4 ちなみに、るりさんは、何が好きなんだい? 僕は、ラムレーズンか、チョコレーズン何だけど
(1)
正午、すこし過ぎ――
東京駅――
西京太郎と瑠璃光寺玉のふたりは、さっそく、東京駅へと調査に赴いていた。
特別調査課にあるVR室――大規模なスパコンや量子コンピュータを組み合わせた情報蒐集・分析施設――と、妖狐の妖力と連携することで、アベックたちの位置はつかんでいた。
それによると、彼らは、まだ東京駅にいるとのことである。
「やれやれ……、東京駅とは、ね」
西京が言って、
「はい」
と、瑠璃光寺がうなづいた。
「まあ、もともと、駅弁を買いに行く予定だったんだけどね」
「ですね」
と、ふたりは単調に言葉をかわしながらも、アベックたちがいるであろう、だいたいの場所へと向かう。
「駅弁、買えますかねえ?」
瑠璃光寺がここで、駅弁の心配する。
「そうだよね、買えないと、困っちゃうよね。まあ、彼ら、アベックたちが、どう動くかにもよるかな」
西京が、答える。
このふたりは、調査対象のアベックよりも、駅弁のほうが気になるようである。
そうして歩いているうちに、
「――ん? あれ……、ですかね?」
と、まず、瑠璃光寺が気がつき、
「う、ん――?」
ここで、西京も、“その姿”を見つけた。
すなわち、ふたりの目線の先、15から20メートルほどのところに、例のアベックの姿があった。
北欧メルヘンの世界から出てきたような、ややカラフルな白地に、袖や襟まわりには金の装飾。
そして、同じようにカラフルな、ロシア帽――
「何か、メルヘンの、王子様か、貴公子のみたいな雰囲気ですね」
瑠璃光寺が言った。
「まあ、そうだねぇ」
西京が、とりあえず相槌する。
また、隣の女の姿も確認する。
黒の、高級そうな毛皮のコートに、毛皮の帽子。
ブロンドヘアの男とは違って黒髪だが、その肌も、白かった。
「何か、相方の女の人も、絵画にでも出てきそう」
「う、ん……」
瑠璃光寺に、西京が微妙な相づちをする。
そのようにして、アベックたちの姿を確認している中、
「――ん?」
瑠璃光寺が、ふと、“何か”に気がづいた。
「たろ、さん?」
「うん? どうしたん、だい?」
そうして、恐る恐ると、
「“あれ”って……、アイス、ですよね?」
「アイ、ス……? ッ――!?」
ふたりは、ロシア帽の男の手に、アイスがあることを確認する。
鋭い円錐をひっくり返したような、色とりどりのアイスを3つほど、
「あれ? 17アイスです、よね?」
「うん。みたいだね……。カプリコじゃ、なければね……」
ふたりは、互いに確認する。
まあ、カプリコではないだろう。
「しかも、17アイスを、3つも、いっぺんにですか……」
「う、む……」
ふたりは、男がアイスを3つも持っていることに、半ば驚愕する。
「これは、冷気を司る異界人だからあろうか? それとも、単純にアイスが、好きなんだろうか?」
「まあ、31でも、3つくらい乗っけますもんね。アイスクリーム好きだと、ありえる範疇、ですかね……」
「ちなみに、るりさんは、何が好きなんだい? 僕は、ラムレーズンか、チョコレーズン何だけど」
「そう、ですねぇ……、私も、ラムレーズンは好きなほうなんですけど、抹茶ですかね。最近だと、抹茶ストロベリーが、良いですね」
などと、ふたりはいつの間にか、アイスクリームについての話題に変わる。
また、ここで、
――ヴヴ、ヴ、ヴ……!
と、西京のスマホが振動した。
「おっ、松もっちゃんからか」
「ああ、」
と、電話の主が、松本清水子であることを確認する。
それを、インカムでの通話に切り替える。
『お~い、どうだぁ? 西京?』
松本が、聞いてきた。
「ああ、今ねぇ、いちおう、“彼ら”の姿を捕捉したよ」
西京は電話でやり取りしながらも、改札口へと入る。
「いま、ちょうど、改札をくぐってさ」
『うい。そのまま追ってよ』
と、カップルもとい、アベックのあとを追う。
しばらく歩くこと、彼らは新幹線の改札口へと向かっており、
「どうやら、新幹線乗り場に行くみたいだね」
『ほう、』
と、ここで、
「新幹線、ですか?」
と、隣の瑠璃光寺が、西京の言葉に反応した。
「どの新幹線に、乗るんですかね?」
その、瑠璃光寺の言葉を聞いて、
『まあ、どれでもいいよ。うちら、調査目的だったら、どの新幹線にも乗れるじゃん』
と、松本が答えた。
まあ、西京たちの特別調査課であるが、調査・捜査目的であれば、政治家先生がするように、新幹線でも特急でも乗り放題であるという。
「そしたら、さ? 松もっちゃん、僕たち、駅弁買っていいかい?」
『ああ、早く買えよ。それで逃したら、殺すかんな』
「そんな、物騒な、」
西京が松本と話しつつ、
「瑠璃さん、ちょっと、取り急ぎ、駅弁を頼む」
「琵琶湖の、水止めたろか弁当ですね!」
「うん。とりあえず2つ」
と、瑠璃光寺に駅弁を頼む。
その間も、西京は、アベックの姿を追い続ける。
そうしてしばらくして、
「太郎さん! 買ってきました!」
「ああ、ありがとう」
と、瑠璃光寺が戻ってくる。
また、タイミングよく、アベックも動く。
彼らは、階段でホームへと向かう。
その後を、西京と瑠璃光寺も追う。
そうして、ホームで列車を待つ姿を確認するに
「う、うん……?」
西京は、怪訝な顔をした。
「こだま号、か?」
と、電光掲示板と併せて確認するに、このまま待っていて来る列車は、のぞみでも、ひかりでもなく、こだま号であるようで、
「どうやら……、彼らは、こだま317号に乗るようだね」
『ああ”? こだま、だって?』