、
「まあ、あんだけ……、首都が、廃墟になって、焼け焦げたとはいえ……、まだ、充分な守備力を残していたというからね。それが、“僕ら”に対しての戦いと共通するか分からないけど……、よっぽどの異常気象で、大豪雪にでもならない限り、箱根あたりから、首都を攻め落とす――、地下鉄まで氷漬けにして、23区を壊滅的に雪に埋もれさせる――」
「……」
「――っていうのは、やっぱ、難しいよね」
「だろう、な……」
と、ムカイが相づちした。
ジェラート大佐が続けて、
「――で、いま、関ケ原で試している途中に、さぁ……、これ、もう、妖狐が来ちゃっているからねぇ」
「ああ……。少なくとも、“近くには”、いるだろうな」
と、ムカイとともに、妖狐の存在を確認する。
「少なくとも近くには」と言ったように、姿こそ現さないものの、妖力を遠隔で以って、自分たちを簡単に潰しにかかれるのかもしれない。
「はぁ~っ……」
ジェラート大佐は、ため息まじりに、
「人間たちだけ相手にするんだったら、ほんと、何てことなかったのになぁ……」
「そりゃ、そうだろ」
と、ムカイが答える。
そう、である――
対、異界人――、それも、極低温の力を司る冷界人の自分たちに対して、簡単に対処できる者は少ないだろう。
仮に、自衛隊が動いたとしても、陸上相手であれば、この大豪雪から、こちらの砲弾数、火力――まあ、極低温の砲弾であり、火力という言葉は違和感を感じるが――は圧倒的に勝る。
また、航空戦力を相手にしても、広大な雪雲を操り、それを以って、簡単に無力化撃墜することも可能である。
ゆえに、数千から数万の軍事力を動員しても、自分たちの、岐阜、名古屋への進攻を止めることはできない。
強力な寒気と大豪雪、さらに、それに自分たちの力が相乗的に加わることで、より“それらの力”は増し……、また、自分たちの兵力も倍々に増大していくことになる。
そして、そのまま数日かかるか、もっと短くて一日程度で、関東、東京に迫るだろう。
その目論見を、簡単に崩してくれているのが、いま、西京たちの背後にいる妖狐である。
「まったくぅ~……、この、妖狐が“いる”のと“いない”のじゃ、ドラえもんのいる『大長編ドラえもん』と、ドラえもんのいない『大長編ドラえもん』くらいの違いがあるよねぇ」
「何だよ? ドラえもんのいない『大長編ドラえもん』って。いなけりゃ、もはやドラえもんじゃねぇだろ」
「いや、たまに、あるじゃないか? 途中から、ドラえもんが離脱しちゃって、のび太君とジャイアンで何とかしなきゃいけないハメになる展開、とか」
「あぁ”? 何で、のび太と、ジャイアンなんだよ?」
「いや、いざって時に、力を合わせるんだよ、あのふたり。心の、友達だからね。ムカイと僕も、心の友だよね♪」
と、ジェラート大佐がニッコリして聞くと、
「ちっ、てめぇを友達と思ったことなんざ、一度もねぇぞ」
「あん、ひどぅい~」
と、ムカイに冷たくあしらわれ、変な声を出す。
気を取りなおして、ジェラート大佐が、
「まあ、とりあえず――」
「……?」
と、振り向くムカイに、間を置いて、
「君と僕で……、妖狐が来たら、何とかしよう」
「ま、あ……、そうするしか、ないだろうな」
と、ふたりは一致して、ホワイトアウトする雪原の先を見た――
――――
――
――と、またここで、リアルタイム的に場面は変わる。
こんどは、山の下から上へと――
雪山に、シモヘイヘ・スタイルので潜む女室長、松本清水子へとフォーカスする。
今しがた、
――ザワ、ザワ……
と感じた、何か、第六感にも似た違和感に、
「う、ん――?」
と、松本は反応しながら、身構えた、
何か、嫌な予感がする――
なお、その【予感】というのは、普段から対邪神だったり、怪人、異界人関係の調査を行っている特別調査課の人間であるゆえ、一般人が感じる“何かの予感”よりも、はるかに当たる。
まあ、一般人の、第六感的なものでも、“単にスピって勘違いしている時”もあるのだろうが、以外と当たるものなのかもしれない。
まあ、こればかりは、“現代科学とオカルトとされている事象を橋渡しするようなもの”の発見を待つところであるが……
それは、さておき――
状況を、整理する。
そもそも、狙撃してから数分、10分は経ってないものの、この時間というのは相手にとって、何かの動きを起こすには充分な時間だろう。
長すぎず、短すぎずの、微妙な経過時間――
この間に、何もなければ、こちらが油断してしまう可能性がある。
そして、この油断しかける時というのが、危険である。
「……」
松本は、警戒する。
それと同時に、
『おい、更年期――』
と、無線から妖狐の声がした。
「あぁ”? だから、更年期やめろって。こr――」
松本がキレ芸のように、「殺すぞ」と言いかける、その時、
『――来るぞ』
「ああ……、分かって――」
と、まさに、松本が答えようとするのと同時、
――ザザ、ザザザ……!!
