17 『ぬわん』なんて、そんな、夜の合宿所の空手部の男子みたいな声を出して
(3)
名古屋駅を控えて――
「……」
と、ジェラート大佐は、考える。
ジッ……と、アイスを手に構えながらも、若い見た目ながらも、いちおうは大佐という地位に見合う空気感。
しかし、次の瞬間、
「ぬっ、わぁぁん……! どう、すっかなぁ!」
と、変顔が混じりながら、思わず声をあげた。
それを見て、隣の黒づくめの女が、
「どうしたんですか、大佐? 『ぬわん』なんて、そんな、夜の合宿所の空手部の男子みたいな声を出して」
「いやぁ、どうしたもこうしたもねぇ……、ぬわぁぁん……!」
「大佐ともあろうかたが、そんな、なさけない声を出さないでくださいよ」
「いや、だって、だってぇ、」
「それに、我々は今、追跡されているんですから……、目立つような声は控えてください」
「ああ、それも、そうだったね」
と、目まぐるしく表情を変えるジェラート大佐に、注意をした。
まあ、この見た目の服装に、常人レベルを超えた数のアイスを食うという奇行レベルのことをしておいて、今さら感はあるが。
そうしながらも、
「……」
と、ジェラート大佐は、西京たちのほうをチラリと見た。
「やれやれ、この、こだま号に乗ってすぐ、追跡されるなんてね」
「我々のことを調査する者が出てきてもおかしくないとは思ってましたけど、こんなに、すぐ来るとは、予想外ですね」
「うん。こっちの世界に、僕らが来た時点で、“何者か”が、察知したのかなぁ?」
「そうしますと、やはり、何か“人智を超えた調査力”を持っている何者かが、居ることに、なるのでしょうか?」
と、さすがというべきか? ジェラート大佐と黒づくめのふたりは、薄っすらと、“妖狐”の存在に気がつく。
「だよねー。だって、あの、何だっけ……? ――ああ! アレだよ、アレ! パパ活してそうな二人組だよね! まさか、あの二人組が、そんな力を持っているなんて、想像しにくいよね」
「はぁ、」
どこで、“その言葉”を知ったのか? 西京と瑠璃光寺のことを小バカにするジェラート大佐に、黒づくめの女が冷めた相づちをする。
そうしつつ、
「まあ、その、パパ活コンビってバカにするのはおいてだ……」
「はい」
と、気を取り直して、
「とりあえず、今ここに――、この、こだま317号だったかな――? に居るのは、あのふたりと……、たぶん、それに協力している、鉄道警察と警備員だね」
「ええ」
と、ジェラート大佐と秘書の女は、簡易的ながら、現場にいる西京たちの戦力を把握する。
そのうえで、
「とりあえず、“彼ら”か、“彼ら以外”にも……、その、“何らかの調査力を持った存在”が、いる可能性がある……」
「はい」
「そうすると……、今回の調査をもとに、次回に、作戦を実行する場合、簡単にはできなくなるかもしれないね」
「その可能性は……、ありますね」
と、松本清水子たちが考えていたように、ジェラート大佐たちも同じような考えに至った。
「それに、こちらの世界で、“それ”を実行できるのにも、時間的に限りがありますね」
「ああ、そうだねぇ。冬の、充分に、雪が降ってくれる間でないとね。まあ、冬将軍が冬将軍としての力を発揮できるのは、冬に限られる。当たり前、だよねぇ」
ここも、やはり、ジェラート大佐たち冷界世界の者たちが力を発揮できるのも、条件が限られているというのも、当たっていた。
そのように、
「う~ん……、そうすると、ちょっと、悩ましいねぇ……」
と、ジェラート大佐は考えながら、
――パカッ……
と、キャリーケースから、アイスを取り出した。
鋭角な、二等辺三角形という形状に、すこしの緑と赤いアイス――
すなわち、
「あれ? この、アイスは?」
「うん。スイカ・バー、さ♪」
「スイカ・バーなんて、また、季節外れですね」
「まあ、いいじゃないか♪」
と、スイカ・バーであった。
なお、そもそも、こんなアイスを食いまくっている時点で、季節感もへったくれもないのであるが。
それはさておき、
「う~ん……、そうすると? ちょっと、悩ましいねぇ……」
「そう、ですね」
「前もって対策されることを前提に、次回やるか……、それとも、今でしょ――? か……」
「今でしょ?」
「うん。『今でしょ!』か、『今じゃないでしょ!』――の、二択」
と、ジェラート大佐たちは、“喫緊の課題”を突きつけられる。