15 「やりますねぇ!」のように相槌
ひと呼吸、間をおいて、
「それ、じゃあ……? 逆に、これから走る区間の中に、彼らの狙いがある――? って、ことですか?」
「そういうことに……、なるかも、しれないね……」
西京が、どこか意味深そうに、ゆるりと答える。
また、瑠璃光寺が、
「あと、東海道新幹線の残る駅は……、名古屋、岐阜、羽島? 京都、新大阪……、でしたっけ?」
と、指で数えるように、駅名を上げていくと、
「あっ――? 米原、飛ばしだね」
「米、ば――、ああ……」
と、西京からの指摘で、合点がいった。
「そう言えば、昼に食べた、『琵琶湖の水止めたろか弁当』も、米原でしたよね」
「うん。まあ、アレは琵琶湖の郷土料理だから、ちょっと、琵琶湖からは外れているけどね」
などと、昼の、駅弁のことを思い出しつつ、
「ああ、ちょうど、米原で思い出した」
「ん? 他に、何か思い出したんですか? 太郎さん?」
「うん。さっきの、彼らアベックたちが、コトを起こす可能性がある場所についての話をね」
「ああ、その話の、続きですよね」
「うん。冷界人の彼らが、何か、工作活動や作戦を行うにしても……、強い冷気や、そこそこ大量の雪が必要だって、話をしたよね」
「ええ。でも、それと、米原が……、――ああっ……!」
と、瑠璃光寺も、ここでピンときた。
「そう。冬に、東海道新幹線に乗ったときのことを思い出してみるといい。米原から、関ケ原の間かな? あの、伊吹山が見える」
「ありますねぇ」
瑠璃光寺が、「やりますねぇ!」のように相槌する。
まあ、「見えるよね?」との問いの答えに、「ありますねぇ」とは、少しというか、わりかし可笑しい答えなのであるが。
この瑠璃光寺も、まともなようで、ちょっとヤバいヤツなのかもしれない。
その瑠璃光寺が、続けて、
「確かに、名古屋、岐阜駅までは雪が積もってなくても、関ケ原あたりから、急に降り出したり、積もったりしてますもんね。あれ、ちょっと、最初はビックリしますよね」
「うん。ビックリするね」
西京が。「お前は本当にビックリするのか?」と、問い詰めたくなるような軽い返事をする。
「それで、この岐阜、羽島駅でしたっけ――? そこから米原駅までの間が、怪しいってことです、よね?
「まあ、その可能性が、あり得るって程度だけど……、少し、気をつけておいたほうがいいかもしれないね」
(2)
同じころ――
東京、丸の内――
「――そろそろ、名古屋か……」
と、松本清水子たちも、西京たちの乗る『こだま317号』の動向を追っていた。
その運行は、とくにトラブルなどで遅れることもなく、順調であった。
また、西京からのチャットの報告を見るに、
「いまのところ、冷界人の連中も、何も動きがないようだな」
と、確認する。
「今回は、ただの調査、というだけ、なんですかね……?」
同じ情報を確認しながら、部下の黒桐廉太郎が聞いてくる。
「う~ん……」
松本は、本日は2本目なのか、ドクターペッパーを片手に天井を仰ぎつつ、
「まあ、今回は、何もしないのかもしれないけどさ? ただ、ワンちゃん、あいつらが追っているカップルが、『私たちから調査されていること』に、気がついてしまった可能性があるとするじゃん?」
「私たちから調査されていることに、気がついた、ですか……?」
と、黒桐が聞き返すと、
「まあ、簡単に言いかえると、冷界人たちがウチらの、西京とるりカスのヤツに気がついたと仮定する」
「る、るりカスて、」
「ああ”? 何か、言ったか? 円子?」
「い、いえッ……! 滅相、無いっす!」
と、零泉円子が『るりカス』の言葉に反応しつつも、松本にビビって否定する。
「まあ、話を続けると、さ? そうすると、ちょっと、話が変わってくる可能性があってな――」
「話が、変わってくる……、ですか?」
と、黒桐が聞き返し、
「うん。まあ、仮定の話なんだけど、さ? もし、当初の彼らの予定が、今回は調査だけにして、次回に改めて、どこかで工作活動だったり攻撃を企てる予定だった――と、すんじゃん?」
「はい」
「それが、西京はんたちに気がついてしまったことで、変わる可能性があるってことっすよね」
「おうよ。てか、あいつらも、気づかれんなって話なんだけど」
「「ま、まあ、」」
と、西京たちのことを振られて、零泉と黒桐は、気まずそうに相槌した。