と、もうすぐそこまで!! 脅威は迫っていた――!!
――――
――
――と、ここでまたしても、すこしだけ時間軸はズレながらも、マンガのコマ演出のように場面は変わる。
ジェラート大佐とムカイは、もし妖狐が来た場合、「いっしょに、何とかしよう」ということで、一致していた。
「とりあえず……? 妖狐のヤツが来たら、どうする?」
ムカイが、雪原のほうを見たまま聞いた。
片手には、ジェラート大佐からもらったのか、17アイスをタバコのように持ったまま。
「そう、だねぇ……?」
ジェラート大佐が、天を仰いで考える。
こちらも同じく、先ほどとは別のアイスを手にしながら。
「いったん、進攻の手を止めるか?」
ムカイが聞き、
「うん。さすがに、ね」
ジェラート大佐が、答える。
「まあ、そのうえで……、妖狐ってヤツが、どれだけの力を持っているのか――」
「何か、噂によると、さ? 僕たちの能力が、別の世界で、多かれ少なかれ弱くなるように……、なんか、タヌ――、妖狐? ああっ……! もう、タヌキでいいんじゃないかな?」
「はぁ、」
と、ジェラート大佐は、タヌキを妖狐と訂正するのが、億劫になる。
まあ、間違わなければいいのだが。
また、ジェラート大佐が、
「その、タヌキさんも、さ――? その妖力っていうのは、基本は、弱体化するらしくて、ね。ジャンプの、マンガみたいに、インフレみたいに強くなるんじゃなくて、基本は弱くなる方向で時間の矢が進む、って」
「ほ、う……」
と、ムカイが、チラリ……と、ジェラート大佐のほうを見る、
「――だから、まあ、何とかなる可能性は、あるとしてさ?」
「まあ、それには、あんまり期待しないほうがいいぞ」
「うん。分かってるよ」
ジェラート大佐は、ここは、ヘラヘラするのを抑えながら、
「――で、そのうえで、さぁ? “狙撃してくるの”までいるってのは、さすがに、勘弁だからさ?」
「ああ……、鬱陶しいかもな。そっちは、片付けてもらいたいな」
と、同意するムカイに、
「でしょ――?」
と、ジェラート大佐は、振り向いて言う。
ひと呼吸ほど、間をおいて――
ジェラート大佐は、すこし顔を上げて、
「だから、頼むよ――♪」
と、雪山のほうを向くなり、ハンサムな顔で、ニコリ――と魅力的に微笑して言う。
「ユキノ――、君の力を、魅せてよ――♪」
と――
――――
――
――とここで、ほぼ同時に場面は変わる。
ふたたび、雪山の上のこと――
妖狐と、無線を交わす松本は、
『――来るぞ』
と、妖狐の言葉ののち、
「ああ……、分かって――」
と、そこまで返答の言葉が出かかった――、その刹那――!!
「よッ――!!」
と、松本が発声したと同時!!
――ザッ――!!
と、斜め後ろから現れた黒い影――!!
刹那の瞬間にこちらに向けて構えられる重火器――!!
そしてッ!!
――ド、ォォォンッ――!!!!!
と、松本のすぐ眼前で!! 火ッ――!! ――ではなくダイヤモンドダストのような氷煙が吹く――!!
それを、
――シュッ、タッ――!!
と、松本は、まさしく鬼神というか化け物レベルの反射で回避する!!
すぐ後ろで、
――ゴ、ォォンッ――!!!!
と、砲弾が炸裂し、氷の花火を裂かせる中――!!
「くっ――!!」
と、松本は咄嗟に、スコップを手にして構える!!
その松本の眼前――!!
雪山の、白一色の中、
――ゆ、らぁっ――
と、黒い影が姿を見せる。
「……」
と、冷たい目を向ける黒い影の者――
「う、ん――?」
と、松本はスコップで迎撃態勢をとりながらも、目を見開いた。
対戦車ライフルのごとく――、バカでかい重火器を軽々持ちながら、開眼しながら距離をつめる影の者――!!
すなわち――!!
黒づくめの女ことジェラート大佐の秘書、ユキノが姿であった!!




