28 やっぱり空も飛べるはず
(6)
場面は、変わってのこと。
――キ、ィィ……、ン……!!
と、少し静かにして、音が“後方”へと流れていく。
楕円のように湾曲した、“ガラス面のようなナニカ”――。
車窓のように見える外の様子はというと、吹雪きによってホワイトアウトするところと、その所々(ところどころ)の合間からは、富士山を含め、東海道の山々が“下のほう”で流れていく様が、チラリと覗く。
すなわち――、特別調査課の室長こと、松本清水子は空中にいた。
まあ、何が『すなわち』かという話であるのだが、車窓に見立てたキャノピーに、およそ込み合った新幹線並みに窮屈ではあるものの、比べ物にならないほどのい金額の費やされた、最新鋭のグラス・コックピット席――
そうである――
ここでふたたび、すなわちのこと、空中は空中でも、松本がいるのは、ジェット戦闘機の操縦席。
そして、その機種はというと、
「――ったく、何で? F35、だってんだよ?」
と、やれやれとボヤいたように、まさに最新鋭のステルス単発戦闘機こと、F35戦闘機だった。
まあ、何ゆえに、こんなF35に乗っているのかはさておき、松本が言ったのに対して、
『ふむ。仕方なかろう。貴様が物理的に、最速かつ、隠密に現場に行くには……、“こいつ”しか無かろうに』
と、声が、無線を通じて答えてきた。
松本は、同時にチラッと、横を見た。
F35から、少しだけ離れたところの空。
そこには、やっぱり空も飛べるはずの設定の、妖狐こと神楽坂文の姿があった
「まあ、そうだけどよ、」
松本は、すこし何か言いたそうに返した。
ちなみに、この松本であるが、万が一の際のためのあらゆる学習や訓練をしており、戦闘機の操縦もできないこともない。
そうした能力と、VR室の零泉によるサポート、また、妖狐の妖力により、このF35の飛行を可能としている。
ただ、ここで少し疑問が残る。
というのは、つい先ほどまでは、東京は丸の内の、特別調査課の建物内にいたはずの松本である。
そこから、静岡の東側を飛行しているわけであり、あまりにも場面が飛び過ぎている感は否めない。
ゆえに、その経緯はというと、こうである――
******
すこし、時間は戻って――
東京、丸の内にある特別調査課の、松本の調査室にて。
スマホを手にしながら、松本清水子は眉をよせたキレ顔で、その通話を聞いていた。
『さあ、無理ぽよー!! おぉー、手ぇ上げぽよー!! ――と、泣きつくのだ、更年期。あっ? ちなみに、今日で、便秘何日目なのだ?』
と、ここでも聞こえた声は、妖狐の神楽坂文の声である。
やや煽りの入ったような声、無いように、
「あぁ”!? ブチ殺すぞ!! こんの、くそポンコツくそダヌキ!!」
と、松本がデスクを
――ド、ンッ――!!
と叩きかねない勢いで、キレてみせる。
それを見て、
「「ひッ!? ひぃぃッ!!」」
と、部下の零泉円子と黒桐廉太郎がビクッ――!! と驚き、ふたりして身を寄せ合うようにして怯える。
そんな部下たちをよそに、
「てか? 何なんだよ、「ぽよ」って? ふざけてんのか、コラ?」
松本が、まだキレ顔で言う。
『フハハ、まあ、そういきり立つな』
「いきり立つなじゃねぇよ、死ねよ」
『ふむ? では、どうする? 私の助けは、要らないってことでよいのか? というか、いつも、ちゃっかり私の妖力を少し使っているだろう、貴様たち』
「おめえも、人んとこのVR室、勝手に使ってんだろが、タヌキ」
と、松本と妖狐は少しやり合いながら、
『それで、どうするのだ? ああ? あと、何日便秘してるのかも、ちゃんと答えるのを忘れずにな』
「それ聞いてどうすんだよ? てか、デリカシーなさすぎだろ、死ねよ」
松本は、イラっとしながら答える。
答えつつも、同時に松本は考える――
まあ、殺意の湧くような妖狐であるが……、とはいえ、このタヌキに頼るしか、恐らくは、打つ手は無い。
もし、ジェラート大佐ら冷界人たちの動きが急展開をみせ、その能力というのが、自分たちの想像以上のものであるとすれば――
「……」
と、松本は顎に手をあてながら、頭の中で、シミュレーションしてみる。
いま、米原‐関ケ原周辺に降る、大量の雪。
それをもとにして、ジェラート大佐らが、いっきに兵力を増大させるとする。
そうすると、最悪の場合、半日もしくは数時間内に、中京から関西地区に侵攻する――、すなわち、京都、大阪、名古屋を含めた大都市を凍らせ、甚大な雪をもたらし、機能不全にする。
そうして、そこまで拡大し、占拠した冷界の兵力が……、もしかすると、次の日か二日後には、東京に迫るのかもしれない。
そのように想定すると、今回の追跡調査というのは、心底、“甘かった”ことになる。
すこしでも、“そうする可能性”というものが在るのであれば、強引にでも、先んじてアベックたちを捕まえるべく、動けばよかったのかもしれない。
まあ、まだ、“コト”は起きてないから何とも言えない。
それに、そこまでできる人手が、この特別調査課にあるかというと、怪しい。
ちなみに、刑事ドラマのように、何かコトが起きてから調べるだけでなく、『コトが起きる前に、未然に防ぐ』というのも、この特別調査課の任務である。
まあ、そんな、アニメ『サイコパス』のようなものを求められても困るのだが、“それ”に通ずるような調査をしなければならない。




