42 小型で、折り畳み式の――しかしながら、即席で塹壕や“かまくら”を作ったり、近接戦用の武器にしてもヨシ、あるいは投てきしてもヨシ、しまいには、調理に用いてもヨシ――!! の、まさに万能アイテム
(1)
場面は変わって――
関ケ原にて、立ち往生して雪に埋まる新幹線を見下ろす形で――、2キロメートルほどは離れている、雪山にて――
先ほどまでF35戦闘機に乗って航行中だった、警察は特別調査課の室長こと、松本清水子の姿があった。
なお、その松本の装いはというと、いつの間にか白づくめの、いかにも軍用戦闘に適した衣装を身にまとっていた、
「は、ぁ……」
松本は、ため息をしながら、
「くっ、そぉ……、何で、“こんなこと”、しんといかないわけ」
と、ボヤいた。
ぼやきながらも、まるで、雪に潜むシモ・ヘイヘを彷彿とさせる、白づくめの戦闘装束に身を包んだ松本が手にしていたもの――
白く塗られ、反射光も極限に抑えられたスナイパーライフル。
“それ”によって、“先ほどの狙撃”をやってみせたのは、この松本であった。
それも、妖力仕込みの弾丸を、ムカイとジェラート大佐に向けて、シモ・ヘイヘもビックリなほどの精密射撃を――
とはいえ、その先ほどの先ほどくらいの、2、30分くらい前には、『こち亀』並みのカジュアルさで名古屋の上空をF35戦闘機で飛行していた松本である。
それが、気がついた時には、こんな関ケ原を見下ろす雪山の山腹で、シモ・ヘイヘまがいのことをしているという。
ゆえに、ここに至るまでを振り返ると、こうである――
******
――キ、ィィン……!!
と、360°の白一面、眩惑するような吹雪の中――ジェットエンジンの音がかき消されそうになりながらも、F35を操縦する松本は、関ケ原に近づいていた。
ホワイトアウトしそうな中、伊吹山の、山頂付近が見えてきた。
すると、
『――そろそろ、だぞ。更年期』
と、無線から、妖狐の声がした。
「ああ? てか、だから、更年期やめろっての。殺すぞ」
松本が、もはやキレ芸のような、デフォルトな反応をする。
反応しつつ、続けて
「――で、あいつらの近くまで着いたから、どうすんの? このまま、降りろってわけ?」
『ああ』
と、松本が聞くと、単刀直入すぎる答えが返ってきた。
すなわち、ここから、降下しろというわけである。
そうすると、
「いや? じゃあ、“この機体”は、どうするわけ?」
と、“当たりまえの疑問”を、松本は口にした。
いちおうは、操縦をしている自分。
それが、操縦士が“いなくなった”あとは、どうするのか――?
かつて、操縦士が脱出してしまったソ連の戦闘機が、そのまま真っ直ぐ飛び続け、オランダかどこかの民家に突っ込んだという事件を思い出す。
もしくは、オート・パイロット機能はあるのだろうが、こんな吹雪の中で最寄りの基地・飛行場まで着陸してくれるまで、AIというか自動運転――、否、自動操縦技術は進歩したのだろうか?
そのように考えていると、
『まあ、心配をするな。あとは、我が妖力とで……、近くの、自衛隊の基地にでも着陸させる』
と、妖狐が言った。
「いや、無人機の着陸て、」
松本が、つっこみたくも気がかりになる。
F35機体が、緊急着陸してきたはいいものの、フタを開けてみれば操縦士が乗っていないという。
ちょっとした、ミステリというか、ホラー感の漂う絵面が想像される。
そこへ、
『まあ、ちょっとした騒ぎくらいにはなるだろうが……、いまは、そうは言ってる暇はない』
妖狐が、やむを得ないと言ってきた。
「まあ、な、」
と、そこは、松本も認めるところである。
『いま現在、西京のヤツらが、冷界人たちに追われておる――』
「……」
と、妖狐の言葉に、松本も緊迫して、
『ゆえに、早急に、サポートしてやる必要がある』
「ああ……」
と、頷いた。
ただ、頷きつつも、
「――てか? そしたら、そもそも、アンタだけでよくね? 何で? 私まで?」
と、今さらながら、つっこんで聞くと、
『ふむ。いいから、降りるのだ』
と、妖狐の言葉とともに、
――ふ、わっ……
と、松本の身体が、操縦席から浮いた。
「わ、わっ――!?」
松本が、思わず驚くと同時に、
――パ、カッ――
と、キャノピーまでも開く。
そうして、
「お、おい!! タヌキッ!!」
『ふむ。その、“まさか”だ――』
「いや、まさかなんて言ってないし!!」
と、「まさか」なんて言ってないものの、予感を察した松本が叫ぶ。
そうして、
――ブ、ワンッ――!!
