18 ジェラート大佐は、食いかけのスイカバーを手に、某論破の人がするように両手をワシャワシャと
そうしながら、
「もし、いま、選べと言われたら――」
「う、ん?」
「どちらに、なさいますか? 大佐?」
と、黒づくめの女は聞いてみると、
「え、ぇ~……!?」
ジェラート大佐は、少しヘラヘラしながらも、嫌そうに顔を歪めて、
「いやぁ~……、決めるのは、さすがに、今じゃないでしょ、」
「あら? “無い選択肢”を、出されますとは」
「いや、いや、まだ、いま決めなくてもいいっしょ」
ジェラート大佐は、食いかけのスイカバーを手に、某論破の人がするように両手をワシャワシャと振る。
いったん、すこし落ち着いて、
「強いて言うなら、まあ、“どっちでもいい”――って答えに、しようか?」
「どっちでもいい――、……それは、デートのときに、いちばん困る答えですね。だから、大佐は、モテないのではないですか? 顔は、そんなにもハンサムなのに」
「おいおい、ヒドイこと言うねぇ」
ジェラート大佐は、身振りしながら、
「まあ、どっちでも、動くことはできるし……、それに、もし、“やる”なら“やる”で、その直前の直前まで……、あのふたりに、勘づかれても、めんどいからね」
「それは、そうですね」
と、ここは、黒づくめの女も頷く。
「どちらでも良い状態で、直前まで、無心でいる――。“これ”は、ね? 将棋でも、ポーカーでも、何でも勝負ごとでね、相手に読まれないために、重要な心構え何だよ」
「は、ぁ……。何か、それっぽいこと、言ってるだけのように聞こえますが」
何かそれっぽいことを言うジェラート大佐に、今度は、女は気の抜けた相づちをすると、
「そ、そんなこと、ないさ……! あ、アレだよ、アレ……! 敵を知り、己を知るとかいう、逆に、敵に“知られる”ってのは……、情報戦をふくめた、あらゆる戦いごとにおいては、すこし気をつけるべきことでね」
「はぁ、」
「まあ、意図的に間違った情報を伝えて混乱させるというならまだしも、できるなら、敵に、『我々がどう行動するか』という情報を、知られないほうがいい」
「それは、そうですね」
「なので、さ? 敢えて、『どうするか?』を、決めないんだよ。自分たちでも自分たちのことが分からない――、これは、量子の、不確定性にも通ずる境地だよ」
「いや、不確定性とか、大げさに言って……、優柔不断で、決断力と計画性の無いことの、こじつけのように聞こえますが」
「う、ぐっ……!」
ジェラート大佐は、痛いところをつかれた声を出す。
「ま、まあ……、でも、僕たちは、工作員として動いているからね。気まぐれで行き当たりばったりで旅をしているアベックっていう設定も、ありっちゃ、ありじゃないかい」
「はぁ、」
めげずに言うジェラート大佐に、女は適当に相づちをする。
そうしながら、
「まあ、でも? そうだね? とりあえず、彼を――」
「……」
「“ムカイ”を、動かそうかな♪」
「ああ、」
と、新たに出された“ムカイ”との呼び名に、黒づくめの女はピンときた。