44 もっと、微妙な駅から出発して、東北とか、別の方面から攻めたほうが良かった
「ろっ、とぉ……?」
松本は、思わずひとり言が出た。
こんなことを、いま振り返っている場合ではないと、ハッ――と、我に返ったように。
ただ、起きたことを――、そして、今置かれている状況は、整理する必要がある。
先ほどの、ジェラート大佐に対して行った、狙撃のこと――
ほぼ同時に、そして、精密に撃ち返されたということは――? で、ある……
いま現在、先ほど狙撃を行った地点からは少し離れ、遮蔽された場所にいるとはいえ、自分の存在と、おおよその位置というのは、ジェラート大佐と側近の女にバレているわけである。
そこから、次に予想される敵の出方は――?
さらなる、砲撃をしてくるのか?
それとも、彼らの兵隊だったり、軍用動物……、はたまた、ドローンのようなものでも用いて、奇襲してくるのだろうか?
いちおう、それらが来て多対一になったとしても、妖狐の妖力で“浮遊体”――例えるなら、昔のシューティングゲームで、自機の周りにいる、自動的に攻撃と防御を行ってくれるアレをイメージすればいい――を以って、防御、迎撃できなくはない。
しかし、それでも、
「……」
と、松本は無言で、すこし険しい表情になる。
――ザワ、ザワ……、ザワ、ザワ……
と、半ばホワイトアウトする雪山から、“何か”、第六感のように感じるものがありながら――
――――
――
――とここで、場面は変わる。
まるで、マンガのように、ほとんど同時進行的な切り替わりで。
ふたたび、雪山の下のこと、ジェラート大佐へと、フォーカスする。
「はぁ~……。しっかし……、予定が、狂っちゃたなぁ……」
と、ため息まじりに、「まいったなぁ」との顔をしたのは、まさにジェラート大佐であった。
その横、国鉄制服を軍服のように着こなす、向井金太郎ことゴールデン・ムカイが
「まあ、タヌ――、違うか……、“妖狐とやら”が来たからには、仕方ないだろな」
と、ジェラートを宥める。
彼、ムカイも、タヌキと言い間違えながら。
それはさておき、
「まあ、そうなんだけど、さぁ……」
と、ジェラート大佐は肩を落としながらも、
「まさか、来るとは、思ってないじゃん……!! ふ、つうッ!!」
と、先ほどの、大佐としての威厳のある佇まいは、どこへやら――? 嫌になって、半ばヤケクソになった時のような、情けないテンションになってしまう。
「まあ、妖狐ってのが……、何か、こっちの世界の――、人間たちに協力して、調査ごとを行っているっていう情報はあったけど、な? それが、よりによって、“お前の時”に来るとは、運が悪いな、お前も」
ムカイが宥めると、
「だろぉ!!」
と、ジェラートは、「同情してくれ」のリアクションする。
なお、“お前の時”と云うからには、そうでない別の者が、今回のような侵攻を企てることがあるのだろう。
続けて、
「それに、たぶん、何だっけ……? あの、パパ活してそうなふたり?」
「パパ活してそうって、めちゃくちゃ言うな、お前」
と、西京と瑠璃光寺について話をしようとするも、名前が出てこなくなる。
そのまま続けて、
「あ、あ……? そう言えば、西京と、瑠璃光寺だったよね? 彼らの、名前」
「ああ……」
と、ジェラート大佐は思い出して、
「まさか、同じ、こだま号に乗ってくるなんて、思ってないじゃん」
「まあ、偶々(たまたま)じゃ、ねぇのか?」
「いや、流石に、それは薄くないかい? アレじゃ、ない? 妖狐から、僕たちの情報を得たとか」
「妖狐から、ねぇ……」
と、ムカイが相づちし、
「まあ、僕たちに関する、詳しい情報は分からなくても、さ? 少なくとも、何者かが、こっちの世界に来たくらいはわかるじゃん? 妖狐にとっては、それぐらいのことは?」
「まあ、そうだろうな」
「それで、西京たちの、特別調査課――だったかい? 東京駅の近くに、あるじゃん? だから、こんなにもすぐに……、なおかつ、ピンポイントに、僕たちの乗っている『こだま317号』まで来て、さ? 調査できているんだろうね」
「フン、そんな、東京駅から出発するからだろ。もっと、微妙な駅から出発して、東北とか、別の方面から攻めたほうが良かったんじゃねぇか? それか、俺と、二手に分かれて」
「う~ん……、そうすれば、良かったなぁ……」
ジェラートが、「あっ、ちゃぁ~……」と、詰めが悪かったなと言いつつ、
「まあ、“今回は”……、別に、いっかぁ……」
「まあ、な――」
ふたりは、意味深に、言葉を交わす。
また、ひと呼吸ほど間をおいて、
「計画では、さぁ……」
と、ジェラート大佐が話す。
「どこか、“足がかりとなる場所”を、陣取る――」
「……」
ムカイが、チラリ……と見ながら、黙って耳を傾ける。
「そこから、強力な寒気と、莫大な量の雪から、倍々に兵力を増強させる――」
「……」
「“それ”を以って、例えば、米原・関ケ原からであれば……、まず、近くの関西、名古屋に向けて、攻撃を行う。強烈な降雪と、砲撃によって凍りつき、機能不全に陥る名古屋を占拠し……、そこを、また“足がかり”にして、さらに東へと進攻する――」
「……」
と、ここまで、ムカイは聞いて、
「熱海とか、箱根とか……、あの辺じゃ、ダメだったのかよ? 東海道、方面だと。いちおう、多少は、雪は降るだろ? あの辺は、」
と、逆に質問した。
「まあ、そうだけどさ……、それでも、足りないと思うよ」
ジェラート大佐は答える。
「そう、か」
「うん。何だかんだ言って、さ? 東京、関東平野って、守りが硬いからねぇ~」
「まあ、帝都だったしな」
「うん。第二次世界大戦でも、米軍が、本土上陸の作戦をいくつか考案していたんだけどね……。その中でも、関東平野に上陸して、東京に進軍するって計画も、あったんだけど……、さすがに、関東平野から、東京を攻めるのは、キツそうだねって、話になったらしくてね」
「まあ、その前に、戦争終わっちまったけどな」
と、ムカイが、言葉をはさむ。