と、松本は宙へと――、吹雪く伊吹山・関ケ原の上空へと放り出される!!
――ヒュゥゥッー――!!
と、降下しながら、
「うっわッ!! さっむ!!」
寒さに思わず声を上げつつ、
「――てか、このままどうすんだよ!!」
『ふむ。どこか、ジェラート大佐のヤツらを見下ろせる、山の中腹がよいだろおうな』
「いや、場所じゃなくて!! どう、降りんだよ!!」
『まあ、貴様なら、問題なかろう? 下は、雪だし』
「問題なかろうじゃねぇよ!! 雪だし、じゃねぇよ!!」
と、さらりと答える妖狐に、松本はキレつっこみをする。
まあ、この松本清水子も、異能力を使える側の人間であるから、べつに、高所から着地、着雪できなくもない。
まあ、高度千メートル以上からの雪面への降下など、どんな第二次大戦中の逸話かという話であるが。
――とはいえ、あと数百メートルを切った直前のところで、
――バァッ、サァァッ――!!
と、そこはちゃんと、“パラシュートらしきもの”が――、魔界植物の、形状がパラシュートみたいな大きな白い花が、松本の背中から開いた。
「おっ――!?」
松本は驚く。
突然の“パラシュート”が開いたことと、人間を疑うような性格の妖狐が、いちおうパラシュートを召還してくれたことの両方に対してであるが。
すなわち、半分本気で、そのままパラシュート無しで雪面に着雪するつもりでいたのだが。
それはさておき、
――ヒュー……
と、敵に察知されない充分な低空から、ゆっくり降下し、
――ス、トンッ……
と、松本は着雪した。
その着地着雪の様は、さながら戦闘のプロの空挺隊員と比べても見事である。
ふだんは、半ばキレ芸のようにデスク仕事しているのがデフォなものの、行動力と戦闘力も相応に高いことが見て取れる。
それはさておき、
「ふぅ……」
と、松本は体勢を整えつつ、降下後の一服のように、ため息した。
同時に、
――フ、ァァン……
と、松本の身に、“白いオーラ”が、まるでスキャンするように足元から頭まで“走った”。
「ん――?」
松本が、ハテナマークを浮かべると同時に気がつく。
白いオーラのスキャンとともに、松本の身にまとう上下の衣装が――、白一色の、雪中戦用の装備ともいえるものへと変化していく。
それに伴って、
「あれ? 寒く、なくなった……?」
と、先ほどまで感じていた寒さが、一切合切、感じなくなっていた。
また、衣装とともに、
――ジャ、カッ――
と、松本の手元には、スナイパー・ライフル。
「あ、ん……? ライ、フル、と……、これは?」
そして、小型で、折り畳み式の――しかしながら、即席で塹壕や“かまくら”を作ったり、近接戦用の武器にしてもヨシ、あるいは投てきしてもヨシ、しまいには、調理に用いてもヨシ――!! の、まさに万能アイテム。
すなわち、白く塗られた、軍用スコップ、あるいは軍用シャベルであった。
それらを、手に取って確認しつつ、
「ん、だよ? これで、戦えってことかよ?」
松本が、顔をしかめて聞くと、
『もち、』
との答えが、返ってきた。
「もち、じゃねぇっての、クソが、」
松本が、露骨に「クソが、」と吐き捨てながら、
『とりあえず、いま、あのパパ活コンビがピンチだろう。それで、援護射撃ならぬ、援護の狙撃でもしてやるのだ』
「はぁ、」
と、ダルそうに返事をしつつ、
『そのあとは、ヤツらの頭――、ジェラート大佐とやらを狙え』
「あ、ぁ? そんで、お前はどうすんだよ?」
『ふむ。それで攪乱したうえで、私が、ジェラートのヤツを制圧しにかかろう』




